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第五十九話 竜と英雄の初対面


 三日目の朝。

 オリオンたちは荷物をまとめ、広場に集まっていた。


 ジークフリートと教師たちが話し合った結果、ここに滞在することは危険という判断となり、三日目の午前中に行われるはずだった試験を中止。合宿の予定を変更、明日の朝8時にはここを出れるよう昨夜、生徒たちに支持を出し、今という状況になる。


 しかし、何班かがまだ集まっていない。寝坊した者が多くいたからだった。

 二日目の疲れがまだ取り切れておらず起きれなかった者、試験が無くなり夜遅くまで仲間たちと遊び、挙句タイマーを入れ忘れ起きれなかった者、人の目を盗み”ピーX”を堪能した恋人たち……などなど。


 三日目の試験は中止となり、生徒たちはこれからバスに乗って次なる合宿地へと移動する予定だが、全員が揃わなければ出発はできない。

 そのため、既に集まっていた生徒たちは広場に腰を下ろし、仲間同士で雑談を楽しんでいる。

 

 そんな緩んだ空気の中――オリオンは苛立ちを募らせていた。

 人間の教師どもの指示に従い、時間通りに指定された場所へ向かったというのに、他の者たちが遅れているせいで、結果的に“待たされる”羽目になっていたからだ。


【……我を待たせるとは、いい度胸だ】


 静かに呟いた声には、怒気が滲んでいる。

 早起きまでして、愚直に従ったというのに……この仕打ち。


 ドッ ドッ ドッ――


 オリオンの足音は、苛立ちを隠す気すらない。

 せめてこの時間を有効に使おうと、彼はトイレへと足を向ける。

 ――そして、角を曲がった、その刹那。

 目の前に、鎧を身に纏い、聖剣を腰に携えた一人の英雄が現れた。


 ここに竜と英雄が向かい合う。

 


 ドッ


 タッ


【……】


 ん?


 ピン


 この男……魔力量が凄まじいな。

 Aクラス、いや、それ以上……待て、こやつは……。


 ふっ、

 

【ほぉ、貴様が”ジークフリート”(供物)か】


 異形たちやアラクネから得た情報、そして何より——目の前の男から放たれる、圧倒的な魔力の波動。


 間違いない。こやつが、“ジークフリート”。


 初対面にもかかわらず、一目で悟った。

 我がこれまで滅ぼしてきた数多の強者……名だたる魔族、そして竜をも屠ってきた“英雄”たちをも凌ぐ力。まさに、真の戦士。


 ——人間は時代を超え進化し、強くなる存在。

 かつてアンリマユ様がそう語った言葉が、今この瞬間、現実のものとして突き刺さる。


 ……怒りが、不思議と消えていた。

 ジークフリートが鋭い眼差しでこちらを見据え、静かに言葉を紡ぐ。


「貴様とは、随分と上からだな。名は?」


【オリオンだ】


「オリオン……覚えておこう」


 そう呟くと、ジークフリートはオリオンの横を静かに通る。


 タッ タッ タッ……


 ――そして、ちょうど真横まで来たところで、その足が止まった。


「お前……クラスは?」


【Gクラス……それがどうした?】


「G……それは本当か」


【あぁ、我は最底辺のGクラスの生徒、それに他ならない】


 お前たち、人間どもの価値基準だと……だがな。


「そうか……」






 シャキン





 ドンッッッッッ!!!!!!!


 次の瞬間、ジークフリートが目にも止まらぬ速さで剣を抜き、我の首元、わずか数センチの距離で止めた。

 振るわれた一太刀の剣風が、街路に凄まじい風圧を巻き起こす。

 

【……】


「……」



 ……シーーーーッ……



「一瞬、ファフニールと同じ匂いがしたのだが……」


【……】


「……」

 

 ファン 


 

 シーーーーーーー  



「気のせいか……」


 ——シャキン。


 剣を納める音が響いた。


「……失礼する」


 タッ  タッ


【貴様、人(竜王)を殺そうとしておいて、詫びは無いのか?】


 タッ


「……」

 

