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禁断のX話 ♡


「只今、お部屋の方が一つしか空いていない状況でして……」


【……なん……だと】


「申し訳ございません。雷雨の影響で、数分前から満室になりまして……。お二人様でしたら“奥の二人部屋”をご案内できますが、いかがなさいますか?」


【……そうか】


 できれば二部屋を取り、クルサと距離を置きたかった。

 だが仕方がない。あの雷雨の中で外にいるのも現実的ではない。

 またベンチで雨宿りなどすれば、隣にクルサがいるという状況が続いてしまう。……良く分からんが、我は今、この“状況”をなんとかしなければならない。


 理由は分からぬ。だが、我の三つの心臓が激しく唸っている。

 クルサに初めて“ハグ”というものをされた時と同じか、それ以上だ。

 今こうしてクルサが隣に立っているだけで、心拍が収まらん。視線も、どうにも、胸へ……落ち着け。

 ……同室にはなるが、二人部屋ともなればそれなりに広いはず。

 ならば、距離を取ることは可能だ。


 こうして我らは、「072」と書かれた部屋の鍵を受け取り、奥の部屋へと向かった。


 ♡


 ガチャッ——


 ドアを開き、中に足を踏み入れた瞬間、我は思わず眉をひそめる。

 二人部屋にしては、妙に広い。そして、何やら異様な雰囲気を感じた。


 ここは、本当にただのホテルの一室なのか?

