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第35話 『戦うべき動機』


「あまり策を練る時間もなさそうだ、すぐに彼は僕たちを見つけるだろう。そこでアレンちゃん、戦闘の際だけど……」

「おい無視するな。ちゃん付けはやめろって今言ったよな! なに聞こえなかったフリしてんだ!」

「こらアレン、時間がないって言ったばっかりでしょ? 細かいこと気にしちゃめーよ」

「ノゾミまでここぞとばかりに子ども扱いするな! ……頭をなでようとするな! にじりよるのをやめろ!」

「ふふふ、観念しなさーい……! 今日はまだアレンをなでなでしてないからね、ログボをもらっておかないと!」

「いつから俺の頭はログインボーナスになったんだよ! 時間がないならそれが一番要らないだろっ」


 両手を構え、じりじりとにじり寄るノゾミ。その単独包囲網から小柄さを活かしてするりと抜け出す。

 そんなアレンを、ユウは虚をつかれたような表情で見ていた。


「……なんだよ?」

「ん——あぁいや、その。ちょっとイメージと違ったからさ。ずいぶんと仲良しみたいだね、アレンちゃんとノゾミ君は」

「はいっ、仲良しです! 昨日出会ったばっかりだけど!」

「わ、ひっつくなって。あとどさくさにまぎれて頭をなでようとするな」

「ちぇー」


 再びアレンはノゾミの拘束をすり抜ける。ブラストボムによる自爆移動を習得したこともあり、この小さな体にも慣れてきた。もっとも慣れること自体、当人としては複雑な気持ちにさせられてしまうが。

 ふたりのやり取りを見つめるユウの表情には、平時の取ってつけたような軽い笑みが戻っている。わずかに覗いた本心からの驚愕はその仮面に覆われ、もう窺えない。


「話を戻すよ。肉壁になるって言ったけど、あれは比喩でもなんでもない。あの厄介なユニークスキルはこの僕が封じよう」

「封じる? でも、全部は防ぎきれないってさっき」

「実はひとつ秘策があってね。ユニークスキルっていうのは、ボーナスウェポンに依存するものとそうでないものがある。ふたりは気付いていたかな?」


 アレンとノゾミは互いに顔を見合わせる。

 ボーナスウェポンに依存するものと、そうでないもの。


(——言われてみれば。カフカがユニークスキルを使うとき、あのチェーンソーみたいなボーナスウェポンの刃が動き出す。それはつまり、あのボーナスウェポンじゃないとワイルドファイアは使えないってことか)


 ノゾミはいまいちピンと来ていないようだったが、『鷹の眼』たるアレンは即座にその意味を理解した。むしろここまで情報がそろっていて、今この瞬間まで思い至らなかった己の失態を内心で悔いる。

 アレンの『ブラストボム』、ノゾミの『ゴーストエコー』はボーナスウェポンがあろうとなかろうと発動する、いわば独立型のユニークスキルだ。

 だが、カフカの『燎原之火(ワイルドファイア)』はあの炎を吹く異形の西洋剣を装備していなければ使えない、ボーナスウェポン依存型のユニークスキル。

 もしかすると、銃口の延長線上に青ポータルを展開すると言っていたマグナの『二色領域の支配者バイカラー・ドミネーション』も、彼固有のボーナスウェポンである『クリムゾン』のスナイパーライフルを持っていなければ発動不可能な依存型だったのかもしれない。


「そうか……なら、いかに『クラウン』で効力が増していようとも、ボーナスウェポンさえ使えなくできれば必然的にユニークスキルも封じられるわけだ」

「そういうこと。付け加えておくと、このウィークポイントがあるぶん、おそらく依存型のユニークスキルは強大な力を持つ傾向にある。広い範囲を攻撃できる『燎原之火(ワイルドファイア)』なんかはその典型だ」

「そこは理解した。だが、ボーナスウェポンを使えなくするってのも簡単じゃないだろ? どうするって言うんだよ」

「そこで秘策さ。なに、任せてくればいい。きっとうまくやる」


 よほどの自信があるのか、ユウは平然と言う。

 あるいは虚勢か。よしんばそうだとしても、アレンにあの『クラウン』によるブーストを受けた法外のユニークスキルを止める手段はない。今はユウの言う秘策とやらに賭けるほかあるまい。


「それよりも、問題はそのあとさ。ボーナスウェポンとユニークスキルを封じてもカフカには高いレベルと、なにより『クラウン』による絶大なバフがある」

「アレンの弾丸すら弾いてましたもんね。銃の弾を見て防ぐなんて……」

「いくらステータスにバフがかかると言っても、ヘッドショットを容易く決められるアレンちゃんならHPを削ることは十分可能だろう。だが、厄介なのはステータスじゃない。神経の伝達速度……反射神経や動体視力にまで及ぶバフだ」


