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第六十七話 ギリシャ神話最強の英雄 ヘラクレス


 ポワン


「ありがとうございます。先生」


「おう」


 ハルクはBクラスの生徒たちと都市の外壁の陰にいた。

 数分かかったが、全員への精神治療は完了。

 これから都市に入って魔族と対峙するわけだが……俺自身に戦う気はない。

 ジークフリート(弟子)に頼まれた手前、生徒たちを死なせない程度に手を貸す、それだけだ。


 そう考えをまとめ、背後で妙にじっとしていたアルターに声を掛けようとした、その瞬間――。


「治療は終わっ……」


「――さて、やりますか」


 ジャララララ…… ジャキンッ! フッ!


「……? なっ……ぐっ!」


「そーらっ!」


 ドンッ!!!


 ……チッ。なんだこれは?

 鉄の鎖がいきなり体中に巻き付き、そのまま壁へ叩きつけられた?


「放ってください」


 ドドドドドドドドド――ッ!


「チッ……」


 迫る連撃。俺は両腕を交差させ――。


 ババババババババッ!!!


 正面から多人数による同時攻撃。

 俺はその場から動かず全てを受けた。


「さすがは先生。上級魔法の連打でも死なないとは」


 そう言って笑うアルターの顔は……俺が何度も見てきた、人殺しの顔だった。

 暗く醜く、あのニヤリとした口元。

 それに加え、この威力……本気で俺を殺そうとしているようだな。

 理由は分からんが、生徒の奇襲一つ避けられねぇとは鈍ったもんだ、俺は。

 しばらく戦ってなかったから――まぁ、言い訳にすぎねぇが。


「なんの真似だ?演習時間ではないぞ」


「ただの殺しだよ!このやろう!と言いたいですが、止めておきましょう。あの方に厄介なあなたを殺すように言われましてね。さっさと死んで頂けますか?英雄ヘラクレス殿」


 あの方?が誰なのか知らないが、ヘラクレスは俺が千年前に捨てた名前。

 伝承として人々はその名を知っている。だが、俺がその本人だと知る者は、ジークフリートを含め、せいぜい騎士団長の連中だけのはずだ。

 となれば――その中の誰かが、アルターに俺の抹殺を命じたということになる。

 その人物が誰か気になるが、今はそれより目の前の事態を片付けねえと。


 どうやら、アルターだけじゃなく、このBクラス全員が俺を殺したがっているようだからな。

 Bクラス全員がこちらを潰すつもりで魔法を放ちながら詰め寄ってきている。

 俺は壁際に追い込まれ、円を描くように取り囲まれ、両手を前に突き出して魔法の準備を整えている。


 気持ち悪いって倒れ、俺に精神治療をさせたのも意図的。

 俺をここに留め、殺すためだったってわけだ。


「俺を知っていて挑むとは大した度胸じゃないか」


「あなたを知っているから頼まれたんですよ。戦わない英雄とね」


 くそっ……あの方って野郎、余計なことを吹き込みやがって。

 アルターが俺を“英雄”だと知りながら即座に仕掛けてきた理由――それは俺が反撃しないと確信していたからか。


「ですが――英雄には違いありません。ゆえに、最初から全力で行かせてもらいますよ」


 アルターは鼻で笑い、眼鏡を無造作に投げ捨てる。

 次の瞬間、両腕に力を込めた途端、空気が震え、周囲のエーテルが轟音を立てて奴へと吸い寄せられた。

 肌を焼くような圧が場を支配し、俺の体毛が総毛立つ。


 ――ゴゴゴゴゴゴッ!!!


「はあああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 咆哮が轟いた瞬間、地面が爆ぜた。



 アルター:鋼属性。

 この世界で魔族化に適応し、自分の力として扱える人間が”二人”いる。

 そのうちの一人が、彼だ。

 彼は黒翼の構成員であり、あの方……ロキに仕えている。

 

