漆条 鵺琳たちの反撃
鵺琳、冬林檎との作戦会議は、0時を回ってもまだ続いた。それから数日後。
「…莉羅お姉ちゃん、おはよう」
「おはよ」
知人の美玖を殺された事に、ようやく折り合いがついた莉羅は、少し元気を取り戻していた。
「ねぇ、久し振りに撮影しない?」
「優那ちゃん…、いいよ」
莉羅は元気が無かった。元気づけの為かな?そう莉羅は思った。
台本は、鵺琳と冬林檎に作ってもらったものだった。
『みなさーん!こんにちは!優那でーす!』
『莉羅です』
『今日の夕方、とある山でキャンプと生配信をしたいと思いまーす!見に来てね!』
『…』
配信はその後も雑談含めて、30分で終わった。
これには大きな作戦があった。
「…まじで、冬林檎さんって優秀なんだね!」
「はは、まぁ」
冬林檎と鵺琳の作戦。それは単純明快な罠で村瀬を捕らえる。今回は敢えて事件現場で、生配信をするのだ。そこで、警察お付きで罠を仕掛ける。そんな事を可能にさせる冬林檎には、本当に頭が上がらない。
「上川田、木の棒は乾かしておいてください。しなれば、体重が掛かっても折れる可能性が少ない」
「いえっさー」
「綾之助!落し穴に刺す。木の棒を折りまくれ!」
「あーい!」
鵺琳と冬林檎は、指示をこなし着々と罠を作る。
「栗花落刑事、捜査員から人影の報告は?」
「ない。安心して良いぞ」
「ありがとう。そうするよ」
万が一のことを極限まで0にする。もしもの為に監視がいないかを、捜査員に監視させているのだ。この罠を仕掛けられる場面を目撃されれば、作戦の意味がない。
「照明器具の置き場には、落し穴とブービートラップは仕掛けるなよ!地図通りに!!」
『了解!』
昼間は、内通者も仕事に出ている。その隙に安全な村民を協力させている。
「ここは照明置くばい!綾之助くんは、もう少し離れたとこに」
「うん!」
寛介の協力もあり、少しずつ完成していく。
(…あとは)
冬林檎のやる対策はあと1つ。
「…よし!」
それを施した冬林檎たちは、すぐに山を下りた。警察官も一旦はその場から退散した。
そして夕方。いよいよ、勝負の時だ。
『やってきましたぁー!吹羅谷湖近くのキャンプ場!』
罠を仕掛けて8時間後の午後7時。莉羅と優那は、予告通り撮影にやってきた。
『…さてさて〜、まずは美味しそうなキャンプ飯でも…』
そんな彼女たちを…やっぱり狙っていた。
村瀬が拳銃にサイレンサーを取り付ける。それを撮影器具へと定める。
パシュッ!!
それは暗闇の中、レンズを正確に撃ち抜いた。ガラスの破片が土埃に消える。
その音を捕らえた優那は、ポケットに潜ませたスマホを押す。連絡先は、待機している鵺琳たちだ。
「…え、ど、ど、どうしよう!?」
一方の莉羅は怖がっている。当然だ。
すると、優那は莉羅の手を握る。そしてとある方向へと消える。辺りは暗闇。照明の光から消え去った2人を、村瀬は仕方なく追い掛ける。
(ちっ、手間掛けさせやがって!)
しかし、奴は知らない…。
刹那、奴の足が悲鳴を上げる。
ゴキッ!?
「がぁあっ!?」
小さな落し穴に掛かったのだ。しかもそれは、すり鉢状の小さな穴。足は変形と衝撃に対応できず、捻られてしまった。
「…く、くそっ!警察の捜査前からか!?」
奴は、警察の捜査のせいで、このキャンプ場の下見に来ていない。故に落し穴や罠を知らない。
だが、この程度はガキの悪戯…だと思ったか?
刹那、足の裏を這うような低い矢が、村瀬に襲いかかった。
「あ!?」
発射音が耳を裂く。奴は反射的にジャンプして回避した。だが、矢だとは気づかずに足を躓かせる。ステン!と転んだ奴は、これも偶然だと歩を進める。
「…くそが、足がいてぇ!」
奴は大きな声で叫ぶ。こんな事をしている間にも、優那と莉羅は逃げてしまう。
「…く、くそ!」
その時、大本命が牙を剥く。それは…
「がああー!!!!!!」
1メートル以上もの大落とし穴だ。しかも足元には不規則な長さをした鋭利な枝が刺さっている。
「いでぇええ!?」
暗闇の中、村瀬は、枝なのかすらも分からない。
ズボンの繊維を貫き、靴にも数本の枝が刺さる。奴は這い上がろうとするも、枝が服を貫いていて、中々抜けられなかった。
「…え、枝か。全部抜けた。待ってろよー…」
それから、やっと抜けられる。
「…こんな暗闇の中、山の中を無策で逃げられるわけ無い」
そう思った時だった。
ちゃきっ!硬い何かが頭に当たる。
「バカか。罠に引っかかってる奴が、何言ってるんだ」
「…!?」
それは、銃を持った冬林檎だった。
「お前だな?俺の妹を殺した奴は…」
「…」
狭い穴の中では、銃を抜けない。ましてや、サイレンサーを取り付けていたので尚更だ。
「…ふっ、逃げられないってヤツか。そうだ。俺が…殺した。アンタ、冬林檎鼓斗だろ」
「…そうだ。お前さ、去年プールで茅咲を誘拐しようとしてただろ?」
「可愛かったからなぁ。当然だろうが!」
「……」
奴は変態だ。銃を突きつけられて尚、動揺すらしない。
「そんなクズ、初めて見た…。なら、お前は今、墓穴の中で生涯を終えても文句は言えんな…」
「ふははっ、殺せ!どうせ処妖には辿り着けん」
「…ふん」
次の瞬間、
バンッ!!
彼のリボルバーが火を吹く…。その先からはおびただしい量の赤い何かが飛散した…。




