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箱庭のアーカディア - FPSプロゲーマーの楽しい幼女生活、あるいは極限のデスゲーム攻略  作者: 彗星無視
最終章 継ぎ接ぎの王

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第85話 『遺志を継ぐもの』

 *


 いまいち役に立っていなさそうな練習から十数分後。

 アレンとエルは、並んでレストランの正面扉へと向かっていた。

 中の人質たちのことを思えば、ゆっくりともしていられない。作戦の決行だった。


「んん? なんだお前ら……」


 表にふたり。シグレの情報通り、男たちがいた。そろってまるで戦場の兵士にも似た、異常な状況に身を置く者特有のぎらついた眼をしている。


(それにしても〈エカルラート〉の残党ね……。真っ当な連中じゃないってユウの見立てもあったんで、そういう手合いかとは思ってたが、まさかドンピシャとはな)


 巡り巡って、これも戦友の後始末のようなもの。そう思えば気合いも入る。

 チームメイトとして。マグナの遺した過ちは、ここで正さねばならない。それが〈デタミネーション〉であまりに多くを得たアレンが果たすべき責任であり、義務だった。

 確かな意志をその胸に、アレンは男たちの前で足を止める。

 そして彼らを碧色の瞳で見上げると、軽く息を吸ってはっきりと言った。


「あのぉ、とりひき? のためにぃ、PP、いーっぱい持ってきたの~」


 ノゾミ監修のあどけないチャイルド☆スマイルも忘れずに。

 世界的FPSゲーム『オーバーストライク』における国内第二位の成績を誇ったゲーミングチーム、〈デタミネーション〉の『鷹の眼』と謳われたプロゲーマー(十七歳男性)が見せる、全力の幼女っぷりだった。

 その反応は——


「……え??」

「うわ、何?」


 引かれていた。アレンは即座にインベントリから愛銃を取り出し、彼らを始末したのちに自らもこめかみに銃口を突きつけて引き金を引いてしまいたい衝動に駆られたが、幸いその前に隣に立つエルが補足をしてくれた。


「エルたちは、使者。100万のPP。渡す」

「あ——取引って、そうか、子どもに持ってこさせるって話だったな!」

「そうか、そうだった! いきなりヘンなガキが来たから面食らっちまって忘れてたぜ!」

「おい」

「え?」

「あ……ア、アレン、PPがなんの略かが気になってぇ、夜も9時間半しか眠れないの~」

「むっ、確かに……PPってそういえばどういう意味なんだ? 通貨だから、ナントカポイント……?」


——危ない。つい素で話しかけてしまったが、なんとか気をそらすことに成功した。

 しかしまだ油断はできない。もうひとりの男はどこかまだ怪訝そうな表情で、アレンたちに告げる。


「どうでもいいだろそんなコト、それよりも100万PPだ。持ってきたんなら早く渡せ。それさえありゃあ、俺たちも食いモンがなくなる心配なんてしなくて済むんだ」

「それは、だめ。きちんと、中の人たちを解放してから。そうじゃなきゃ、渡せない」

「あぁ? まだるっこしいことを! ガキのくせに一丁前に駆け引きかぁ!?」

「断るのなら、エルは、帰る。あなたたちは、なにも得られない」

「……ちっ。ゲームオーバーになれば、持ってるアイテムやPPは消滅する……力尽くってわけにもいかねえか。いいだろう、中へ入る。ついてこい」


 優位なようでいて、テーブルに着かせたいのは男たちの方だ。料理を出すつもりまではないだろうが。

 扉を開け、店内へと案内される。その間際、アレンは隣へ目配せをする。


(悪い。さっきは助けられた)


 エルの気の利いた返しのおかげで、無事に中へと入ることができた。第一関門は突破と言ったところ。

 エルは『もぉ、本当に勘弁してよぉ><』とでも言いたげに頬を膨らませた。

 ……しゃべったわけではないのでアレンの気のせいかもしれなかった。


「いらっしゃいませ。お客様」

「うわっ、びっくりした」


 幾何学的に配置されたテーブルたちと、それらすべてにかけられた染みひとつない真っ白なクロス。

 客のいないホールを抜けるさなか、フォーマルな服装に身を包む給仕の男性が恭しく礼をする。その声に抑揚はなく、お辞儀をする所作もどこかぎこちない。


「うわッびっくりした」


 なぜか見張りをしていた男も驚いていた。

 どう見てもアレンたちは遅めのランチといった風情ではないが、給仕にはそれすらわからない。

 なぜなら、その頭上に転移者(プレイヤー)を示すIDがない。つまりはNPCだ。決められたプログラム通りに動くだけの電子人形。

 店内に入ってきた者がいれば、無差別に客だと判断して頭を下げるのだろう。

 厨房へたどり着くまで、もう何人かの給仕たちが同じように——文字通り寸分たがわぬ動作で——礼をする。

 実に皮肉だ。相手は店を機能不全に陥らせた立てこもり犯とその取引相手であり、腹を空かせた客からは程遠い。にもかかわらず、彼らはそのことをまったく理解できないままに礼儀を尽くす。

 しかし相手はNPC。いかにヒトの形をしていても、意志のない、ヒトではない存在なのだから、そこに皮肉や悲哀を覚えること自体が誤りなのだ。


「ボス、使者を名乗るガキが来ましたぜ。100万PPですっ。おい、てめえら、とっとと来い!」


 ホールを抜けて角を曲がり、広々とした厨房(キッチン)が露わになる。

 中は惨憺たるものだった。

 調理器具や割れた食器の破片、料理途中の食材が床に散らばっている。そしてその奥で、無造作に扱われゴミ同然に床へ散らばった品々が本来置かれるべき調理台の上に、あろうことか尻を乗せて椅子代わりにする男の姿があった。


