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第五十三話 試験終了:オリオン……勇逸の弱点

 カッチッカッチッ…………


 カチカチカチカチーーーーーーーー


 シュンッ

 

 我は一瞬で、先ほどクルサを「お姫様抱っこ」した辺りに戻った。


【まだ放てる、か】


 竜魔法の連続発動が可能。

 これは目的に近づいたと言える。

 

 ドンッ ビョオオオーーーーーン


 風魔法によって再び宙へと浮かび、低空を滑るように飛行。

 落ちた穴――その上層部、“マイラたち”のいる方角へと飛翔する。

 その途中、上級悪魔の二体に向けて、思念を一言だけ飛ばした。


【“我のために、死ぬがいい”】



 数分間、マイラと二体の上級悪魔は、やや広めの洞窟内で激しい戦闘を繰り広げていた。

 現状、二対一にもかかわらず――マイラに傷はなく、息も乱さぬまま立ち続けている。


「この女性、ワタクシたち二人を相手にして立っていられるとは……。聞いていた以上の強さですね」


「せやなぁ。まぁ、理由はだいたい分かってきたけどのぉ~」


 マイラの首元には、紫色の蝶の紋章が浮かび上がっていた。

 ――それは、第二次試験でCクラスの生徒が“暴走”した時に現れた、あの紋章と完全に一致している。

 紋章が付与された者は、状態異常を無効化してから、魔力を増大させる効果を得る。

 かつて、オリオンが与えた大幅弱体化魔法:メルジアークでさえ解除する強力な紋章。

 Cクラスの生徒は自我を失い、痛みすら感じない体へと変化した。

 しかし、マイラは違った。

 自我を保ちつつ、魔力を増大させている。

 カイザーと同程度の実力を隠してきたマイラが、強化魔法によりさらに強くなり、二人を相手にできていたのだ。


 悪魔たちは並んで立つ。

 フルーレティは、戦闘で埃をかぶったメイド服をパンパンと手で払いながら問いかけた。


「そういえば、あなた。先ほどこの女性に“卑怯”だと言っていましたが……二対一、これは卑怯ではないのですか?」


 その言葉に、サタナキアは首を傾げ、不思議そうな顔を浮かべた。


「はて? ワイ、そんなこと言ったっけのぉ? まぁ、戦いが楽しければええんやないかぁ~。がーっはっはっはっは!」


 戦いが始まれば、すぐに物事を忘れる悪魔、それがサタナキアである……。

 彼はゆっくりと首をポキポキと鳴らし、肩を回す。

 身体から立ち上る熱気――ついに本格的にエンジンがかかってきた。


「よぉし、準備運動はこれくらいでいいやろ。本番と……」


 ――ピキン。


 タッ。


 サタナキアが一歩、前に踏み出した。

 ……だが、止まる。

 【合図】が来たのだ。


 ――そして。


 バンッ!! ヒョォ~~~ッ……!!


 突如、激しい風が吹き荒れ、洞窟の中に土煙が立ちこめた。


【母性おっぱい……これは、どういう状況だ?】


 ドクンッ。


 聞き覚えのある低い声がした。

 その瞬間、自分の正体を隠すように紋章を解除し、徐々に、自然に魔力を引き下げていく。

 そしてゆっくりと“声”の方へ振り返った。


「……」


 舞い上がる煙の中。

 自分のすぐ背後に――黒髪、長身の男が立っていた。

 白と黒色が混ざった学校の制服に身を包み、堂々たる佇まい。

 顔を出したその“影”は――オリオンだった。


 怒りに任せて突き進んだ直前の数分間。

 思っていたよりも、二体の悪魔との戦闘は想像以上に苛烈で、強かった。

 このままでは自分が負ける――そう悟った時、頭を切り替えた。

 ……死ねない。まだ、カイザーを殺していない……。

 復讐の機会を潰されてもなお、怒りを何とか沈め、目の前の悪魔たちを倒すことに集中していた。

 そして、今現れた予想外の存在……オリオン。

 何故ここに来たのか理由は分からない――だが、これは使える。


「うん。助けてほしい。ロボットじゃなくて、本物の悪魔が現れた」


 いつもの冷静な自分を装いつつ、二体の悪魔に指を指す。

 ・自分が傷を負っていたカイザーを奇襲し、殺そうとしたこと。

 ・それを悪魔たちに妨害されたこと。

 オリオンはこの場にいなかった。つまり、彼はこの状況になったことを知らない。

 ならばチャンスはある。


 一度、オリオンを“味方”に引き込み、戦力として利用する。

 2対2の構図を作り、正面から戦闘を再開。

 試験同様、マイラは弱い自分を演じ、最小限の魔法で支援、前線はオリオンに任せる。

 彼に魔力を消耗させ、悪魔たちにもある程度の損傷を与えさせる。

 全員が削り合い、疲弊したその一瞬を狙えばいい。

 オリオン、悪魔二体、計三人をまとめて殺す。カイザーは後で殺せばいい。

 彼女はそう考えた。

 ……刹那。


【そうか】


 オリオンが小さく笑みを浮かべ、右手をすっと前に突き出す。


【上級魔法:轟炎槍】


 シュワンッ シャキン


 彼の左右に、紅蓮の炎を纏った巨大な二本の槍が生成される。

 そのまま――


 ズドンッ!!!!


