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第七十四話 【終わりの始まり】:それぞれの”終末”:スラエータオナの呪い

 終末へのカウントダウン 4


 数分前――マイラとカイザー。


 くちゅ……ガチッ。


「がっ!? いってぇ……!」


 なんとかチューってやつを成功させた。

 ――が、代わりに唇を噛みちぎられた。

 すぐさま後退し、距離をとる。


「な、何してるの、かな……」


 ドギマギして俺に惚れて戦う気が薄くな……る未来はあるはずもねぇわな。

 好いてた相手を殺した男が、突然キス。殺意湧かない方が異常だ。


 マイラの視線は先ほどよりも険しく、怒りに満ちている。

 指先に魔力が集まり、小さな旋風が指の隙間を舞った。

 だが――さっきまでよりは、大人しくなっていた。

 すぐに攻撃してこない。キスで繋いだ、この“殺さず殺されず”の数秒間。


 今しかない。

 もうマイラを倒せるほどの魔力は残っていない。

 正真正銘、これが最後の機会だ。


「お前と、話がしたかったんだ」


 俺はマイラの眼をしっかりと見てそう言った。


「……何を?」


「ヨセフのことだ。――俺の、親友のな」


「は?」


「信じられねぇだろうが、本当だ。俺とヨセフは親友だったんだ」


 マイラの眉が動いた。

 俺は短く、けど確かに、ヨセフとの思い出を語った。

 断片でもいい。俺がヨセフを“知ってる”ってことを、少しでも伝えたかった。

 キスの効果か?とも思ったが、ヨセフを一番知っているであろうマイラが俺の話が嘘か本当か見極めているといった感じだった。

 マイラは黙って俺の話を聞いていた。


「……うん。分かった。少なくとも、あなたがヨセフを知ってるのは本当みたいね」


 彼女の声は震えていた。

 次の言葉には、怒りと涙が混ざっていた。


「でも、“親友”なんでしょ?だったら――なんでヨセフを殺したの?答えてよ」


 その一言に、俺は一瞬、立ち止まった。

 このまま真実を告げないで黙っていた方がマイラが傷つかずに済む。

 そして、マイラは仇である俺とシリウスを殺して楽になるだろう。

 親友の女がそれで幸せになるかもしれない、と。

 けれど、俺は……


「……あの日、皆が――ヨセフが、魔族になっちまったんだよ」


 隠されていた真実を、俺はすべて吐き出した。包装も濁しもなく、ありのままを。


 ──沈黙が落ちた。


 ……


「…………?」


 ……


 マイラの瞳が凍りついた。


「……全然、何を言っているか、分かんない。人が魔族に、ヨセフが?……うっ、嘘つき、そんな訳ない!だって、騎士団が調査して、ニュースでもあなたたちがヨセフを殺したって……うん。あなたの言うことなんて信じられるわけない。信じられる……わけ、ない」


 マイラは膝をつき、頭を抱え込む。声が震え、涙が滲む。信じたくない。受け止めきれない。混乱と現実逃避が入り混じるその姿に、胸が締めつけられる。

 こうなる可能性があると知っていたが、俺は話した。

 マイラが傷つくことを承知の上で。彼女の戦意を奪い、俺がこの場から離れられるように。

 残酷だが、俺とシリウスは黒翼の野郎どもを殺さねぇと終われない。

 ヨセフ、皆の仇を取るために。


 ようやく、シリウスの後を追える――そう考えかけた矢先だった。

 この場にマイラを一人残すのは危険だ、とも思った。ハルク先生を呼んで傷を手当てしてもらうべきか、とも考えた。


 声を振り絞り、そう言おうとしたその瞬間、空気が変わった。


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ――――。


 最初は遠い地鳴りだった。だが、次第に震えは増し、音は腹の底まで届く。瓦礫が微かに揺れ、景色がどこか歪み始めた。


「……なっ、なんだ?」


 耳をつんざくような轟音が街を引き裂く。並みの爆発ではない、何か巨大なものが世界を揺する音だ。次いで、空気を切り裂く風が襲い、瓦礫の雨がこちらへ向かって飛んできた。


 バシィィィンッ!! ガラガラガラッ!! ドゴォォンッ!!


