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第六十話 エチチ(絶叫)に繋がる観光?♡:見てはいけませんー!byアンリマユ

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 ・

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【……おい、ローゼ】


 我は咄嗟に、最も近くにいたローゼの肩を掴む。


「なっ、何よ」


【あれは……“バベルの塔”……ではないか】


「えぇ~、知識0点のオリオンが珍しいじゃない。そう、あの塔は大昔からあったとされてる“バベルの塔”。いろんな逸話があって——」


 “されている”ではない。

 我は知っている。確かにあの塔の頂で、かつてアンリマユ様と共に街並みを一望していた。

 だが、こんな街は知らぬ。

 “アインツ・ベルン”?そんな街の名など、我の時代には存在していなかった。

 街の名前だけが変わり、あの塔は残った……そういうことか……?


 我は天を見上げ、アンリマユ様との思い出を呼び起こす。


 ・・・

 ・・・



 千年前……バベルの塔の上。

 我は己の身体を縮め、小さき竜の姿となって、アンリマユ様の肩に乗っていた。


「アジ・ダハーカ……私は、人間が好きです」


 街を一望しながら、アンリマユ様はそう仰った。


【……そう、ですか】


 我はアンリマユ様に創られし存在。

 主が好むものを、我もまた好むべきかもしれぬ。

 ……されど、我は人間が嫌いだ。

 理由は明白。

 人間どもが、我が主を嫌い、妬み、罵倒するからだ。


 確かに、アンリマユ様は多くの命を奪ってきた

 だが、それは人間ではなく、世界の均衡を乱す魔族や生物たちの命。

 人間に対しては——その命を、限りなく奪わずに済ませておられる。

 ……それは、主が”人間のために動いて”おられるからだ。


 そんな中、他の神々は、人間をおもちゃのように扱うことを当然とし、アンリマユ様のその”在り方”を“異端”と断じた。


『……人間共に助けを乞われ救うことはあっても、神から一方的に救いを与えることはあってはならぬ』


 ——それが、他の神々の一致した見解。


 彼らは主の“善性”を否定し、“悪”の部分だけを切り取って、「アンリマユは悪神である」と人間たちに吹聴した。

 自らは“善”、アンリマユ様だけが“悪”と定め、救おうとしている人間から嫌われることで、主がしていることを止めようとした。

 それでも主は人間のために行動し、やがて、天より追放された。

 以降、神々は「善神」と「悪神」に分たれることとなった。


 元凶は善神ども——そうであっても、最終的にそれを信じたのは人間共だ。

 誰よりも優しく、誰よりも人間を救おうとした御方を、“悪”と呼んだ。


 ……そんな連中を、我が好ましく思えるはずがない。


 もし、主が人間を滅ぼせと仰せになれば、我らは歓喜をもってその命を奪うだろう。

 しかし——アンリマユ様は、自らが“悪神”と呼ばれながら、なお人間を好いておられる。

 ……優しすぎる。

 それは、この御方の、美しき強さであり、脆き弱さでもある。

 

「ふふ、微妙な表情ですね。まぁ、あなたの言いたいことは分かります。無意味……この想いはきっと片想いのままでしょうから」


 そう言って、アンリマユ様は人差し指で街を指した。


「見てください。この街並みを……信じられますか?これらすべて、人間の、小さき手によって築かれたのです」


【アンリマユ様が今お読みになっている……ピンク色の本も、ですね】


「そうですね……あれも、実に素晴らしい創作物……って、ゴッホッン!!!……それは置いておきましょう」


 ヒュゥ——。


 優しい風が吹き抜け、アンリマユ様の長髪がそっと揺れる。


「どれもこれも、ワタシたちには作れぬものばかりです。人間は時を重ねるたび、進化していく。これからも新たなものを生み出し、世界をより輝かせていくでしょう。そんな可能性を秘めた存在——それが“人間”です。だから私は、人間という生き物が……好きなのです。この綺麗な世界をワタシに見せてくれるのですから」


