第六話 聖都市(セイトシ)
血に染まった村には、静寂が訪れていた。
生き残ったのは、若き女性たち。
魔族の暴虐に晒され、辱めを受け、心を砕かれた者たち。
彼女たちは、まるで死人のように地に伏し、虚ろな瞳で燃え盛る炎を見つめている。
オリオンは――赤ん坊に転生してから、わずか半年………
家族も、村の住人も失った。
頼れる者は、誰一人としていない。
だが――オリオンは、感じていた。
魔族たちを喰らったことで、魔力の器が大きくなったことを。
わずかに、だが確実に。
ならば、進むべき道は決まった。
赤き炎が村を貪り、闇が夜空を覆う。
転生した場所――故郷とも呼べるこの地を、振り返ることはない。
オリオンは、その小さな体で、ただ前へと進み始めた。
*
聖都市――それは、この大陸最大の都市であり、善神の名のもとに築かれた神聖なる都。
巨大な城壁に囲まれ、六つの聖騎士団が都市の治安を統治し、数百万もの人々が暮らしている。
その中でも、最も武勇に優れ、信仰厚き騎士として名高い男がいた。
六つの聖騎士団のうち、一つを率いる団長――
ジークフリート。
夜の二時。
溜まりに溜まっていた書類仕事を終えた彼は、一息ついていた。
「ようやく終わったか……」
蝋燭の灯りが揺れる執務室。
そこへ、
タッタッタッ……! バンッ!
「団長! 至急! 報告すべきことがございます!」
勢いよく扉が開き、報告書を持った団員が駆け込んでくる。
ジークフリートは疲れた表情を崩さぬまま、椅子の背にもたれかかった。
「……フラグが立ったか」
「ど、どうされましたか?」
「いや、何でもない。こんな遅くに何用だ?」
「それが――"村"に配属されていた団員と定時連絡が取れず、不審に思い、数名で村へ向かいました。ですが……村は壊滅しておりました。血の痕跡から、魔族に襲われたと推測されます」
ジークフリートは険しい表情を浮かべる。
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村が魔族に襲われたのは午前10時頃。
村の住民と騎士団員は協力し、何とか応戦。
しかし、数で押し切られオリオンが村に着いた夜には、すでに壊滅していた。
――これが、事の真相である。
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「それで、生存者は?」
「村の若い女性たち数名です」
ここでジークフリートは、おかしな点に気づく。
「待て、魔族に襲われた村で、女性だけが生きていたというのか?」
魔族は人間を襲い、喰らい、弄ぶ。
生き残った者がいるとすれば、それは巣に持ち帰る食料としてのはず。
生かして残すなど、今までに例がない。
「……はい」
報告した騎士も、それがあり得ない事態であることを理解していた。
「お前たちが魔族を討伐し、生存者を救助したのか?」
「いいえ。我々が到着したときには、すでに魔族の姿はなく、死体すら残されていませんでした。ただ、村の至るところに大量の血痕と、何かに喰い散らかされたような跡が残っていました」
「女性たちは、何か話していたか?」
「……いいえ。皆、精神崩壊を起こしており、言葉を発する様子すらありません。現在、治療を受けています」
ジークフリートは、重く息を吐いた。
部下を死なせてしまった。
それだけでも無念だというのに、残されたのは不可解な状況のみ。
真相は闇に包まれている。
「そうか……ご苦労だった。この件は私が引き継ぐ。お前は休め」
「はっ」
部下が去るのを見送り、ジークフリートは詳細な報告書を手に取った。
その内容をじっくりと読み込みながら、眉をひそめる。
「一体、何が起こったというのだ……?」
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ここまで、お読み下さった読者の皆様、誠に感謝申し上げます。
次の第七話は短い内容になっており、
八話からいよいよ、学園生活が始まります。
自分が大好きな主人公暗躍もの!
スタートです!
これからも、お楽しみ頂けると嬉しいです!
どうぞ、よろしくお願い致します。
次回:第七話 ある噂