「くっ——」


 彼はアレンとともに入ってきた、見張りの男を見るなり小さく肩を震わせた。笑いを漏らしたようだった。

 給仕のそれとは似て非なる、三つ揃えのスーツ姿。肩幅を大きく見せるようなシルエットといい、どこか古風な印象がある出で立ちだ。

 懐古趣味のきらいを感じ、アレンは自然と脳裏にマグナを思い描いた。


「——バカ丸出しですねぇ、まったく。阿呆鳥(アホウドリ)がもし現代に発見されていたのなら、あなたたちの名前がそのまま和名に採用されるでしょうね」

「へっ? ボ、ボス?」


 調理台を降りる。ジャケットの裾がわずかにはためく。

 背の高い男性だった。180センチはあるだろうか、今のアレンはいざ知らず、現実世界の非幼女ボディであっても目を合わせようとするなら見上げる格好にならざるを得ないほどの背丈の差。

 男は礼装じみた白い手袋を着けた手で、眼鏡の位置を直しながら言う。


「100万PPなど、持ち合わせているはずがないでしょう。そんなバカな要求に付き合う者はいません。そこのふたりは囮か、さもなくば我々を倒しうる切り札の類ですよ」

「え、えぇ~? アレン、なにいってるかわかんないよぉ~?」

「その幼稚園児のお遊戯会にも劣る最悪の芝居をやめなさい。『鷹の眼』のアレン」

「…………俺のこと知ってんのかよ!」


 恥を忍んで損をした。アレンが本性を現すと、案内をした見張りの男たちが驚愕の表情を浮かべる。


「くっ、くくく。〈サンダーソニア〉でも釣れればと御の字と思っていましたが、まさか本命に来てくださるとは。ねえ? 我らがギルドマスター、マグナさんの仇。八つ裂きにしても足りぬ怨敵よ」

「初めから罠だったってわけだ。完全にパニクった連中の犯行だと思ったよ。ちょっぴり回りくどい気もするけどな」

「いいやぁ、丸っきり演技というわけでもありませんよ。この愚図どもは正真正銘、誰かが100万PPを運んでくると思ってたようですからね。作戦の詳細を説明しなかったのは私ですが、考えなしの味方にも困ったものです。まあ駒とはそういうものですがね」

「〈サンダーソニア〉を狙ってたってことは……まだアーカディアの支配でも目論んでるのか? 懲りないな、お前たちも。もうマグナさんもいないのに」

「それを……あなたが言うのですか?」


 低くくぐもった声。アレンは直後、豹変した男の顔を見た。


「お前が殺したんだろうがぁ! まぐっ、マグナさんをぉ——この箱庭を制するべきお方をぉッ!!」


 急速に胃の中が冷えていくような、体の芯から凍り付く感覚。

 眼前の相手を、決して相容れぬ敵だと見なす瞬間。


「なんだ。シンパなんていたのか、あの人。豚もおだてりゃって言うが、周りをそういう連中で固めたせいで自分が影響受けたんじゃないのか? 相変わらずバカだなぁ」

「あのお方を愚弄するなッ、この子どもの皮を被った薄汚い偽物が——!!」

「好きで被ってるわけじゃないっての。下がってろ、エル。合図を出すのはもう少しあとだ」

「……うん、アレン、怪我しないでね」


 エルの言葉がおかしくて、アレンはふっと口の端を歪ませながら、眼前のシンクを踏み台にして前方へ跳んだ。

——血の流れ出ないアーカディアで、怪我なんてしようがない。

 銃声が厨房に轟く。同時にヒュッ、とかすかな擦過音。一瞬前までアレンのいた位置を弾丸が通り過ぎた。

 アレンに驚きはない。その射線は『鷹の眼』が読んでいる。


「よ、避けた……っ!?」


 反対に、男の方は黒いハンドガンを構えたまま、信じられないようなものを見るような顔を浮かべていた。

 その頭上には『CLACK(クラック)』の転移者(プレイヤー)ID。


「クラック、ね。文字通りど(たま)に亀裂を入れてやる」

「お、お前っ、どうやって弾を——」

「来い、『キングスレイヤー』!」


 もちろん弾丸を見て避けるという真似がアレンにできるはずもない。あの日のカフカのように『クラウン』を得たのであればまだしも、だ。

 よって今のはただ、腕の動きと足の開き方と視線と彼我の距離感を考慮した結果、インベントリから銃を取り出そうとしている可能性が高いと踏んだだけ。些細な情報を即座に処理して統合、高精度に推論を立てる『鷹の眼』の面目躍如と言える。


「ちぃッ、いい気になるなよプロゲーマー! あなたなんてしょせん、マグナさんのおかげで結果を出せたオマケみたいなものでしょうが……!」


 王殺しの銃が反撃とばかりに火を吹く。罵りつつも、クラックは手近な調理台の陰に隠れて射線を遮った。

 空中で発砲したアレンは、そのまま床へ着地。クラックとは幅広の調理台をふたつほど挟む形になる。

 このまま回り込んで、今度こそ逃げ場がなくなるまで追い詰め、銃撃戦を繰り広げることはできる。できる、が——


(人質はどこだ?)


 アレンは冷静さを失わなかった。

 最優先は人質の安全。既に仲間たちは突入の合図を待っているはずだ。

 キッチンの奥にはスタッフルームにつながると思しきドアがある。

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