 ——しかし。


「人間とは、光、闇、善にも悪にもなり得る存在。その両面ゆえに、戦争は絶えず、人同士による殺し合いもまた止まらない。これまで、何千、何万という命が争いの中で失われてきました。私は、人間が互いに傷つけ合う姿を……もう、見たくはないのです」


 だからこそ——ワタシは、今の世界を“破壊”するのです。


「争いの連鎖を断ち切るため、世界の頂に立ち、すべてを支配する。私が“悪”となり、すべての憎しみをその身に背負えば、争いの矛先は私一人に向かう。既に“悪神”と呼ばれて久しい私ですが……それでも、戦争は止まりませんでした。ならば、もう迷うことはない。破壊しましょう。善神もまとめて、この世界ごと。……ワタシには、それくらいしか、できないのです」


 アジ・ダハーカ……


「最後まで、付いてきてくれますか?」


【……仰せのままに】


「……ありがとうございます」


 その言葉に応じるように、穏やかな風が吹き、アンリマユ様の長い髪がふわりと舞った。

 そして、その横顔に浮かぶのは、どこまでも優しく、美しい微笑。

 やがて主は再び、ゆるやかに視線を街へと戻す。

 その姿に倣い、我もまた、静かにその景色を見渡した。

 ——すると、一際目を引く建物が視界に入った。


【アンリマユ様……あの、ひときわ大きい白い建物は何ですか?窓から……妙に、ピンク色の光が漏れているのですが……】


「ん?〜どれどれ……えっ?……ええええええええーーーー!?な、ななななぜあんな所にラブホテルがあるのですか!?」


【ラブホテル……?】


 あの白い城が?そもそも、ラブホテルとは何だ?


「人間が多く集まる場所とはいえ……あれは目立ちすぎです!!入口に“二つの玉”、そしてその上に“長い棒”……って、ちょっと!?あれ、完全にアウトじゃありませんかっっ!!?」


【二つの玉と長い棒が……アウト? 何が、ですか?】


【……待ってください。窓の隙間から……あれ、もしかして中が——えっ……み、見え……!? きゃああああああああっ!!】


【うぐっ!?】


 突如、我の顔をアンリマユ様の手が覆った。


【な、何をなさるのですか……!?】


「ダメです!! これ以上は見てはいけません!!あのお城のことは記憶から抹消してください!!今すぐにっ!」


 余計に気になった我は、小さな羽をバタつかせながら、主の指の隙間からその“ラブホテル”なる建物を覗こうと試みた。


 シュンッ!


「だーめッ!」


 再び手で視界を遮られる。


 シュンッ!


「ダメです!」


 シュンッ、シュンッ、シュンッ!


「もう!ダメと言ったら、ダメなんですぅー!!」


 ・・・

 ・・・


 その後、我はアンリマユ様によって羽を掴まれ、冥界門へと豪快に投げ飛ばされ、魔界へと送られ、結局ラブホテルが何だったのかを知ることはできなかった。

 異形たちに聞いたが、どうやらアンリマユ様から我にこのことを話さないよう口止めをされており、聞き出せず、調べてもまたもや良く分からない単語ばかり。

 異形たちに見つかれば即座に本ごと没収される始末……。これも主の命令だとは思うが……全く、アンリマユ様はなぜこうも我に隠し事をするのだ……。


 いや、それは今はいい。

 ともかく、記憶を呼び起こしたが、確かに千年前にあったバベルの塔で間違いない。

 多少錆びてはいるが、造形は当時のまま。

 まさか千年の時を経て、まだ我とアンリマユ様との思い出の地が残っているとは……。

 他の地は原型すらないが、この塔はほとんど変わっていない。

 人間……たまには役立つではないか。

 まぁ、貴様らがアンリマユ様を蔑む以上、我は一生、敵だがな。

…………

次回:第六十一話 突然の雷雨♡:揺れ動く:「ねぇ、オリオンは……大きい方が、好き?」

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