 魔族化した人間……しかし、理性を失わず自我を持っている。

 彼は人間でも魔族でもない間にいる存在といえるだろう。


 元より高い素質を持っていたアルターは、魔族化によって更なる跳躍を遂げた。

 その力は英雄の領域へと迫る――。



 眩い光が爆発的に広がり、視界が真白に塗り潰される。

 数秒後、ようやく戻った光景に俺は思わず息を呑んだ。


 そこに立っていたのは人間の体に、黒く悍ましい異形の部位が融合し、節々から鋭い金属が突き出している。

 肉と鉄が螺旋のように絡み合い、皮膚の下で光る脈動は、完全に魔族のそれだった。


「アーーーハッハッハッハァーーッ!!!」


 狂気の笑いが響き渡る。


「力……魔力がみなぎるッ!!やはり魔族化は素晴らしいッ!!」


 叫びと共に、鋼の鎖が蛇のように蠢き、空を切り裂いて咆哮する。


 一般市民は知らないが、騎士は魔族化の存在を知っている。

 千年を生きた俺が知らぬはずもないが――理性を保ったまま適応した人間を見るのは、これが初めてだ。


 そして今、確信した。

 現代で魔族化の魔法を唱えることができるのは、黒翼の幹部:アスモデウスただ一人。

 アルターはそいつに魔族化させられ……それでも適応して、仲間として取り込まれたってところだな。


 っと考えている間に奴が来た。


「いきますよヘラクレス! 上級魔法:鋼鉄呪縛――牢獄!」


 ジャララララ――ガチィンッ!!


 さっきとは比べ物にならない速度で、地面から鉄の鎖が這い出す。

 瞬く間に俺の体を縛り上げ、周囲に分厚い鉄の檻がドーム状に形成。


「上級魔法:鉄薔薇!」


 足元、檻の内側から鉄の棘が芽吹くように無数に突き出し、服を裂き、肉を穿つ。


「皆さん!」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!


 檻の外壁が口を開き、そこから殺到する魔法の雨。

 炎も氷も雷も、鉄の檻の内部で弾け、爆ぜ、まるで巨大な鉄釜の中で煮え滾っているようだった。

 俺はただ腕を交差させ、耐えに徹した。


「仕上げです――超級魔法:剛!」


 ガガガガガガガ……ドガァン!!!!


 アルターが片手を突き出すと、奴の後ろから地響きと共に巨大な鉄の巨像が出現。

 巨腕に握られた剣が振り下ろされ――


 ――バァァン!!!!!!!!!!


 轟音が地面を揺るがし、牢獄は粉々に砕け散った。

 砂煙が視界を覆い、暴風が全てを呑み込んでいく。


 だが、風が止んだ時――その中に、まだ俺は立っていた。


「……まだ死なない。ささっと死ねっ!と言いたいところですが、止めません!さっさと死んでくれませんかね!」


 砂塵の向こうからアルターの低い声が響く。


 ……だから、戦いは嫌いなんだよ。

 ったく、痛ってぇな……。


 左腕はさっきの一撃で木端微塵。

 右腕と肋骨も数本、確実に折れている。

 足は――


 ガン、ガン。


 ――動く。数か所、貫通傷で血が止まらねぇが、


 メキ……ギュギュッ。


 筋肉で押さえ込めば、止血くらいはできる。

 この程度の”傷”なら、まだ魔力は温存しておけそうだ。

 にしても……


「おい、アルター。なぜ黒翼の仲間になった?」


「……ん?あぁ、賢く判断した結果ですよ。強くなる方法が手っ取り早く、それも近くにある。ならば、その力を利用したほうがいいではありませんか。どれだけ、他人が犠牲になろうとも」


 それに……


「我々の目的はですね……”悪神アンリマユ”の復活なんです。黒髪以外の人類を滅ぼすためにね。僕の髪は黒ではないですが、仲間となったことで生かしてくれると約束してくれましたし、その時、黒髪になればいい話。……都合が良かったってだ……け」




 っ……




 ビキッ






 ”ア”?





 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ






 ……”おい”、”おまえ”  ”今”  ”なんつった”?……






「あっ、アンリマユを復活させるって言ったんですよ」


「お前、それ、本気で言ってんのか?」


「居たって真剣、本気……」


 悪神アンリマユを復活させる?

 あの神様が生き返るってことか。

 実質、推しが生き返るに等しい。

 響きは良い……俺が何度も望んできたことだ。


 一筋の光、俺にとっての希望のように思えてくる。


 だがな……俺の推しはな……世界を滅ぼしちまうんだよ。

 マジの推しがこの世から消えちまうんだよ。

 あの神様が蘇るってことはな、ゴミ(善神共)が復活してあの戦い(アルマゲドン)がまた起きる。

 そん時、俺はまたゴミ(善神共)の操り人形になって戦わないといけなくなるんだよ!