「くっ!」


 気づけば、俺は反射で飛び出していた。

 マイラを抱き寄せ、背中で全てを受け止める。

 爆風が骨を砕くように叩きつけ、視界が真っ黒に染まった。


 3


 学園の教師 対 アスモデウス。


 ワシ(アスモデウス)は、つい先ほどまで学園の教師三名と同時に戦っておった。

 彼らはそれぞれ、ABCクラスの生徒を指導する熟練の教師。なかなかの腕前ではあったが――ワシの敵ではなかった。三人とも地に伏し、息絶えておる。

 煙の立ちこめる瓦礫の上で、ワシは悠然とゲートの魔法陣を展開したが、


 ドロォォォッ――!


 突如、黒い濁流が押し寄せた。

 粘り気を帯びた闇が地平線を覆い、咆哮にも似たうねりを上げてくる無数の魔族のような大群。

 即座に浮遊し、濁流へと魔力を叩き込む。

 数百の魔弾が嵐のように放たれ、渦を次々と消し飛ばしていく。

 だが――。

 数が減るどころかむしろ、増していた。

 どこから湧き出しているのかと目を凝らすと、上空に異様な光景があった。

 ――天を割るような巨大な禍々しい“門”。

 ワシは即座に杖を掲げ、大群が出てくる門を消し飛ばそうと超級魔法の詠唱に入った。


 その瞬間だった。


 ゴロゴロゴロゴロ……!


「……今度は、なん、じゃ……?」


 空気が変わった。

 肌に触れる魔気が重く、異様に濃い。

 そして凄まじい衝撃がワシの体を包み、視界が一瞬で――真っ黒に染まった。


 2


 アラクネ 対 ヘラクレス ゼノン シリウス。


 ヘラクレスはアルターを撃破し、ジークフリートの後を追って中央へ走っていた。

 その途中でゼノンとシリウスと合流し、三人で向かう――はずだった。

 だが、突如として空から“それ”が降ってきたのだ。


「呪いは発動しないであげるから、存分にアタシと遊びましょう♡」


 そう言った瞬間、戦いが始まった。


 数分――それだけで理解した。

 この蜘蛛女、尋常じゃない。


 鋼鉄より硬い糸を自在に操り、攻防ともに隙がない。

 三対一の状況にもかかわらず、俺たちは一歩も優位を取れずにいた。

 攻撃を通しても、傷は瞬く間に再生する。

 絶望そのものが肉体を持っているかのようだ。


「ゼノン!シリウス!前に出すぎだ!」


「オレより強い奴が居てたまるかー!!!」


「その通りかなっ!ここで止まるわけにはいかないのだよっ!」


 指示は無視され、ゼノンもシリウスも何度も突撃を続ける。

 正直、千年ぶりに戦う俺はブランクを痛感していた。もし合流が遅れてこの蜘蛛女と二人だけでやり合っていたら、どうなっていたことか。

 全盛期の俺と互角、否、それ以上の凶悪さを持つ魔族。

 俺は静かに……この蜘蛛女をある竜と、重ね合わせていた。


 ゾワッ――!!!!!


 全身の毛穴が逆立つ。理屈を超えた嫌な予感が、胸の奥から湧き上がってきた。


 ゴロゴロゴロゴロ――。


 地鳴りが遠くから迫る。次いで、心臓の奥で「ドクン」と鈍い拍動が響いた。


「……あぁ〜、感じるわぁ〜ん。ついに、ついに、なのねぇ〜♡」


 アラクネが身体をくねらせ、陶酔に満ちた声を漏らす。顔には熱に浮かされた者の笑み。


 カタカタ――ザッ。


 その直後、彼女はふいに膝をつき、顔を下に向けた。

 張り巡らせていた糸が、するすると音もなく消えていく。


「チャンスだ」


 敵の攻撃が止まり、僅かに地面に身を低くした──それは紛れもない好機だ。ゼノンがそのまま魔法を放とうと踏み出す。

 だが、俺が間に入り、無理やり動きを止め、彼の手首を掴んだ。


「何すんだ! テメェごと吹き飛ば……」


 ブルブル……。


 こりゃ……何かの冗談か?

