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アルマゲドン:我々が知っている過去、それは、本当は違うものかもしれない。

 戦争とは、正義と正義の衝突。


 善神軍は、“現在の世界を守るため”に戦い、

 悪神軍は、“現在の世界を変えるため”に戦う。


 どちらが正しいかなど、誰にも決められはしない。

 ただ、ぶつかり合う正義が言葉だけでは止められなくなったとき――

 争いは戦争へと姿を変える。


 これは、千年前の物語。


……


 善神軍:アンリマユ以外の全ての神々。

     全英雄。全人類。全生物。


 悪神軍:アンリマユ。異形たち。

     アジ・ダハーカ。


……


 ・

 ・

 ・


「カカッ……アンリマユ。確かにお前は強い。無限の軍勢も実に厄介だ。だが――俺の“天国”の前では、その大軍も無意味だったな」


 嘲笑とともに響き渡る声。

 そこに立つのは、善神軍の主神――アフラ・マズダ。


 完璧な黄金比で構成された巨躯。

 背には六本の剛腕。うち二本を余裕たっぷりに組み、

 残る四本は、まるで“世界そのもの”を支えるように大気を押し広げている。

 巨大な光輪が彼の後方に浮かび、そこから奔る光が影すら許さない。

 胸の中心では、太陽にも似た輝く核が脈打ち、周囲に散る星々の紋章を煌めかせていた。

 まさに”神の中の神”。


 そして、その眼前に立ちはだかるのは――


 悪神アンリマユ。


 漆黒の翼をゆるやかに広げ、地上からわずかに浮かぶその身体は、右肩から“光”が滴り落ちていた。


 神々に“血”など存在しない。

 彼らがこぼすのは、生命の根源――輝き。

 いまアンリマユの肩から零れているのは、まさしく命そのものだった。


 幾度もの激戦に晒された肢体は無数の傷に覆われ、それでも彼女は、なお揺るぎなく天と地の間に立っていた。


「それにしても――悪神の分際で、味方を庇いながら我らと戦うなど――愚か。そのような“弱さ”があるからこそ、今こうして追い詰められているのだ」


 しかし、アンリマユの声音は揺れない。


「……彼らは、ワタシにとって――子供たちです」


 その言葉に宿るのは、怒りでも恐怖でもない。

 ただ一点、曇りなき深い慈愛のみ。


 アンリマユの創り出した無数の異形たち――その一匹一匹を、彼女は我が子のように見つめていた。

 本来なら攻撃に専念すべき戦いの中でさえ、彼女は常に異形たちの盾となり、庇い、守りながら戦った。


 神に付けられた傷は決して癒えない。

 それを誰よりも知っていながら、彼女は己の身を差し出し続けた。

 指揮をとり、援護し、血ではなく命そのもの――輝きを流しながら立ち続けた。


 ……その姿はもはや“悪神”とは呼べないものだった。


 主神アフラ・マズダを中心に、神々がじりじりと円を狭めていく。

 退路は寸分も残されていない。

 上空から見下ろせば、それは獲物を追い詰める捕食者の群れ――完全なる包囲。


 神であろうと、絶望は容赦なく迫ってくる。


……


 この戦いの序盤は、悪神軍が優勢だった。

 理由は単純だ。

 善神軍の神々、人間の英雄たち――数多の強者を

 アジ・ダハーカが一方的に屠り続けていたからである。


 そして、決定的だったのは“数”の差。


 善神軍は、神々・英雄・人間・生物――すべて“有限”。

 どれほど強くとも、死ねば終わり。


 対して悪神軍は、


 アンリマユ、アジ・ダハーカ、

 魔界に満ちる異形たちは“無限”に湧き続ける。


 ――総合的な個の強さでは善神軍が勝っていた。

 ――だが、“数”と“アジ・ダハーカ”の存在が、その差を押し潰していた。


 戦況は悪神軍の勝利目前へと傾いていた。


 しかし……


*** その流れを――“たったひとり”が覆した。 ***


 スラエータオナだ。

 