 照明がピンク色に染まり、それを白い壁が反射して空間を包んでいる。奥の部屋だからか知らんが、窓はなく周囲は壁で覆いつくされていた。


 我は両手を腰に当てながら、室内をぐるりと見渡しながら奥へと進む。


 右手には、やたら白く明るい空間(風呂)。

 正面には、無駄に大きなベッド。その周囲には見慣れぬ道具がいくつか並んでいる。

 左手には……X印の板。壁に固定され、脇には手錠のようなものまで……。

 どこからどう見ても、宿泊に必要な設備とは言い難い。むしろ不必要な物の方が多すぎる。


 我はとりあえず、正面ベッドの近くにある長く黒いソファへと腰を下ろした。

 改めて室内を見渡したとき、ふとクルサが視界に入る。


 ……靴も脱がず、ドアの前で棒立ち。

 まるで時間が止まったように、ピクリとも動かぬ。


【……どうした?】


 我が声をかけると、クルサはゆっくりと、やや震える声で返した。


「こ、ここって……ほんとに、ただのホテル……だよね?」


 その声は小さく、裏返り気味で、今の空気にそぐわぬほど慎重だった。

 距離があったせいか、かすかにしか聞き取れない。


【……そのはずだ。だが、我もこの部屋は妙だと感じている。先ほど我らが泊まっていた部屋とは明らかに造りが違う】


「それもそうなんだけど……ここ、もう……」


【……ん?何か知っているのか?】


「えっ、あっ、その……な、なんでもない!」


 急に焦ったように手を振るクルサ。

 それ以上聞く間もなく、彼女は靴を脱ごうとしゃがみこむ。

 その瞬間——揺れた……おっぱいが。


 自然な動作の中で、重力に従うように、大きく柔らかそうなそれが揺れた。

 我は咄嗟に視線を逸らす。

 それと同時に先ほどの出来事が脳裏にちらつく。

 クルサは人間でありながら、偶然かもしれんが、アンリマユ様の本質を見抜き黒髪を好いている、と。

 そんな人間など今まで……。


 ♡


 普通の部屋とは違う、どこか妙な空気の漂う空間。二人きり。

 そんな状況に、我らは奇妙な緊張に飲まれ、数分もの沈黙が続いた。


「……オリオン」


 静寂を破ったのは、クルサの落ち着いた声だった。

 だが、そこには少しだけ躊躇が混じっていた。


【……何だ】


「ずっと気になってたんだけど」


【あぁ】


「なんで……私と、距離を取るの?」


 ギクッ


 我とクルサは、同じソファに座っている。

 だが我は左端。クルサはその真反対。

 やたらと長いソファの端と端、我は出来るだけ距離を置いていた。


「それに……ずっと、こっちを見ないよね」


 我はずっと、視線をベッドの方へ逸らしていた。クルサのいない側に。

 このまま沈黙が続き、何も起きずただ時間が過ぎればいいと思っていたが、そうもいかなかった。この数分で環境にクルサが適応し、我の行動に疑問をもった。

 ……正直に話すか。


【……クルサ。我は今、心臓が妙に高鳴っている】


「……え?」


【貴様に近づくたびに、あるいは視界に入れるたびに、脈動が激しくなるのだ。理由は分からん。だが……この鼓動が収まるまで、貴様とは距離を置く】


 そう言って、我はそっと目を伏せた。


「…………♡」


【……聞いているか?】


「…………♡」


 返事がない。仕方なく、そっと横をチラリと覗いてみる。

 ——その瞬間、我の鼓動がさらに跳ね上がる。

 そこには、今までに見たことのないクルサの姿があった。

 頬を染め、目元を潤ませ、どこか熱を帯びた眼差しで、こちらを見つめている。


 ……直視できん。


 我は再び顔をそむけ、額に手をあてた。


 ドクン、ドクン、ドクン……

 三つの心臓すべてが暴れているようだ。

 何なのだ……本当に、この感情は。


「オリオン……ねぇ、オリオンって、どうしてこの学園に来たの?♡」


 気持ちを整理している時、クルサが突然話しかけてきた。


【……あ、あぁ。純粋に……力を得るためだ】


「そう……♡」


 ・・・


「オリオン。私ね……皆が知らない♡魔力の高め方♡を知ってるの。もし私の言う通りにしてくれたら、きっと、魔力量は増えると思う♡」


【……ふむ】


 魔力を高める方法は二つ。

 一つは魔法を繰り返し使い、器を徐々に拡張していく方法。

 人間共は知らないらしいが、もう一つは、魔力を持つ存在を喰らい、その魔力分を取り込むこと。

 ……しかし、クルサの言うことが本当の場合、第三の選択肢があるというのか。

 選択肢が増えること自体は歓迎すべきことだ。だが、当然疑問も残る。


【クルサ。貴様も魔力が高くないはず。ならば、なぜ今までその方法を実行しなかった? それに、なぜ我にそれを今、教えるのだ?】


「……そっ、それは……♡」


 クルサは言葉を詰まらせながら、両手の人差し指をちょんちょんと突き合わせた。


「……条件があったの♡」


【条件?】


「……その儀式は……えっと……つ、付き合って、ある程度時間が経たないと……できないって決まってるの♡」


【ふむ……儀式か】


 確かに我らは男と女……人間でいう付き合うという状態になってから割と経過している。条件が整ったということだろう。だから、今このタイミングで教えてきた。納得はできる。


