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第四十九話 命の危機:伝説のピーーー【魔気が高まる……溢れる……】w

………


 オリオン(アジ・ダハーカ)はファフニールを捕食している最中だった。


 そんな中……


 グチャ、ガブ、グチャ……ガリッ。


 ……ピンッ。


【……そうか、アラクネが死んだか】


 オリオン、そして異形たち、アラクネやベルゼブブのような強者たちは魂で繋がっている。誰かが死ねば、その魂の線が“ピンッ”と切れるように認識され、即座に分かるのだ。

 その断絶の感覚を受けたオリオンは、目を細め──すぐに口元をわずかにほころばせた。

 悲しみはない。感傷もない。ただ、事実を受け入れるのみ。

 むしろ、彼の微笑にはジークフリートへの称賛すら滲んでいた。


 試験が始まる前、ジークフリートの動向を監視していた異形たちの進路から、オリオンは彼がこちらに向かっていることを知っていた。

 そして、ジークフリートは復活したファフニールの気配を追っていた。

 つまり、彼らはこの地に向かってくる──。

 それを察したオリオンは、洞窟試験の開始前に三つの決断を下していた。


 一つ目は、ジークフリートの実力を測るため、アラクネをぶつけること。


 ファフニールを凌駕する実力を持つアラクネを戦わせ、それでジークフリートが倒されるようなら、それまでの人間。逆に勝利するようであれば、オリオン自身が「さらに強くならねばならない」という明確な指標となる――そのための策だった。

 結果、ジークフリートが勝った。

 オリオンは異形たちにその戦いを監視させていたが、全ての異形がアラクネと共に死滅。すなわち、ジークフリートの魔法によって同時に絶命したということを即座に理解する。


 ――本来であれば、その場にいた者が全て死ねば、実力の詳細など分かるはずもない。一見、作戦は失敗のように見えた……。

 ただ、アラクネがジークフリートによって殺されただけ……だが、この作戦において失敗は皆無であった……。この後すぐに分かることである。


 二つ目は、ファフニールを喰らい魔力を得るために自ら戦うこと。


 ゴクリ――。


 竜が、竜を喰い終えた。


 ドクンッ!!


 ――ヴァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!


 オリオンを中心に暴風のような魔気が巻き起こる。


【魔気(魔力)が高まる……溢れる……】


 そう呟いたオリオンの姿は、まさに伝説の“ピー・ブロピー”を彷彿とさせるw。

 両腕に力を込め、全属性の魔力(器)が拡張していくのを明確に感じ取っていた。


 そして、彼は静かに言葉を紡ぐ。


 ……”さて、アラクネを蘇らせるとしよう”……。


【竜魔法:魂魄喰再臨リインカーネット


 シュン  パァーーーー


 魔界に存在するすべての異形が一瞬にして黒い霧と化し、消え失せる。

 その霧はオリオンが手をかざした一点に収束し、黒く大きな丸い塊を形作った。


 そして――


 ヴァンッ!  ドンッ!!!!!


 黒塊が爆ぜ、そこから現れたのは――ジークフリートに討たれたはずの、蜘蛛の女王「アラクネ」。


 アラクネとベルゼブブは特異な肉体構造を持ち、再生し、老いを知らぬ存在。

 だがそれでも“不死”ではない。彼女は確かに、一度は死んだ。


 ……しかし、オリオンが存在する限り――その死に、意味はない。


 異形たちは、魔界より絶え間なく湧き出る。

 そしてこの魔法は、その無尽の異形を“代償”として捧げることで、強者たる異形をいかなる時も蘇らせることができる。


 記憶はそのままに。体は“死を迎える六秒前”の状態に完全復元される。


 まさに――《無限蘇生》の理。


 アラクネが死のうと死んでいなかろうと戦わせた時点で目的は達成していたのだ。


「んっ、んんん~~~~……」


 黒煙の中で、アラクネがゆっくりと目を開ける。

 瞳がオリオンを捉えた瞬間、瞳孔がきらめいた。


【アラク……】


 オリオンが名を呼びかけた、その刹那。


「主ぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッッ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」


 アラクネが歓喜に満ちた叫びを上げ、目を潤ませながら両腕を広げて猛突進。

 次の瞬間、土煙が舞い、オリオンの視界は白く染まる。


 彼は、抱きしめられていた。


 ――ムギュゥーーー!!!


 柔らかすぎる感触。アラクネの大きな……圧倒的なおっぱいが、オリオンの胸板に密着する。


「蘇らせてくれてありがとう~愛してるわぁああああああ~~~~~~~~♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!」


 恍惚の表情を浮かべながら、白い頬をオリオンの顔にグリグリとこすりつけ、甘い香気を漂わせる。


【……放せ、アラクネ】


「も~~う♡ ちょっとくらい、いいじゃなぁい♡♡♡ ああ~~主の声ぉ……やっぱり最高……♡♡♡ 匂いも、肌も、雰囲気も……ぜんぶ好きぃ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」


【放せ】


「ちぇっ……分かったわよぉ~~。ほんっと、相変わらずツレないんだからぁ」


 ようやく腕が緩み、オリオンの身体が解放される。

 アラクネは名残惜しそうに頬を撫でながら、蜘蛛の足を折りたたんで地面にちょこんと座った。


 その様子は、まるで褒められた子犬のように満ち足りていた。


【アラクネ。ジークフリートとの戦闘はどうだった】


「んふ~~~♡♡♡」


 アラクネはとろけそうな顔でオリオンを見上げ、はぁ……とひと息、艶やかな吐息をこぼす。


「とぉ~~~っても気持ち良かったわぁ~~~ん♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡思わずイッピー―ーちゃったぁ~」