——キングスレイヤーの銃弾さえ見切る能力。

 それを攻略しなければ、ボーナスウェポンやユニークスキルを使わせなくとも勝ち目はない。ユウが言いたいのはそういうことだ。

『ブラストボム』の自爆移動を用いた空中射撃も今度は見切られてしまうだろう。情報の取得という面で破格の性能を誇るノゾミの『ゴーストエコー』も、そもそも攻撃が通じないのであればなんの助けにもならない。

 そしてこればかりはユウにも如何ともしがたいらしい。意見を求めるようにアレンを見据える。


「打つ手なら——」


 アレンは毅然とそれに応えようとする。しかし同じタイミングで、ノゾミが声を上げて言った。


「そこはわたしがカバーするよ! いくら『クラウン』があっても、被弾すればダメージは通るんだから。わたしがなるべく動きを止めて、アレンの銃撃に対応できないようにする!」

「動きを止めるって……ノゾミが正面から切った張ったをするってことか?」

「うっ、わたしも無茶は承知だよ……! でもでも、秘策っていうのがなんなのかわかんないけど、ユウさんがボーナスウェポンを封じてくれるんでしょ? だったらわたしでも鎧袖一触ってことはないはず!」

「まあ、それは……そうかもしれないけど。だけど……」


 よくもまあ、出会ったばかりのユウの秘策とやらをそこまで信用できるものだ。アレンは眉を寄せ、いかにも気負った様子のノゾミにかける言葉を探す。

 しかしノゾミの決意はよほど固そうに思えた。一体どうして——アレンがそこを考えようとした時、今度はユウが口をはさむ。


「いいんじゃないかな。多少の無茶は通すくらいじゃなければ今のカフカは倒せない。僕とノゾミ君が気を引いて、アレンちゃんがダメージを与える……方針としては上等だ。最適にも思える」

「だけど! それはあまりにも——」

「危険、かい? 当たり前だよそんなのは。戦いをするんだから」

「——っ」


 アレンは言葉を継げなくなる。そこへ、碧色の瞳を覗き込むように、ノゾミが一歩近づいて言った。


「アレンは思い詰めたわたしに希望をくれて、あのすごく強いスナイパーのおじさんからも助け出してくれた。だから今度はわたしがアレンの役に立ちたい。アレンが現実に戻って、夢を叶えるための助けになりたい」

「ノゾミ……」

「それに、言ったじゃない。ふたりで戦うって。あれは嘘だったの?」


 そうだ。ノゾミもまた、逃げてはならない理由がある。戦うべき動機が。

 カフカは、リカたち〈解放騎士団〉の団員をその謀略によってゲームオーバーにした。そしてノゾミ自身もまた、謀りの糸に巻き取られ、あと一歩で自死を選ぶところだった。


「リーザちゃんやリカさんに報いるためにも……カフカさんは止めなくちゃいけない。だったら、わたしはもう逃げたくないの。今度こそ」


 そのことをアレンは思い出した。

 気負っているのは事実だろう。だが友として、その意志を制することよりも、背を押すことを選んだ。


「わかった。だが危ないと思ったら無理はせず、万一の時は——」


 言い終えるより前に、轟いたのは崩落の音だ。


「——ノゾミっ、こっちだ!」

「わっ」


 背にしていた建物が、まるで積み木を倒すように呆気なくつぶれていく。アレンはノゾミの手を引いてその場からとっさに離れた。

 ユウもまた、アレンの判断に遅れることなく数歩離れ、土煙と炎の先に立つ人物を油断なく見つめる。


「ゴミ虫どもが、似合いの場所にコソコソ隠れていたみたいだなァ。ま、遠くまで逃げようとしなかったのは褒めてやるよ」

「カフカ……!」


 三者の予想に反さず、そこに佇んでいたのは不気味にうなる剣を手にした戴冠者。

 カフカは唇をゆがめるように吊り上げ、歯を見せた。


「じゃあ、虫らしくブッつぶしてやるから前へ出ろ。ああ、火葬がお望みならそれでもいいぞ。今なら費用は要らないし、墓代わりのゲームオーバーレコードだってある。まったくもってお得だろう?」

「どっちもお断りだバカ。もう少し作戦を詰めたかったけど仕方ない、いくぞノゾミ、ユウ! ここであいつを倒す!」

「うん! アレンの夢、こんなところで終わらせたりなんかさせない……!」

「やれやれ今日は重労働ばかりだ。最後の一仕事、張り切らせてもらおうかな」

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