 善神の主力たちは、アジ・ダハーカ以外の悪神軍の主力ベルゼブブなどたちと戦い、アジ・ダハーカとスラエータオナが一騎打ちになる状況を作り上げた。

 最凶の邪竜が足止めされたことで、守勢に徹するしかなかった善神軍にも、ようやく前進の兆しが生まれた。

 その戦況をさらに善神軍へと傾けていたのは――主神アフラ・マズダの魔術である。

 神級魔術:「”天国”」。

 光輪が善神軍の頭上にいくつも浮かび上がり、次の瞬間、味方兵すべての意識が刈り取られる。死への恐怖が無くなった善神軍は“主の命令のみを実行する機械じみた軍勢となった。

 ……この時、皆は自分の都合のいい夢を見ていたという。

 天国のような夢を……。


 感覚はその夢へと消えうせ、感情という制御を失った身体は、まるで神に操られる人形のように、悪神軍へ突撃していった。

 英雄ヘラクレスですら、恍惚とも虚無とも取れる無表情で、善神の命じるままに破壊と蹂躙を繰り広げていく。


 一見すれば、無限の戦力を持つ悪神軍が時間とともに優位へ傾くはずだった。

 しかし“天国”により狂気の軍勢と化した善神軍は、逆に雪崩のような勢いで悪神軍を押し返していく。


 やがて悪神軍は劣勢となり、主神アフラ・マズダを筆頭とした善神たちが、ついに悪神アンリマユを包囲した。


 ――だが。


 この戦況そのものが、アンリマユの描いた布石だった。


 絶望的な状況のただ中で、彼女はどこか哀しげな微笑みを浮かべる。

 そして、残された全魔力を、たった一つの魔法へと注ぎ込む。


 神級魔法:【”天獄”】。


 天国が味方へ祝福と加護をもたらす魔術ならば、天獄はその真逆。

 触れたものを“完全な無”へと還す。

 不死、不老、概念、事象、さらには【空気】でさえ例外ではない。


 アンリマユが押されていたのは事実――だが、それこそが罠だった。

 彼女は意図的に、自身のもとへ善神軍の主力を誘い込んでいた。

 すべてを終わらせるための、最後の引き金を引くために。


 ゾゾゾゾゾ――――――――。


 世界が軋むような音とともに、アンリマユを中心に巨大な黒の虚空が広がる。

 ビシュンッ! ビシュンッ! ビシュンッ!

 触れた神々は悲鳴すら上げることなく、塵一つ残さず消え去っていく。


 そして――主神アフラ・マズダもまた、その黒へ呑み込まれ、完全に消滅した。


 その中心で、崩れ落ちるように光を失いながら……アンリマユは、最期の言葉を残した。


 ――……愛しています。


 シュウ……

 ピンッ……。


 力を使い果たし光の粒となって、静かに、静かに消えていく。


【あっ、あぁぁぁーーーーー”ア”ァ”ァ”ァ”ーーーーーーーー!!!】


 アジ・ダハーカの絶叫が戦場全体を震わせた。

 竜は遠く離れた空から、その最期の瞬間を見てしまったのだ。


【おのれ……おのれ善神共ぉぉぉーーーー!!!】


 アンリマユが滅んだ。

 その事実が竜王の理性を焼き切る。

 一瞬で飛翔し、黒が消えた空間へと駆け寄る。


 アンリマユは、誰にも告げていなかった。

 味方にも、アジ・ダハーカにも。

 この自滅の策だけは――。


 だが、竜の頭上、スラエータオナが瞬間移動を果たし、片手を添えた。


「ようやく、目を逸らしたな。竜よ!」


 シュンッ!


 バンッ!

 ガンッ!


 アジ・ダハーカの眼前に、透明な壁が出現した。

 続くように四方を囲む壁が形成され、淡い金光を帯びた正方形の檻が完成する。


【なんだ……これは!!!】


 ガガガガガガガガァァァッ!!

 ドドドドドドドドーーーー!!!!


