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アイドルと吹羅谷岬の謎  作者: 幻創奏創造団
3/4

参条 怪しい男

※これは犯人側の記憶です。考察等にお使い下さい。


泡沫が少し重い水中を舞う。こぽこぽという音と女の子が藻搔く音だけが聞こえてくる。

だが、すぐに息ができなくなり、水面から顔を上げた男は女の子を溺れさせ続けた。彼女の意識が途絶えるまで何度も。

やがて少女は意識が無くなった。

男は流れ行く川から上がると、冷たくなった少女を岬の見える砂浜めがけて転げ落とした。

少女の遺体は損傷している。まさか…、まさか…、川で溺れ死んだとは思わないだろう。

そして次は…『アイツ』の番だ…。

「やっぱり、ホラーゲームは嫌い!」

優那はスマホで動画を見ていた。エアコンの付いた2階客室は、宿泊客が来ないので優那たち一家が貸し切っている。

「私も釣りに行けば良かったかなぁ」

優那はスマホをポケットへ仕舞い、旅館から近くの釣りのできる川へ歩いて行った。

「…それにしても」

優那は先程の宴会でチラリと見えた宿泊客のことが気になった。その宿泊客は自分をストーキングしていた男にとても似ていたから。

あの背筋の震える感覚は今でも忘れられない。あの客を見てからというものの、外には出ないと心に決めたが、宿泊室でゴロゴロしてばかりでは体が鈍るので、鵺琳たちのいる川へと向かった。


透明な川。波が休む間もなく音をかき鳴らす。そんな中、ぽちゃんという音がひとつ。

「よし、釣れた」

伊吹(いぶき)鵺琳(やりん)は、優那の爺と釣りをしている最中だった。

「…ずるーい、どうして鵺琳兄ちゃんばっかり」

優那の弟、綾之介の言葉に鵺琳は眉一つ動かさない。

「釣り歴5年を舐めないでくれる?」

そして冷たい声でそう言った。

「大体、100均のルアーでここの淡水魚が捕まえられるわけ…おっ!」

すると鵺琳は再び腕を上げる。それだけで魚が空中を踊り狂う。

「…もう一匹!ここは本当よく釣れるよ。まぁ、本当は(みさき)の方がよく釣れるんだけど…」

「岬?」

綾之介が疑問を投げ掛けようとすると、「おーい!」と優那が駆け寄ってきた。

「はぁ、撮影の準備をしてるのかと思ったよ」

そう言って鵺琳はため息をついた。

「…暇だから来ちゃった」

「そう。君も釣る?魚」

「あ、うん!釣りたい!ありがとー!!」

優那は嬉しそうに釣り竿を受け取った。


しかし一匹しか釣ることができなかった。

「うぇーん、釣れなかったぁ」

優那は悔しそうに言う。

「ネット民の頂点が、大漁なんてできたらお笑い者だよ」

そんな彼女に、鵺琳は容赦なくそう言った。

「ひどぉい、そんなこと…」

その時だった。

「あん?」

鵺琳の声色が低いものに変わる。まるで何かに警戒しているかのように。

「ねぇ、寛介さん、あんな警官いたっけ?」

視線の先には、見るからに若い警察官が、近隣の住民と仲睦まじく話していた。

「…俺も初めて見るばい」

しかし優那の爺も知らなかったのだ。

「…えっ、怖い…」

優那も思わず怖くなった。もしも偽の警官だったら…。


その時だった。警察官が寛介たちへ振り返る。

「こんにちは。わたくし吹羅谷台駐在所の渡瀬(わたらせ)と申します」

そう言って渡瀬は警察手帳を見せる。それを鵺琳は食い入るように見つめる。

(警察手帳は…本物みたいだな)

確信するなり、優那を見つめる。

(もしかしたら、優那ちゃんのストーカーが変装して来てるとも限らない…。ここにいる間は注意しないと。それに…)

渡瀬が寛介と話している所を背に彼は確信する。

(間違いなく、あの子のストーカーと殺人事件の犯人は、この山の中にいるはずだ!)


その考察を、山の中にいる誰かが見破っていた。

確信する彼を、奴は眼に焼き付けていた。そして腰に隠したナイフを叩く。コンコンと不穏な音がした。

そして、その視線を鵺琳から渡瀬へと移すと、男は即座に湖のある山道へと消えた。


これが恐怖の逃走劇の引き金になるとも知らずに。


それから2日後の夜。

ナイフを持った男は、パトカーに乗ろうとする渡瀬を発見する。

《おい、そこの警官》

彼が声を掛ける。しかし渡瀬は男のナイフに気づいていない。

「はい?あなたは…」

次の瞬間、男がナイフを渡瀬の腹へ突き刺す。グサリという鈍い男と共に、生温い温度の血がスーツへじわじわと広がる。

「…ぐ、ぐ…あぁ」

渡瀬は倒れてしまった。意識を失った彼を男は背負い、山へ続く小道を歩いていく。その凶行を見た者は誰もいなかった。


男は渡瀬から拳銃を奪う。

《ククク、これさえ有れば…》

そして写真を広げる。それは学生服姿の優那だった。その他にも家族写真や出掛け先の彼女を撮っていた。

《あの子は俺のモノ、グヘヘヘへへ》

男は嫌な笑みを浮かべながら、渡瀬を湖へと突き落とす。肺や心臓を刺したわけでは無いが、1日経たずに命を落としてしまうだろう。


山道からガサガサと草がぶつかり合う音と、喋り声が聴こえてきた。

『こわいよー』

『何言ってんだ?まだ6時すぎだぞ』

男は咄嗟に声のする方へ拳銃を構える。その銃口が誰かを捉えた瞬間、

バンッ!

拳銃を男は発砲した。

凶弾は人影へ容赦なく空気を裂き、突き進んで行く…。

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