 タッ……タッ……


 英雄は何も答えず、ただ静かに背を向け、歩み去っていく。

 その背を、我はじっと見つめる。

 奴がジークフリート……魔力、立ち振る舞い、隙のない動き……それに加えてベルゼブブ並みの速さ……さすが、ファフニール、アラクネを殺すだけはある。

 これはますます、騎士団に入らなければならぬな。

 奴の魔力を……喰らうために。


 …………


 鈍間な人間どもが集い、バス?という金属の塊に我らは腰を据え、旅館を離れた。

 次なる場所での試験は存在せず、最終日は各々が時間の許す限り、指定された範囲内で観光……つまりは“魔法の歴史”を学ぶのが目的らしい。

 我が眠りについていた千年の間に積み重ねられた歴史は、異形どもや授業を通じて徐々に補完されつつあるが、それでもなお、黒翼のごとき未知の情報が残されている。

 試験こそない。騎士団入りのための実績も得られはしない。だが、もし新たな情報が手に入るのならば——それだけで、参加する価値はある。


 ポン。


「間もなく……“アインツ・ベルン”に到着します」


 バスに乗り、数時間。ようやく現地へと辿り着くらしい。

 車内は静寂に包まれていた。乗車直後こそ騒がしかったが、気づけばGクラスの者どもは皆、眠りに落ちていた。

 静かな空間。それは今もなお、続いている。


 二日目の夜。シリウス、そして保健室から戻ったカイザーと話し合った結果——我らは“黒翼”を追うという目的のもと、協力関係を結ぶこととなった。

 本来ならば、人間などと手を組むつもりはなかった。だが我が目的に近づくためであれば、例外も許されよう。

 加えて、マイラ……母性おっぱいが、なぜあれほどまでカイザーの命を狙っていたのか。

 その理由を探る意味でも、この二人とは近くにいた方が都合が良い。


「んっ……オリ……オン……」


 我の肩に頭を預け、隣で寝息を立てているのは、クルサ——我の女((お弁当)(供物))である。

 こやつは昨日の21時頃に目を覚まし、旅館にあった“コンビニ”とやらで食料を調達し、部屋にて食事を取ったという。

 あまりにも、普通すぎる日常。

 その後、我と直接会い、約束の“触れ合い”を交えつつ会話をしたが……どうやら、昼食後の記憶が抜け落ちているらしい。

 クルサが嘘をつくときは分かりやすい。

 自身の髪先を摘み、撫でるという癖がある。

 だが今回はそれがなかった。動揺の様子も見えず、嘘をついているようには見えなかった。

 ……つまり、事実。

 我にとっては好都合だ。記憶を保持していた場合、今この場で処置せねばならぬ可能性もあった。

 その手間が省けたのは、大きい利点だ。

 ゆえに我は、引き続き“男”として、こやつの傍に居続けると決めた。


 …………


「んんー!!! 空気がおいしいわねぇ~!」


「うん。グミ……美味しい」


「あんた、せっかく可愛いのに……太るわよ?」


「うん。美味しい」


「聞いてないし」


 この街は“アインツ・ベルン”。

 伝統を重んじる街らしく、古くからの遺跡や建造物が今なお残されており、“和菓子”という珍しき甘味、さらには“抹茶”なる緑色の飲み物もあるらしい。

 我にとっては、いずれも未知なるもの。

 ゆえに——どのような味わいなのか。実に、楽しみである。


 街の入口にそびえる大きな鳥居をくぐり、数分歩いたところで、教師より指示が下された。

 これより先は班ごとの自由行動。

 ただし条件は一つ——制限時間内に、班全員でこの鳥居まで戻ってくること。

 それさえ守れば、どこをどう巡ろうと構わないというわけだ。


 こうして我らGクラスは、各班ごとに異なる道から、それぞれ街へと繰り出した。


 見たことのない“和風”なる風情に彩られた街並み。

 昔の人間どもが暮らしていたという住処は、今では“店”と呼ばれる施設へと姿を変え、軒を連ねている。

 一般客とやらが多く集い、賑わいを見せていた。

 その中を我の班は話をしながら、人の波に乗り、街の中心へと足を運んでいた。


 ・

 ・

 ・


 そこで我は、信じられない光景を目にする……。


……


次回:第六十話 エチチ(絶叫)に繋がる観光?♡♡♡♡:見てはいけませんー!byアンリマユ

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