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箱庭のアーカディア - FPSプロゲーマーの楽しい幼女生活、あるいは極限のデスゲーム攻略  作者: 彗星無視
最終章 継ぎ接ぎの王

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第90話 『雪原の階層』

「しかしアレンちゃん、正味なところパンドラへの対抗策はあるのかな。権能の全貌も見えない現状、正直僕は明確な勝算を持てないでいる」

「ふーむ、そこんところは俺も……ん、そういや初めてじゃないか? お前がそうやって相談してくれるの」

「へ?」


 アレンの返答がよほど意外だったのか、ユウはぽかんと口を開ける。それがおかしくて、アレンは声を出して笑った。


「僕が言うのもなんだけど、緊張感ないなぁ、アレンちゃん。また言い合いになりたいのかな。『前回』を知らないその楽観が——」

「ちゃんを付けるなと言っとろうが。楽観と言われればそうかもしれないけど、俺がいて心強いって言ったのはお前だろ?」

「——言った、けど。それがどうしたっていうのかな」

「俺も同じだってことだ。お前がいて、心強いよ」


 ユウの反応はいよいよ驚愕の極みに達していた。呆気に取られたようなその表情があまりにおかしく、そして貴重だったため、アレンはまたひとしきり笑う。


「そ、そんなに笑わないでくれるかな。日頃の行いに非があるのはわかってるからさ」

「あのな。自覚あるぶん、余計なタチ悪いんだよお前はっ」


 ここぞとばかりに釘を刺すと、普段は彼のユニークスキルよろしく糠に打ち付けるような感触ばかりのそれも、今回ばかりは効果があったらしい。苦虫を噛みつぶしたような表情(かお)をする。


「別に冗談を言ったわけじゃない。お前はひょうきん者だけど頼りになるよ。ただ性格がたまに不快でへらへらした態度が癇に障るのと、すぐに人をからかうくせに自分はのらりくらりしてるのが気に食わないだけで。あと顔が腹立つ」

「絶対に褒める気ないよね? どう考えてもプラスよりマイナスの方が大きいよね? そしてモブ顔のことだけは言わないでくれないかな?」

「……今のはほんとに冗談だ」


 怒りの予兆を感じ取り、早めに撤退。『鷹の眼』はクレバーなのだった。

 出会った時もアレンに対し、ユウは自身のことを天敵と評した。

 言い得て妙だと、アレンは今も思っている。人間的な相性はおよそ最悪で、嫌っているわけではなくとも、その性格は苦手の部類だった。

 けれど。自身にない発想、自分とは別の能力を持つその男は、苦手だからこそ味方としては頼もしかった。


「お前だけじゃない。ノゾミも、シンダーたち〈サンダーソニア〉のみんなも、それにエル。さっきの『スクワッド』五人も攻略に参加してくれるって言ってくれた。みんながいるからきっとなんとかなる……たとえ楽観だとしても、それが俺の偽らざる気持ちだ」

「みんな、ね。数で言えば10人そこらだ、往時の騎士団のような百人体制とは比べるべくもない」

「……そこは質で補うってことで」

「ハハ、流石に無理があるんじゃないかなぁ」


 いくらアレンが一般の転移者(プレイヤー)とは一線を画す実力の持ち主といえど、それにしたって限度がある。世に百人力という言葉はあるが、実際に独力で100人ぶんのパワーを発揮する人間などいないのだ。


「まあ、今ここで議論をしても、孤児院の横でしたことの繰り返しになるだけだね。キミの望む通り、彼女……エルちゃんが『今回』のパンドラと同等の権能を扱えるようになり、なおかつ僕たちに協力してくれる。そういう流れになれば、対抗もできるだろう」

「まずはそこを見てから、だな——」


 見れば、親子は最後にもう一度ノゾミたちに深々と頭を下げ、街路へと歩き去っていく。

 親子の背をじっと見つめながら、小さく手を振って見送るエル。その横顔は穏やかだったが、寂しげな感情をも内含しているように見えたのは、ひょっとすると家族とともにいる少年と自らを比較し、孤独めいたものを感じてしまったのかもしれない。


(——いや。俺がひねくれた見方をしているだけ、か)