【なるほど。その“儀式”について詳しく教えろ】


 我にとって有用な手段であれば、選択肢の一つとして検討すべき。

 もし効率的であれば、クルサとその儀式を頻繁に行い、魔力を高めていけばいい。


「……うん。じゃあ、説明するね♡」


 クルサはそう言って、静かに胸に手を当てた。

 深く息を吸い、ゆっくり吐き、そして決意を秘めたような瞳でこちらを見据える。


「……まずは、ベッドの前に行こう♡」


【・・・なぜだ】


 ♡♡


 戸惑いながらも、我とクルサはベッドの前に立ち、向かい合った。

 ……視線が、自然と彼女の胸元に落ちる。いかん、我よ、落ち着け。見るべきは、顔だ。

 ドクンドクンドクン

 ええい、顔を見てもこの鼓動が収まらん。どこを見れば……。

 我はクルサの右耳辺りに視線を送る。


「最初は、両手を……こうして、重ねるの♡」


 クルサは静かに手を差し出した。

 その白く細い手のひらが、上向きに我を待っている。


【ふむ……直接、触れることで魔力を流し込むのか】


 我は彼女の手の上に、自分の手をそっと重ねた。そして、指と指の隙間を絡めてくる。


【……おい。何も起きんぞ】


「焦らないで。これはまだ、準備段階だから……それに私の心の準備も必要というか……ゴニョゴニョ♡」


【ふむ……そうか】


 魔力の高まりを即座に感じられる儀式ではないようだ。

 だが、クルサの表情は真剣そのもので、冗談を言っている風ではない。


「次は……♡」


 クルサは一歩近づき、顔をこちらに向けたまま、唇を……いや、顔全体を、ゆっくりと近づけてくる。

 その動きに、我の全神経が反応する。


【……な、何をする気だ】


「ハグ。……前にも、したでしょ♡」


 その声はどこか照れているようで、しかし目だけは真っすぐだった。


【今のは……ハグ、ではなかったように見えたが】


「ハグよ。……もう逃げないで。ほら、こっち来て♡」


【……しかし】


「……強くなりたいんでしょ?♡」


 確かにそうだが、これまでに魔法をクルサに教え鍛えてきた我からすれば、変な感じだ。立場が一時的ではあるが逆転している。

 しかし、実際に我は強さを求めているは事実……。

 ならば——

 我は決意を込め、ズルズルと足を滑らせ少しずつ近づいた。


「っ……ん♡」


 その瞬間、クルサの腕が我の背にまわり、そっと抱きしめられた。

 制服越しではあるが、クルサの体が我の体に密着する。柔らかく、温かい。

 感じている場合ではない。ハグならば、我もクルサと同様に


 ギュッ

 

 背に手を回すのであったな。

 我らの体がさらに密着する。


「……オリオン、こっち向いて♡」


 重く、静かな声。我は言う通りに視線を向けると同時にクルサの顔が、目の前に迫り——


 チュッ


 お互いの唇が、そっと重なった。

 ……時が止まったような感覚。

 初めての接触。温かく、どこかくすぐったいような、妙な感じだ。

 我はすぐに体を引こうとする。


 だが、クルサの腕が首にまわり、やんわりと引き寄せられる。

 離れられない。


「……もう少し♡」


 クルサの息が、我の唇に触れた。

 その距離の近さに、心臓が跳ねる。


 彼女の目は真剣だった。

 ただの好奇心や悪ふざけではない。確かな意志と感情が、そこにあった。


 もう一度、唇が触れ合う。

 今度は少し深く、互いの温度を確かめるように。舌を絡めてきた。

 数十秒、静かな熱の中で意識がふわりと浮かび、我の思考はぼやけていく。


「はぁ~はぁ~」


【……こっ、これで、本当に魔力が高まるのか?】


「……ん……そう、だから♡」


 クルサの手が、そっと我の手を取った。

 そして、ためらいもなく、自らの胸元へと導く。


 ムニュ


【おい、クルサ……何を——】


 想定外の接触に、言葉が詰まる。

 制服越しに伝わる柔らかな感触に、我の意識は一瞬、混乱した。


「……オリオン。胸、好きでしょ?♡」


【そ、それは……っ】


 再び、唇が重なる。

 今度は、先ほどよりも深く、長く。


「私はオリオンのことが、好き……♡」


 ちゅっ、と小さく音を立てて唇が離れ、またすぐに重なる。


「好き♡」


 ちゅっちゅっ——。


 唇が触れるたびに、なぜか身体の奥が熱を帯び、クルサのぬくもりが伝わるたび、我の意識が少しずつ霞んでいくような感覚に包まれる。


【クルサよ……】


「どうしたの?♡」


【……我は今、不思議な感覚に陥っている。何というか、身体が軽くなっていく。これは……魔力が高まる予兆、的なもの、なのか?】


「そう……かもね。嬉しい。私、もっと……頑張るね♡」


 ちゅ


【……うぐっ】


 ちゅ♡♡♡


【……】


 ちゅ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡


【】


 ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡


「大好き♡」


 理性が……。

 これが魔力を……何で……あったか?

 我は何を……


 ちゅちゅちゅちゅちゅ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡



 オリオンは今の感情を知らぬまま、ベッドに押し倒された。

 

 時刻は10時から16時の間。

 オリオンはクルサの言葉に抵抗することなく、導かれながら行動する。

 場所も時間も、すべてが現実味を失っていく。ベッドにいたのか、ソファにいたのか、お風呂にいたのか、それすら曖昧になるほどに。

 この部屋は壁が分厚く、防音になっていたため外に激しい声、【絶叫】が漏れることはなくただ、二人の声が部屋に響く。

 その声は二人をさらに熱く、激しく儀式を進行させる。

 いつしか、オリオンは自らの目的すら忘れていた。

 魔力のためでも、強さのためでもなく、ただクルサの存在に溺れていた。

 そしてクルサもまた、それを拒むことはなく、余計にオリオンを求めた。溜まりに溜まっていたオリオンへの気持ちが溢れ出ていく……。

 ……お互いに喰らい合う。

 体力が……尽きるまで……。


 

次回:第六十三話 捧げもの:聞こえない魂の絶叫

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