 竜魔法が放たれる。だが、結界にはひび一つ入らない。


【くっ……まさか……!】


「察しがいいな。俺にお前の力が通じなかったように――」


 スラエータオナは冷静に告げる。


「この結界もまた、お前のあらゆる魔術・能力を無効化する」


【小癪なぁぁ!!!ここから出せ……出せぇぇぇ!!!】


 ガンッ! ガンッ! ガンッ!!!


「無駄だ。この“天封結界”は破れん」


【グァァァァァーーーーーー!!!!!】


 ドンッ! ドンッ! ドンッ!!!


 怒号と破壊音が洞窟のように反響する。

 だが結界はびくともしない。


 スラエータオナは、結界ごと竜を転移させた。

 行き先は――地上から遥か下、光すら届かぬ地下深層。


 そこでアジ・ダハーカは封じられた。

 喪失に吠え、怒りに震え、ただただ苦悶する姿だけを残して。



 ……ここまでが、クルサが今見ている光景である。


 ここから先は、スラエータオナしか知らぬ“真実の歴史”。



 アジ・ダハーカが封印されてから数分後。

 天国は解除され、善神軍の生き残りたちが次々に意識を取り戻す。


 しかし、誰もが混乱していた。

 天国に囚われていた間の記憶が、すっぽり抜け落ちている。

 気づけば、神々の姿も、悪神軍すらも一体残らず消えているのだから当然だ。


 ただ一人、スラエータオナだけは全てを知っていた。

 天国の光輪はアジ・ダハーカの膨大な魔術で破壊され、彼には一切の効果が及ばなかったのだ。

 ただ自分の意思で使命を果たそうと竜との戦闘を繰り返していたのだ。


 やがて、沈黙を破るように、彼が声を張り上げた。


「我々の勝利だ!アフラ・マズダ様がアンリマユを討ち果たされた!」


 次の瞬間、地を震わすほどの歓声が巻き起こる。

 世界は救われた――皆がそう信じた。


 だが、スラエータオナのみが知っている。

 さきほどの黒の虚空が、善神も悪神も神族そのものを一瞬で“完全消滅”させた事実を。


 神の不在が露見すれば、世界はそれこそ崩壊する。

 人類にとって神は希望そのもの。

 崇め、頼り、信仰し、最後の望みだったからだ。 

 英雄は、傍らの石を拾い上げ、高らかに宣言した。


「神々は我々を守るため、最後の力を振り絞り――この石となって世界に残られた。我々はこの恩を決して忘れてはならない!」


 その石は後に各都市へ運ばれ、

 “善神が力尽きて変じた聖遺物”として崇められた。


 こうして、アルマゲドンは終結した。


…………


 歴史や伝承――過去に語られてきたものは、常に曖昧だ。

 誰も、その瞬間に立ち会っているわけではないのだから。


 記録に残された出来事が本当かどうかも分からない。

 その時代、その時の“語り手”の都合で書き換えられ、

 それが真実であるかのように現在まで伝えられてきただけなのだ。


 ……スラエータオナがそうしたように。


 その事実を知る者はいない。

 人々はただ、歴史だからと、伝承だからと、皆がそう言ってきたからと、

 疑うこともなく――信じ続けてきた。


 実際には……

 

・悪神アンリマユこそが、慈愛に溢れた神であり、どの存在よりも優しい神であったこと。【 他の神々よって人々の印象を操作された 】。

 

・善神は力を果たし石になったのではなく、

 もう千年前、このアルマゲドンでの戦いにおいて完全に消滅していたこと。

 【 スラエータオナによって事実を塗り替えられた 】。


…………





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???


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 歴史、伝承。

 そして、神話。


 これは過去の誰かが書き記し、現在の我々にまで語り継がれてきた物語だ。


 ある神話において、

 アジ・ダハーカはクルサ―スパという英雄に倒されるという記載が存在する。


 ならば、それもまた……

 真実とは、違うものだとしたら?

 

次回:第七十八話 アジ・ダハーカ 対 クルサ―スパ

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