 ちくりと胸を刺す痛みは、罪悪感のそれ。

 しかしアレンは気付かないふりをして、仲間たちの元へ向かうのだった。


 *


 その後、アレンたちは一度ギルドハウスへ戻り、シンダーに事のあらましを話す。

 レストランでの立てこもり事件を解決し、元〈エカルラート〉の『スクワッド』が心強い味方となってくれたこと。

 そして、エルのことも。


「そちらの、シグレさんたち五人がバベル攻略に加わってくれるというのは、大変ありがたく存じます」

「こちらこそありがとうございます、シンダーさん。どう言い繕ったところで、私たちは無法ギルドに身を置いていた人間。信用していただけるよう尽力します」

「そう硬くならなくても構いませんよ。騎士団がなくなって攻略の人手が足りない今、無法ギルドがどうなどと垣根を作るようなことを言っている場合でもありませんから。それにアレンさまたちがお連れしたのです、信用ならそれだけで充分ですわ」


 いつもの応接間は、いきなり五人もメンバーが増えたので少々手狭。

 とはいえ、ネームレスやパンドラと遭遇したあの第70層攻略のあと、〈サンダーソニア〉の攻略メンバーは半数ほどになってしまった。ネームレスに全滅させられた経験や、比類なき権能を振るうパンドラの姿を目の当たりにして意気消沈したのだ。

 そのため、差し引きでいえばおおよそ元の人数に戻った程度。


「しかし——」


 そう、しかし。

 比類なき権能、もしそれを使える人物がこちら側にもいれば。

 まさに一騎当千、現実ではありえない『百人力』を上回る戦力となるだろう。


「——エルもバベル攻略に、というのは……アーカディアの中だけとはいえ孤児院を運営する身としては、どうしても賛同しかねる気持ちがあります」

「んー……シンダー、そこを、なんとか」

「そこをなんとかって」

「もし攻略に参加させてもらえない場合、エルには、ただちに駄々っ子シークエンスを開始する準備がある」

「なんの脅しですの……?」


 悩みの種の擬人化みたいな幼女を前に、シンダーは眉間を指でもみほぐす。

 立場上、いたいけな少女であるエルを戦場に出すことに葛藤があるのだろう。だが、元管理者と思しきことも確か。


「エルは子どもだが、パンドラの権能を扱える可能性がある。本人も力になりたいと言ってくれた。パンドラを打ち破る手段が定まってない以上、エルにも協力してもらうしか手はないと思う」

「それはもっともな意見ですが……実際問題、エルにその権能は使えるのですか?」

「んー、たぶん」

「たぶん?」

「できると思う、けど。バベルの中に入らないと、使えない」

「パンドラがバベルに引きこもっているのを見るに、おそらく管理者っていうのは本来、バベルから出ないものだ。だから権能の力もバベルの中でしか発揮できないものなんじゃないかな」


 ユウの推論に、なるほどとシンダーはうなずく。

 ネームレスが与えられた『拡張脳』に『再構築(リビルド)』、それにパンドラが見せた瞬間移動の効果を持つ『座標再定義(リディファイン)』、第70層の風景を一瞬にして塗り替えた『再塗装(リペイント)』……どれもユニークスキルを超越した大いなる力だが、バベルの中だけという制約があると見られた。

 もっとも、バベルに挑まねばならないアレンたちにしてみれば、意味のない縛りだったが。


「わかりました。であれば、一度バベルで試してみて、権能が問題なく使えるようであれば攻略に同行させます。よろしいですね、エル? もし権能が使えなければ、孤児院で大人しく留守番です。エルにはボーナスウェポンも、ユニークスキルもないのですから」

「んー……ボーナスウェポン、ユニークスキルがなくても、アイテムは使える」

「エルっ?」

「……譲歩は望めないと判断。わかった」


 一瞬、抵抗を試みたエルだったが、シンダーの発する圧に屈して矛を収める。見事な戦略的撤退だった。

 話しはまとまり、二チームの合流を一日早め、一同は第79層へと向かう。そこで『スクワッド』との連携と、最も重要なエルの権能を試すのだ。

 下層のモンスターが消え失せたことで、普段は人通りの多い第0層の広間もしんと静まり返っている。

 客入りが乏しくなれば、店を開く旨味もない。

 転移者(プレイヤー)のアイテム屋も、いつかのワッフル屋も、今日は出ていないようだった。

 ほとんど無人の広間を抜け、ゲートをくぐり、第79層へ突入する。

 そこはなんの変哲もない小部屋だったが、入ってきたゲートを離れて部屋を出ると、途端に白銀の景色が一同を出迎えた。


「——雪、か」


 不覚にもしばし呆気に取られてから、アレンはぽつりとつぶやく。吐く息は白く色付いた。

 そこは今なおちらほらと小粒の雪が舞い落ちる、広々とした雪原だった。

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