第四十四話 猛毒竜【ファフニール】 対 蠅の王【ベルゼブブ】???
――ズン。
その名乗りの直後、魔界の大地が呻き、空が軋む。
再誕したファフニール。だが、それは完全なる復活ではなかった。
精神は霧がかったように曖昧で、記憶も断片的。しかし、かつて住んでいた魔界のことは覚えているようだ。
そして、目の前の“王”の名と、静かで圧倒的な魔力には、どこか覚えがある気がした。――だが、思い出すには至らなかった。
「ベルゼブブ……? いや……知らんな。だが“王”を名乗るとは……随分と自信があると見える」
その言葉を聞いたベルゼブブ【?】は、わずかに目を見開いた。
千年前、共にアルマゲドンを戦った“同胞”。
記憶力がいい竜が、それを忘れるなど――本来ありえぬことだった。
【記憶が……。そうか……まぁ、いい】
名残惜しそうに目を伏せ、しかしすぐに冷たく目を細める。
記憶を失っての復活、あるいは意図的に消されたか……どちらにせよ。
【貴様を喰らうことに、変更はない】
「俺を喰う?ふっ、笑わせるな。喰われるのはお前の方だ」
全身が緑色の巨大な竜。毒、竜属性。
鋼の如き鱗を持ち、猛毒の吐息が口元の左右からゆらりと流れる。
ファフニールの赤い瞳に宿るのは、誇り高き竜の闘志……首を下に傾げ、ベルゼブブ【?】を見下ろしている。
そして。
――ズォォォオオン……!!
二者の魔気がぶつかり合った瞬間、大地が割れ、空が悲鳴を上げた。
力と力が拮抗し、空間が軋みを上げながら歪んでいく。
◆ ◆ ◆
先に動いたのはファフニール。
「死ぬがいい。上級魔法:毒星弾」
ドクッ ドクッ ドクッ
咆哮と共に、ファフニールの周囲に無数の紫色の巨大な魔弾が出現する。
その数、実に百を超え――全てが異なる軌道を描いて、ベルゼブブ【?】へと襲いかかった。
ドドドドドドドドーーーーーーー!!!!!
一発一発が山を消し飛ばすほどの猛毒を宿し、触れるだけで魔界の生物ですら死に至るそれは、視界すら覆い尽くす嵐と化していた。
【暴食の盾】
蠢き這い出し、出現したのは無数の異形の蟲たち。
羽音を響かせ、咀嚼音を奏で、互いに絡みつきながら、黒き壁のようにベルゼブブ【?】の前に立ちはだかった。
バチバチバチッ!!
魔弾が衝突するたびに、黒い虫壁が紫色に染まり、猛烈な火花と衝撃波を放つ。
しかし、虫たちは怯まない。いや、むしろ歓喜していたかのように、魔弾を吸い込み、霧へと変えていく。
――シュウゥゥ……ッ。
爆煙と霧が戦場を包む。
だがその瞬間――
ブワッ!
霧の奥から現れたのは、巨大な竜の口。
突如出現した口が、ベルゼブブ【?】を丸呑みにしようと迫る。
【ほう】
ベルゼブブは口元を歪め、黒き翼を一気に展開する。
――グワッ!
刹那、黒き羽ばたきと共にベルゼブブの姿が上空へと飛翔する。
――ガチン!!!
大きな噛み音…… それは竜の牙が、空間そのものを噛み砕いた音だった。
すぐにファフニールが視線を上空へ移す。
そして、咆哮と共に魔力を放出した。
「竜魔法:竜咎ノ裁」
ボォワァァ……ッ!!
ファフニールの魔力が魔界を覆った。
ベルゼブブの飛行先。
その周囲の虚空が歪み、三つの巨大な竜頭が姿を現した。
――ガバッ ガバッ ガバッ!!!
竜頭が、同時に顎を開け放つ。
「毒龍の業火」
ヒュウウィィィン……
咆哮と共に、三つの口から緑の業火が放たれる。
通常の炎とは異なり、それはあらゆるものを溶かす猛毒の業火。
――ババババン!!
ベルゼブブはその身に虫の羽を纏い、黒い彗星のごとく、上へ、下へ、右へ、左へ……ジェット機を超える速度で宙を駆ける。
【我のマネごとか】
バサッ! シュンシュンシュン!
その動きを読み切ったかのように、虚空からさらに三つ、四つ……次々に竜頭が顕現する。
――ガバッ!! ガバッ!! ガバッ!!
ババババン!!
ヒューーーーーーーーー
【やはり、自分の体ではないと動きにくいな】
――ガバッ!! ガバッ!! ガバッ!!
ババババン!!
シュン
ヒューーーーーーーーーバンッ!
ガバッ!!ガバッ!!ガバッ!!ガバッ!!ガバッ!!ガバッ!!ガバッ!!ガバッ!! ガバッ!!
ババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババンンンンンンンン
ヒューーーーーーーーヒュン!!!
全ての攻撃を無傷で回避するベルゼブブ【?】。しかし、飛行先は誘導されていた。
バザン!ドン!
ファフニールが大きさ翼を動かし急上昇。こちらに飛んでくるベルゼブブ【?】を正面から迎えうつ。
「"超級魔法:毒牙穿界牙」
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次回:第四十五話 宴もたけなわ