 

 蘇ってほしい、生き返って俺にまたあの笑顔を見せてほしい。

 会いたい……すげー会いたいけれど……


 それは”あの世”って決めてんだ。


 きっと地獄にいるだろうが、俺はそれでも会いに行く。

 推しと地獄……それはもう天国なんだ。


 そんでなー……すまないって謝るんだ。


 お前たち(黒翼)があの神様を蘇らせたら、もう一度悲劇が起こる。

 あの神様が亡くなる悲劇が……。

 

 なら、


 ドン!!!!!!!!!!!!


「そうか。だったら戦わざるを得ないな」


 もう「戦わないハルク」は終わりだ。

 奴らの目的がはっきりした今、俺は止まらない。奴らが望む“復活”を許すわけにはいかない。


 英雄として、ヘラクレスとして――お前たちを、ぶち殺してやる。


 悪いなジーク。お前との約束、守れそうにないぜ。

 まぁ、生徒じゃなくて……敵ならセーフか。


 ゴンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 ボワンボワンボワンボワン


「最後に一つだけ聞いてやる。本当にあの方(推しキャラ)を復活させようとしているんだな?」


「えっ、ええ。我々の目的は悪神のふっ……」


 もう分かった……十分だ。


 バン!!!!!!!!!!!!!!!!!!



 英雄ヘラクレス。

 千年で鍛え上げた筋肉を常に抑え込んで生きてきた男が、今、全ての抑止を解いた。

 凝縮された筋繊維が解放され、肉体は瞬時に膨張する。痛みは筋肉で押し込め、骨は筋で固め、彼は――巨人となった。


 

 メキメキメキメキ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 俺は一瞬で距離を詰め、重たい右拳をアルターの全身に触れた。

 顔がスローでじわじわと歪み……


 ピキピキピキ 


 斜め上空へ思いっきり吹き飛ばす。


 シュドンッ!!!!


「ガバッ!」


 バン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 シュンッ!


 俺は地面が粉砕するほど強く蹴り上げ、アルターが飛んでくる場所へ先回り。

 パンッ!

 拳を渾身に握りしめ、縦振りに振り下ろす。

 ドンッ ドガンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 アルターは地面に叩きつけられ、血を吐いて呻く。

 まだ息があることを確認した俺は重力に身を任せ、顔を下にそのまま落下する。


 ドン……ドンドンドン!!!!!!!!!


 風を浴びながら右手を後ろに筋肉を集める。

 膨張した剛腕を容赦なく強くアルターに叩きこむ。


「メテオ・フォール」


 ドン

 

 ウゥゥゥゥーーーーーーーーーーン


 ヒュドンーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 俺の拳は落ち、衝撃は地面を震わせた。

 衝撃波が周囲に広がり、砂塵と悲鳴を飲み込む。

 

 シュウゥー


 俺は筋肉の開放を解除し、体を元の大きさに戻す。

 足元には大きなクレーターが口を開き、アルターの残骸は吹き飛ばされて塵と化していた。


「俺を殺す……だったか?俺を殺したいんなら、神か、”あの邪竜”でも連れてこい」


 とカッコつけたい気分だが、神はともかく、”邪竜”だけはどうしようもないがな。

 実際に戦ったことはねぇが、神が殺されるところを見たことはある。

 それに加え、俺ですら思わず後ろに下がっちまうあの恐怖。

 戦う前に負けを決めるのは騎士として恥じ、英雄ならもっと恥かもしれんが、あれはこの世にいちゃいけねぇよ。

 ゴミ(善神)よりも、悪神よりもな。

 奴は洞窟の深くに封印されているが、もう千年も前だ。

 ゴミ(善神)がいない今、奴が目覚めていることがあれば、いつ、世界が滅んでもおかしくない。

 ……いかん。

 こういった悪い予感は良く当たるんだ、俺は。

 やめておこう。


 黒翼か。これまではどうでもよかった。だが目的がアンリマユの復活だと聞けば話は別だ。

 許さん。全員、ぶち殺す。

 そう決意した俺は周囲を見渡し、他のBクラスの生徒と対峙しようとしたが……さっきの爆風で全員吹き飛んで壁に埋もれて気絶してる。頭から血ー流しているから死んでいるかもな。

 まぁ一旦はいい、速く都市の中に行く。

 あの方って奴をひとまず殺すとするかね。

 

 俺は都市の中へと走った。


 

 次回:第六十八話 ”失敗作”:今までありがとう。たのし……

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