 二体の悪魔の胸部に同時に突き刺さる。


 バンッ!!!!!!


 爆発音と共に赤い炎で包まれた。

 洞窟内が爆風に包まれ、巻き上がる炎と砂煙が視界を覆う。

 数秒後。


「……えっ……?一撃……?」


 土煙が晴れた後、マイラが見たのは――爆発によって抉れた地面と、崩れかけた岩壁。

 そして、先ほどまでそこにいた二体の上級悪魔の姿は、影すら残っていなかった。

 互角に渡り合っていた相手。

 あれほどの強敵を、たった一つの魔法で消し去った男――オリオンは、燃え残る炎を前に静かに片手を下ろす。


【片付いたぞ】


 そう言うオリオンを、マイラは驚きの表情を浮かべたまま、ただ見つめていた。


 三人を倒すよりも、はるかに好都合な状況が整ったはずだった。

 上級悪魔は消え去り、残るのはオリオン一人。

 今度こそ、周囲に邪魔者はいない。

 カイザーは地面に転がり、もはや動けない。


 あとはオリオンを殺すだけ……なのに……。


【どうした?】


 動くことができなかった。


「……うん。ありがとう。凄いね」


 ぎこちなく、笑みすら取り繕いながらマイラはそう答える。

 冷静を装っているつもりだったが、声はわずかに震えていた。


 偽りの“自分”よりも成績は下。魔力量も60。

 それなのに――

 (今の魔法を、自分がまともに食らっていたらどうなっていた?)

 さらに言えば、洞窟は奥へ進むにつれて難易度が上がる構造。

 ここまでで、すでにかなりの時間と魔力を消耗しているはず。

 それなのに――どうして、あれほどの威力の上級魔法を?

 (あと何発、撃てる……?)

 (いや……そもそも、魔力“60”が嘘だったとしたら……?)


 様々な可能性が浮かび、整理が追いつかない。

 じわじわと、焦燥が広がっていく。

 まるで、真っ暗な深淵を覗き込んでいるようだった。

 ――底が見えない。

 その感覚に、マイラは思考を巡らせることしかできなかった。


 そして……


 ピコン クリア 制限時間内にスタート地点へお戻りください。


 鉄の指輪がそう告げてきた。

 クルサ達が5問目にいたロボットを倒し、残り2問の難題を突破したようだ。


「うん。早い」

 

 残り時間はまだ一時間以上。

 四問目の辺りですら苦戦を強いられたはずの試験内容。

 そのさらに奥にいるロボットたちと高難易度の試験をこの短時間で突破できるなど、一体、何が起きたのか?

 疑問が頭をよぎる中、ふと、マイラの視界の端で動きがあった。

 オリオンが、地面に血を流して倒れているカイザーの元へと、静かに歩み寄っていたのだ。


「……グッ……」


 カイザーは全身が傷だらけ。魔力も尽きかけている。

 それでも、まだ息がある。


 オリオンはその姿を見下ろし、小さく息を吐く。

 そして片手を前へかざした。


【中級魔法:中治癒ラウ・ヒール


 治療を終えたオリオンは、無言でカイザーの身体を担ぎ上げる。

 右肩にその体重を預け、軽やかに立ち上がる。

 これで全員が生存し、試験の全条件はクリアされた。

 後は帰還するだけ――


【さぁ、我らも戻るぞ】


 そう言って、オリオンは静かに歩き出した。


「うん。待って。どうして、ここに戻ってきたの?」


 それは、あまりにも自然な疑問だった。

 オリオンは後ろを振り向くことなく、言葉を発する。


【我がロボット共を殲滅し、試験問題はクルサたちに任せた。母性おっぱい――貴様らが無事かどうか、確認に戻ってきた、という訳だ】


「……うん。殲滅、って……?」


 思わず漏れたマイラの問いに、オリオンは淡々と応じる。


【詳しい話は後にする。いくぞ】


 その言葉は、命令とも、忠告ともとれる響きを帯びていた。

 オリオンは再び前を向き、無言で歩き出す。

 その背を見送りながら、マイラは――ほんの一瞬、魔力を収束させかけた。

 今、放てば殺せるかもしれない。

 だが、その衝動はすぐに理性に押し流される。

 静かに息を吐き、マイラはその背を追った。

 歩きながら、頭の中で冷静に、今日の出来事を再整理する。


 想定外は、二つ。

 一つは、試験とは無関係に突如現れた“悪魔”たちの襲撃。

 そしてもう一つは――オリオンが再び現れたこと。

 加えて、あれほどの魔法を放てるとは思わなかった。目の前にいるこの男をもう一度見直す必要が出てきた。


 これからも、カイザーとシリウスを殺す機会を探る。

 今度こそ、確実に仕留める。

 悪魔は死んだため排除。

 しかし――オリオンだけは、読めない。

 また、今回のように予想外の行動で介入し、妨げとなる可能性がある。


 けれど、マイラには一つだけ、確かな“切り札”があった。

 そう、マイラは知っているのだ。

 オリオンの勇逸の弱点……それが「クルサ」だということを。


…………


第三章 宴 完


第四章 【絶叫】 開幕

ーーーーーー

次回:第五十四話 竜王の玉座:緊急事態

 

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