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SS日記5 聖域(ノーパン)の恩:ハルクの過去

 SS日記2アンリマユの続きです!

 これはGクラス……オリオンの担任教師「ハルク」の過去。

 ハルクは千年前にR18のエリアがあるこの店でバイトをしていました。

 その時の出来事です!



 ハルクの前に一人の美しい女性がR18禁エリアの床で膝をついている。

 理由は分かっている。

 俺はこの女性の後ろにいて、一部始終を見ていたからだ。

 新刊の本が目の前から無くなり悲しんでいるのだろう。

 

「おっ、お客様……大丈夫でしょうか?」


「くぅ~」


 女性が悲しそうな表情をこちらに向けてきた。


 ドキッ


 なっなんという美しさだ。筋トレで鍛え上げた俺の全筋肉が一斉に惚れこんでいる。

 いや、それどころか俺の“推しキャラ”に瓜二つじゃないか!

 こんなことがあっていいのか?俺が見間違えるはずがない。

 髪、胸、顔、体つき、全てが似ている。

 あまりにも可愛い。尊すぎる。


 俺の心臓は爆音のごとく跳ね上がる。

 何とかしてやりたい……。

 だが、新刊はあまりにも人気で在庫切れ。次回の入荷はいつになるか分からない。

 普段ならここで「申し訳ありません」で済ませるところだ。

 だが目の前にいるのは推しキャラそっくりの女性!

 そして、俺はこの女性に”先ほどできた恩”もある!

 ならば!


 俺は同店舗に電話を掛けた。

 

「俺だ! 実はな……本当か!? よし、今から行く!」


 どうやら10km先の店舗に在庫があるらしい。

 俺は女性に声を掛ける。


「お客様、このあとご予定などは?」


「えっ……あ、特にありません」


「お時間はどれくらい余裕がありますか?一時間……いや、三十分でご用意いたします!」


「ほ、本当ですか!」


「はい!一冊でよろしいですか?」


「はい!」


「では、店内でお待ちください!」


 そう言った俺に、彼女は満面の笑顔で深々とお辞儀をした。

 俺は気絶しかけたが何とかこらえ、心臓を爆発させながら俺は勢いよく車に飛び乗った。――が。


「……ガソリンが、無いだと」


 そういえば最近電車ばかり使っていて車は放置していたんだった。

 仕方ない、電車で……って運休見合わせ!運が悪い。

 自転車で行くか、だが10kmを30分、不可能だ。

 タクシー、近くにいないか……。呼ぶのには時間がかかる。

 くっ、こうなったらあの女性にもっと時間を頂くしか……。

 ダメだ!

 彼女をこれ以上、悲しませてたまるか!


 チャリン――。


「おぉぉぉぉおおおお!!!!」


 俺は店の裏に置かれていたママチャリにまたがり、狂ったようにペダルを漕ぎ出した――!



 ハルク……彼は、ただの人間だった。

 まだマナが空気中に満ちる、魔術の時代。

 彼の魔力は凡庸で、本当にただの一般人。

 筋トレを愛するだけの、普通の青年にすぎなかった。


「ふっ……ふっ……ふっ!」


 彼は自転車を必死に漕ぐ。

 東京の人混みを抜け、ただ推しのために。

 間に合わない――そう分かっていても漕ぐ!


「ふっふっふっ!!!」


 漕ぐ、漕ぐ、さらに漕ぐ!

 推しの笑顔を守るために!

 どんどん速度が速まっていく。


「ふふふふふふふ!!!!!!!!!」


 ビューンッ!


 自転車で出せる限界速度。

 道行く警官が止めようと魔術を展開した――が。


 ……シーン。


 彼はもう、そこにはいなかった。


 そう――この瞬間、ハルクは「ただの人間」をやめたのだ。


 自転車はスピードに耐えきれず壊れた。

 だが彼は失速せず、自転車を乗り捨てそのまま脚で地面を蹴り、速度を維持する!

 さらに、走る、走る、走る!!


 視界から消え去る速さ。

 彼は障害物をすべて避けて走り抜けた。


 ――10km往復、13分。


 彼は新刊を手にし、店へと戻ってきた。


 

「お待たせ……しました」


 俺は滑るように女性の前に現れ、プロポーズの花束を渡すかのように新刊エチチ本を渡した。

 かなり疲れてい……る。

 というか俺、めちゃくちゃ早くなかったか?

 まぁこれが推しの力ということかもしれんな。


 そんなことを思っていると女性が新刊を胸に抱きしめ俺に天女のような笑顔を送ってきた。


「あっ!ありがとうございます!大切にします!」


 パァァ――。


 光が差した。眩しい光が……。

 彼女の笑顔が、推しキャラと完全に重なり、俺の脳内をとろけさせる。

 何もかもが浄化される……そんな感覚。

 今日が命日でもいい――本気でそう思った。


 俺の思考も視野も、真っ白になっていく……。


 ・

 ・

 ・


「なっ!何ですって!分かりました、今向かいます!すっすみません。ワタシ急用が……ってあれ?聞いていますか?……お~お~い。人間さ~ん」


 ・

 ・

 ・


「どっどうしましょう固まってしまいました。ワタシが悪いのでしょうか。お礼の仕方が間違っていた?のでしょうか……。ここは彼女アラクネに聞いてみましょう」


 ・

 ・

 ・


「ふ、ふん……ふんふん……そ、それが本当にお礼になるんですか!? ……わ、分かりました! が、頑張ります!」


 タッ、タッ……。


「い、いきます……!」


 チュ――ッ


 ・

 ・

 ・


「はっ!」


 気絶していた……のか?

 いや、あまりの可愛さに“昇天”していたのかもしれん。


 慌てて辺りを探したが、もう彼女の姿は無かった。

 店員の話では、数分前に会計を済ませて帰ったという。


 ……せめて名前だけでも聞きたかった。


 だが、俺は確かに“恩”を返すことができた。

 あの瞬間を思い出す……。


 ――実は、彼女が床にしゃがむ瞬間、俺は見てしまったのだ。

 スカートがヒラリと舞い、その奥が……まさかの聖域ノーパン姿。


 驚きはしたが、今思えばただ不思議で仕方がない。

 なぜノーパンだったのか……あの女性について、結局何一つ分からなかった。


 だが――見せてもらった“聖域”の礼は返せた。

 それでいい。

 俺は天井を仰ぎ、両手を合わせ、心から感謝の祈りを捧げた。

 推しキャラが、現実に存在していたことに。

 


 ハルク――それは、今の名。

 本当の名は「ヘラクレス」である。

 この男は、あの日から数年後、数々の試練に挑み、ついに“十二の難業”を成し遂げた。

 十二の心臓を捧げられ、魔術すら通じぬ屈強な肉体を持ち、大剣を振るう英雄へと至ったのだ。

 やがて訪れるアルマゲドン――善神と悪神による最終戦争。

 彼はその戦いに英雄として参戦し、数多の仲間が散るなか、ただ一人、生き残った。

 世界を救った唯一の生存者。

 その名は、確かに歴史へ刻まれた。


 ――だが彼は後悔していた。

 推しキャラにあまりにも似た存在――“アンリマユ”を討つ、その戦いに加担してしまったことを。


 剣を置き、騎士団長の座を退き、己の名を恥じ、すべてを捨てた。


 かつて英雄ヘラクレスと呼ばれた男は、今や「ハルク」と名乗り、千年を生きる教師となっている。

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