 冗談であってほしいもんだ。


 手が震える。

 心臓が氷のように冷える。

 脳が「死にたくない」と悲鳴を上げる。


 ――千年ぶりだ。この感覚。


 俺は咆哮と共に魔力を解き放ち、巨躯へと変じる。

 二人を覆い隠すように、全身で覆いかぶさった。

 次の瞬間、視界が真っ黒に塗り潰された。


 1

 

 ベルゼブブ 対 ロキ。

 

 戦いの最中、全身が凍り付く殺気が急に止み、何かと思えば羽を畳み、地面に跪いた。

 都市の中央に向かって。

 それと同時に聖剣:レーヴァテインが激しく反応する。

 カタカタと音を立て揺れ、そちら側に引き寄せられるように。

 

 われはその場に立ち、こう悟った。

 もう、この世界は終わるのだと。



 ゼーロ 対 …………


 ドクン……。


「はぁ~……」


 ポタッ。


「はぁ……はぁっ……」


 ポタポタ……。


 ――クルサは、まだ生きている。

 二本の短剣で刻まれた無数の傷口から、血が流れ続けていた。

 何度も吹き飛ばされ、左腕も右足も、もうほとんど動かない。


「もう終わりぃ~?」


 瓦礫の上で、短剣をクルクルと回しながら、楽しそうに煽ってくる。

 ……多分だけど、この人、私と同じか、それ以上に性格が悪い。

 実力の差は歴然。

 それでも、わざと致命傷を避けて遊んでいるのがわかる。


 ――ドクンッ。


 ……それに、さっきから心臓が痛い。

 最初は傷のせいかと思った。けど違う。

 鼓動がどんどん大きく跳ねて、胸の奥を内側から叩き壊そうとしているみたい。

 意味がわからない。ただ――痛い。


「ねぇ、そういえばさぁ~オリオン君とあなたって、付き合ってるんでしょぉ~?」


 ……え? この状況で何言っているの。


「だったら何?」


 ――ドクン。


「君が死んだらさぁ~オリオン君、もらっていい?」


 ――頭の血が一気に沸騰した。


「……あげるわけないでしょ。オリオンは、私のなの」


 ――ドクン、ドクン。


 ゴロゴロゴロゴロ……。


「……あっ」


 バタンッ。


 あまりの痛みに耐えきれず、心臓を押さえながら地面に膝をついた。

 痛い。痛い。息ができない。

 ――急に、さっきよりもずっと。


「ん? あれ~大丈夫~?」


「……あ、がっ……」


 声が聞こえない。耳鳴りが世界を埋め尽くす。

 頭が痛い。心臓が痛い。全身が焼けるように痛い。


 痛い……痛い……。


 ――助けて、オリオン。


 プツン。



 アジ・ダハーカが強くなるたびに……クルサは……強くなる。

 そして、現在、アジ・ダハーカは元の姿に帰ろうとしていた……。



 ドクン ドクン ドクン


 ギャヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン


*************************


 ある神話には、こう記されている。


 ――アジ・ダハーカが封印から解かれ、世界を破壊する時、

 たった一人の“英雄”が現れ、世界を救う、と。


*************************


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」



 ヒュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーン……。


 ――ドン。


 


 その名は……





 *** ”終末の英雄:クルサースパ” ***

 

 英雄スラエータオナの呪いを継ぎし、運命を背負う者。


 クルサ――

 この物語のヒロインであり、お弁当であり、

 そして、

 【アジ・ダハーカ 唯一の弱点】。


 物語は――最終局面へと移行する。


……


こんにちは、T.Tです。

ここまでお読みくださった読者の皆様、本当にありがとうございます!

ある神話において、クルサースパはアジ・ダハーカを倒すと言われています。

えっ?それじゃ、物語の終わり見え取るやん!って思った方もいるかもしれません。

安心してください!

予想の斜め上、超斜め上の結末になっていると思いますw

それでは、ついにこの時です!


第五章 地獄 完


終章 【終焉】 開幕


次回:最凶邪竜【アジ・ダハーカ】 襲来

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