陸条 2人目の犠牲者
優那と鵺琳を拉致した人物の正体は、謎の剣豪だった。
(どうやら、あの割れたスマホや木刀は証拠隠滅で壊され、メガネや焦げたりして汚れた服は拷問されてできたものってことか…)
鵺琳はようやくそれに気付いた。
次の瞬間、2人の身体に電流が走る。
「…っぐぅ!!!!」
あまりの痛みに死にそうだ。鵺琳は気絶しそうな心臓を必死に動かす。
「死ぬ前に聞きたい。処妖はお前か?」
《あの方ね。私はあの方の下の者》
その時、〈おい〉と体の小さな仮面が言う。
〈…あの方のことは喋るな〉
その人物を見て、鵺琳はもうひとりの仮面の正体に気付いてしまった。
「おい、あいつ文姫だ」
鵺琳が小声で優那に言う。
「えっ!?」
「間違いない。奴め」
すると鵺琳は尻ポケットに何かが入っていたことに気付いた。小型盗聴器。全く気付けなかった。
「…てことは、こいつらが村の内通者か」
まさか、近所の友達が内通者だったとは。逆に気付かなかった。
《鮫ってね、血に反応するんだって。だから正体に近づこうとしたバカを斬って斬って斬りまくって、最後は湖にいる鮫に食ってもらうんだぁ》
仮面の人物は日本刀を、鵺琳の鼻先へと突きつける。死そのものが迫りくる。
「…なるほどね。んじゃあ、茅咲を殺したのも村瀬時雅なのかな?」
その時、背後から声が聞こえる。
その人物に、鵺琳と優那は目を丸める。
「…えっ?」
〈なんだ?〉
そこにいたのは…
旅館に宿泊していた黒服だった。
「は?え、くろ…ふく?」
思わず優那は震えた。それは自分のストーカーに似ていたから。
「…泉愛優那さん、伊吹鵺琳くんの身柄の確保に来た」
〈誰だ!お前ェ!〉
子供が叫んだ。
すると黒服は、その姿を現す。
「どうも、僕はお前ら剣士を追ってきた。未解決事件防止庁の者です」
〈…ふん!〉
しかし、子供は胸元に下げた何かを、彼へと投げつける。それは、石灰だった。
「くっ!」
思わず後ろへ牽く。
《チッ!私たちのことがバレたら、処妖は捕まる!逃げるぞ!》
〈あ、ああ!〉
仮面の人物と子供には…逃げられてしまった。
2人が逃げたあと、黒服はふたりの拘束を解く。
「あ、ありがとう」
「ありがとう…ございます」
すると黒服は優しそうに笑った。
「僕は、冬林檎と申します」
何とか、助かった2人。
しかし、帰ってきた3人に、非情な光景が突きつけられる。
「…え、美玖さん?」
聞いてみれば、美玖が変わり果てた様子で発見されたらしい。
「…そんな」
すると、先ほどの冬林檎が刑事に駆け寄る。
「はっ!!お疲れ様です」
「ああ、お疲れ様です」
刑事は平身低頭に彼を扱った。それでも冬林檎は驕る事ない。
「栗花落刑事、美玖さんは?」
「どうやら、近くの崖で殺されとったらしいです」
「…崖?」
「ええ。喉と胸と下半身辺りを滅多刺しに」
「村瀬の仕業だろうか?遺体、見せていただけませんか?」
「え、まぁ、構いません。あなたなら」
どうやら、冬林檎という人物。かなり警察に顔が利くらしい。それを聞いた鵺琳が、優那の肩をポンポンとたたく。
「…優那ちゃん、悪いけど俺も行く」
「え、どこに?」
「真相の解明さ」
それだけ言って、鵺琳は冬林檎について行く。
美玖の遺体は、凄惨という言葉に似つかわしいほど、酷い有様だった。
「…」
「…!!」
冬林檎がご遺体へ手を合わせる。鵺琳は悔しさで叫びそうになったが、バレたら怒られるので息を殺して手を合わせた。
「…頭部に擦過傷。倒された際にできた傷だ」
「…!!」
鵺琳もあることに気が付いた。
(…手に豆がない)
美玖の手には豆がない。加えて、小指と薬指が細い。これは刀を振っていない証拠だ。
(やはり、美玖さんは文姫のことを知らなかった。つまり、口封じってことか)
それからも、鵺琳は様々な場所を見た。
(…ん?)
すると彼女の首筋に、何かの跡を見つける。
(……これは!!)
その時だった。
「伊吹くん、何か気づいたことでも?」
「!?」
背後から冬林檎に話し掛けられた。
夜中、旅館の部屋にて、冬林檎と鵺琳は、優那を呼び出した。
「莉羅ちゃん、泣いてたけど、たった今寝たよ」
「そうか…」
優那の言葉に、鵺琳も溜息を吐き出す。
「…まず、この部屋に1個だけ盗聴器が仕掛けられていた。それは、未使用の部屋で壊した」
「…マジか」
鵺琳は眉を吊り下げる。
「…田中美玖さん、いや、旧姓は大夏さんだが、彼女と僕は、先輩と後輩の関係だった」
「え?」
その事実に、鵺琳が驚いた。
「…文姫ちゃん…だっけ?文姫ちゃんは未だ行方不明だよ」
「やっぱり…、文姫ちゃん…」
これで文姫が、あの子供仮面の正体だと決定づけられた。
「なぁ、冬林檎さんは、どうして警察の捜査に協力できるんだ?あなたが御遺体を見なければ、俺も遺体を見られなかった」
「…それは…さっきも言ったでしょう?未解決事件防止省の者だと」
「栗花落って刑事も敬ってたし、そんなに偉い立場にいたんですか?」
「ええ。半年前までは…ね」
「半年前?」
「実は、冬林檎茅咲は、僕の妹なんです」
「は?妹?」
冬林檎茅咲。処妖事件最初の被害者だ。凌辱されて殺された。
「…その時、必死に捜査しました。でも、駄目だったんだ。裏で剣士が動いていたから」
「さっきの奴らか。そいつは、殺し屋なのか?」
「たぶん。それで、何度も狙われました。2度交戦して追い払いましたが、それでは他の仲間に被害が及ぶ…」
すると彼は写真を取り出す。
「茅咲は、優那さんに似てるんです。…というか、優那さんの大ファンでした」
「え?」
そこで初めて優那が表情を変えた。
「よかったな。ネット女皇」
「うるさい!」
そして話しは戻る。
「…恐らく、剣士とあなたのストーカーは裏で繋がっています。そうでなければ、鮫を隠すことも…」
「そうだよな…?」
ちょっと待て、鵺琳が声を上げる。
「どうしました?」
「いや、冬林檎さん、鮫のこと知ってたんですか?」
すると彼は頷いて、とんでもない事を言う。
「…先ほどね、あなた達の所へ行く前に、鮫は殺しました」
「…はぁあああ!?」
それは驚きだった。
「そもそも、既に鮫の存在はリークしてます。だから、鮫がもう誰かを襲うことはない」
「…す、すげぇ」
鵺琳と優那は言葉を失った。あまりにも優秀と言うべきだろう。
「それと、渡瀬さんの御遺体も、既に回収されてるはずです。ただ…それは本来あっちゃいけない」
冬林檎は、決意を込めてこう言った。
「…これから、全員を捕まえます。協力してください」
その言葉に、ふたりは迷うことなく頷いた。