 軽く身をくねらせながら、肩を抱くように自分を包み込むアラクネ。

 そしてこのあと数分間、ようやく彼女は戦闘の内容――ジークフリートの攻撃の特徴、魔力の性質、行動パターン、そして自らが敗北に至った瞬間の分析――濃厚な愛情表現を挟みつつも、しっかりとオリオンに語りはじめるのであった……。


     ◇


 その頃、地上――洞窟試験の内部では、クルサがオリオンの“異変”に気付き、静かに問いを口にしていた。


「オリオン……いえ、あなた……誰なの?」


 それは鋭くも確信めいた声だった。

 ベルゼブブはオリオンへと思念を飛ばす。


「主……余の正体がバレたようです。この女、勘が鋭い。今のうちに消すのが賢明かと」


 三つ目は「ベルゼブブがオリオンを模倣して、試験をこなす」というものだった。

 試験が始まる数分前、トイレにてベルゼブブとオリオンは入れ替わった。

 それぞれが相手の肉体と姿を模倣し、人格と言動すらも完全に切り替えたのだ。

 オリオンはベルゼブブの肉体を模倣し、冥界門を行使、魔界にてファフニールと戦った。

 わざわざベルゼブブの姿を選んだのは、ただの余興――己の正体を隠したまま、純粋に“戦いを楽しみ、喰らう”。

 自分のままではファフニールが怯えすぎて戦いにならぬと判断したのだ。


 一方その頃、洞窟ではベルゼブブが“オリオン”として試験に参加していた。

 主からあらかじめ試験内容や立ち回り、班のメンバーの情報を与えられ、表面上は完璧に“彼”を演じていた。

 だが今――クルサだけが、その偽りを見抜こうとしていた。

 主からの返答は、すぐに届く。

 

【いや、その女はまだ利用価値がある(お弁当)。ご苦労であったベルゼブブ……交代だ】


「はっ」


【冥界門】


 シュン


 クルサが瞬きした瞬間、魔界にいるオリオンと現世にいるベルゼブブが黒い膜に包まれ、門を通し入れ替わった。

 クルサはそれに気づくことなく、冷や汗をかきながらオリオンに問いかける。


「ねぇ、答えてよ。あなた、オリオンじゃないんでしょ……他の人は騙せても、私は騙されないから」


 まだ数か月の付き合い。それでもクルサは、“オリオンの彼女”として、ほぼ毎日を共に過ごしてきた。

 彼の話し方。言葉を選ぶタイミング。小さな仕草、視線の流れ、歩き方、指先の癖――そのどれもが、彼女の中に“オリオン像”として刻まれている。


 だが、目の前の彼には――ほんのわずかな違和感があった。

 だからこそ、彼女は問いを投げかけたのだ。


【クルサよ。何を言っている?】


 ゆったりとした低音。だが、その中にある温もり――それは、確かに聞き慣れた声。


「とぼけないでっ! あなたはオリオン……」


 言いかけたクルサの言葉が、ふいに止まった。


【よく見ろ……我は我。貴様の男だ】


 その声が、すとんと胸に落ちた。


 ――彼は、違う。

 ……いや、違わない?


「……オリオンじゃ……えっ? ……あれ……?」


 たった二言……それだけで違和感が、跡形もなく消えていた。

 先ほどまで抱えていた不快な引っかかりは、まるで夢だったかのように霧散する。

 目の前の“オリオン”は、まさしく彼だった。

 口調も、所作も、視線の深さも。言葉の端々に重みがあり、それでいて芯がぶれない。

 ――それでも、完全には信じ切れなかった。

 理由はもう一つ。

 そう――あのとき、ローゼに背を押されて彼に抱きついた瞬間。

 オリオンの胸に伝わってきた心臓の鼓動が――いつもと違っていたのだ。

 ならば、それを確かめればいい。


 迷いも警戒もなかった。

 あまりにも危険な行動だが、一秒でも早く、真実に触れたかった。

 クルサはそっと歩み寄り、当然のようにオリオンの胸へと耳を当てた。


 ドクン……ドクン……ドクン……


 ――この音だ。


 低く、力強く、どこか安心をくれる鼓動。


【……気は済んだか?】


 優しく響いたその声に、クルサはふっと顔を上げた。

 目の前には整った顔立ちの青年――自分が惚れた、たった一人の異性がいた。


 疑いがすっかり晴れたことで、クルサの頬に赤みが差す。

 途端に恥ずかしさが込み上げ、彼女はわずかに後ずさった。


「……う、うん。ごっ、ごめんね。疑ったりして……」


【許す。だが、弁当の量は増やしてもらう】


「わっ、分かったよっ」


 そのやり取りに、オリオンの胸中にも静かな安堵が広がっていた。

 だが――そのささやかな時間を破るように、控えめながらも張り詰めた声が届く。


「主……お取込み中、失礼いたします」


 ベルゼブブの声だった。


【……何だ】


「カイザーという男に潜ませていた我が眷属より報告が。男の体はすでに全身傷だらけ、首を掴まれながら多量の出血を確認。このままでは……残り数分で命が尽きるかと」


【……そうか……眷属に伝えろ。“時間を稼げ”と】


「はっ」


 ……ここで動くか……あのおっぱいめが……。


…………

第五十話 偽りのマイラ:”全生徒皆殺し事件”:【魔族化】

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