人間としての最後:また、三人で
ローゼ視点での物語。
短いですが……最後を……どうぞ。
*
合宿一日目のことを思い出す。
私――ローゼはずっと気になっていた人と、ついに友達になることができた。
名前はクルサ。
長い黒髪に、清楚で整った顔立ち。
あんなに可愛いなら、彼氏の一人や二人いてもおかしくないはず。
――まあ、あの髪色が理由でいないことはありえそう。悪い神様と同じ色だとか、縁起が悪いとか。
でも私はそんなの全然気にしない。むしろ彼氏がいないなら、私が貰っちゃいたいくらいだ。
同じクラスになったときから気になっていた私はお風呂のあと、同じ部屋で、ベッドの上で、思い切って直接聞いてみた。
「クルサって……付き合っている人とか、いないの?」
「い、い、いな、な、ないよ……っ」
――あ、これは絶対いるやつだ。
余計に気になった私は質問を重ねていった。学園にいるのか、クラスはどこか、特徴は……と。
そして、ついに核心に迫った。
「まさか……オリオン、とか?」
その瞬間、クルサの顔がぱっと赤く染まった。
口がもごもごと動き、噛み噛みながら答えを出す。
「そそそんんんんんななななな」
それを見ていた私は心の中で「やっぱりー!キャー!」と叫んだ。
いや、正直、あんな奴のどこがいいのかは分からなかったけど。顔は良いし、私の知らない一面があるのかもしれない。そう思うことにした。人それぞれだもんね。
それにしても、クルサはオリオンとの交際を一方的に否定する。
理由があるんだろうけど、クルサの反応がとにかく可愛くて、笑ったり照れたりする姿を見ているだけで、ついからかってしまう。
私は完全に彼女を気に入ってしまった。もっといろんな表情を見てみたい――そう思った。
だからこそ、洞窟試験のとき、私はできる限りクルサとオリオンが二人きりになれるように立ち回った。
それが彼女の幸せにつながるなら、と信じて。
……自分の体に、確かに異変を感じながらも。
現在。
あのゼーロっていう人が、私の前に現れてから、体の調子がおかしかった。
何故か、あの人の手ばかり目で追ってしまう。
【あそこが、私の居場所だと訴えてくるみたいに】。
学校で会ったときやすれ違ったときは、何も感じなかったのに……今は確かにそうだ、と体が訴えている。
違和感――それは、あの人の手の中に収まることではない。
私が……人間としてここにいること自体が、違和感だった。
視界が歪む。心も体も、悲鳴を上げている。
このままでは、もうもたない。
苦しみながらも私は都市の中を走っていた。
そのとき、ふと隣にクルサが目に入った。
彼女はオリオンから目を離さない。
顔をぷくっと膨らませて、拗ねているみたいだ。
きっと、ゼーロっていう人に嫉妬しているのね。
あぁ……なんて可愛いんだろう。
オリオンも、ほんとにオリオンよ。
こんなに可愛い彼女を放っておいて、学園一のモテ女と話しているなんて……浮気よ、浮気。
私が……クルサを貰っちゃうんだからね。ふんっ!
へへっ、な~んて。
グサッ
そんなことを思いながら走り、瞬きをした時、オリオンがゼーロに刺された。
血を流し、地面に倒れる。
何が起こったのか、理解が追い付かない。
そして……
「聖剣ヴィーナス」
ドクンッ
痛い……急に心臓が痛くなった。
自分の名前が呼ばれた気がした。
脳裏をひとつの疑問がよぎる。どうして、私はマイラと一緒にいるのだろう? 最初から? 気づけばいつもそばにいたような気がする。監視することが私の“役目”だった――そんな確信だけが、淡く残っている。
もういいや、考えても仕方ない。時間が、もうないらしいから。
どうして今、私が死ぬのか。なぜそんな予感が胸を満たすのか。理由は分からない。だけど確かに、これが最後だと分かる。胸の奥に、言葉にならない静かな諦めが広がっていく。
周囲を見るけど、マイラはどこかに行ってしまった。
最後に、ちゃんと別れを言いたかった。寂しい、嫌だな――そう思った瞬間、視界にクルサの顔があった。こちらを見据えるその瞳は、驚きと困惑でいっぱいだった。
ごめんね。私もよく分からない。
もう、私にできることは何もないけれど……
最後に、伝えなくちゃ。
「クルサ!あなたはオリオンと、幸せに生きなさい!……ずっと応援してる!」
声は震えていたが、嘘はない。言い終えると、身体の周りに赤い光がふわりと立ちのぼる。
世界が柔らかく揺れ、時間がゆっくりと沈んでいくようだった。
痛みと温度が混ざり合い、思い出が硝子細工のように透けて見える。
――まだ、生きていたい。もっと、ここにいたい。
でも……最後だから、せめて笑っている自分を残してあげたい。
「短い時間だったけど……ありがとう!」
――へへっ。
笑えている かな
「たのしっ」
バンッ
かったよ。
本当に楽しかった。
こんな私を……どうか……忘れないでほしい。
食べ過ぎないでね、マイラ。
彼と幸せになってね、クルサ。
バイバイ!
また……どこかで……




