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第五話 人間の皮を被った竜

 魔族――それは、人間に害を成す者たちの総称。

 オーガ、ゴブリン、魔鳥、リザードマン、スケルトン、ダークエルフ――。


 その姿も生態も多種多様。

 生殖する者、しない者。言葉を操る者、本能のまま生きる者。

 彼らは時代と共に変異し、進化し続けてきた。


 だが、ただひとつ変わらぬ本質がある。


 ――「人間を苦しめ、捕食する」こと。



 血に濡れた髪が顔に張り付き、目は虚ろに開いている。

 転がった女(母親)の首はまっすぐ我を見上げていた。


【……そうか。貴様、死んだのか】


 声に感情はなかった。

 ただ、事実として、口に出しただけ。


 己の内を探る――が、何もない。

 怒りも、悲しみも、恐怖も……何ひとつ、湧かない。


 目の前で死んだのが、我を育てた女(母親)であるというのに。

 それでも、この心は揺れなかった。


 村を見渡す。


 炎が燃え盛り、赤黒い影が瓦礫の隙間を蠢く。

 焦げた肉の臭いが鼻を突き、魔族たちの笑い声が夜空に響く。


 そこに――見るも無残な男の亡骸。

 四肢をもがれ、転がるその姿。


【男(父親)……貴様もか】


 苦悶の表情を浮かべたまま、天を見上げるようにしている。

 半年間、共に過ごしてきたため、こういう別れの時くらいは情が沸くかと思ったが……何もない。我の心は竜のまま、ということか。


 ドン……ドン……ドン……


 我の元に、重たい足音が近づく。


「ダッ、ダレダ?ニンゲン……コドモ?」


 魔族共が、街に踏み入った我に気づいた。


「ギャハッハーーー!!!」


 ゴブリンたちが、オーガの周囲で笑い声を上げる。

 一匹がニヤつきながら近づき、手にした棍棒を振り下ろした。


 ゴン!


 続けて、何度も。


 ゴン! ゴン! ゴン!


 ……しかし、我の小さな体には、かすり傷一つつかない。


「ギ……?」


 ゴブリンの顔から、笑みが消える。目を見開き、固まった。

 その様子に苛立ったオーガが、ゴブリンを蹴り飛ばし、巨体を揺らしながら前に出る。

 そして、巨大な金属棍棒を高く振りかぶった。


 フゥン――ドン! ドカン―――!!!


 轟音とともに、オーガの金属棍棒が我の頭に振り下ろされた。

 大地が震え、衝撃で砂塵が舞い上がる。


 だが―――。


 ピキピキ   パリン!!!


 金属棍棒は、我の頭上で砕け散った。

 破片が光を反射しながら、夜空へと飛び散る。


「……ガ?」


 オーガの表情が、困惑から恐怖へと変わる。

 ゴブリンたちは、一歩、また一歩と後ずさる。


 そんな中、我は、魔族たちに向けて小さな手を差し出す。


【下等な雑種どもが……我に牙を剥くとはな。身の程を弁えろ】

 

    【異形たちよ………我を食らえ】




 魔鳥に食われる。

 死ぬ。

 復活する。

 また食われる――。


 その繰り返し。


 魔鳥が去ったのは、満腹になったからではない。

 ――「食えなくなったから」だ。

 歯を立てようとも、地面に叩きつけようとも、強力な魔法を叩き込もうとも――


 もはや、傷一つつかなくなった。


 死と再生を繰り返すたび、

 オリオンの肉体(皮膚)は「強固」になっていった。


 今や、ゴブリンの棍棒が通るはずもなく、オーガの渾身の一撃ですら、まるで届かない。


………………………………


 彼ら魔族は、知らなかった。


 目の前にいる人間が――

 ましてや、食われるだけの赤子が――


 【自分たちよりも、強者であることを】


………………………………


 オリオンの腕が脈動する。

 その小さき体に宿る異形たちが、内側から集い始める。


 肉が膨張し、皮膚が裂け、骨が軋む音が響く。

 強靭なる肉体をもってしても抑えきれぬほど、無限に存在する異形たちが暴れ狂う。


 そして――


 それは、たちまち「無数の蛇の頭」へと変貌を遂げた。


 牙が閃き、瞳が赤く光る。

 咆哮とともに、蛇たちが襲いかかる。


 絶叫が響いたのは、ほんの一瞬。


 オリオンの前にいた魔族たちは、全て、喰われた。

 その肉も、骨も、魂すらも喰らい尽くされ――


 跡形もなく消え去った。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 魔法も使えない、力もない、


 だが、同時に、ただの人間でもない。

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