第四十話 共演:?の開幕
時刻はあっという間に過ぎ、現在は九時。いよいよ”試験とやら”が始まろうとしていた。
旅館内に設けられた三つの移動用の部屋――
それぞれの扉には「初級」「中級」「上級」と書かれており、”余ら”は迷わず上級の扉を開ける。
その先にあったのは、和風の旅館を模した広い部屋だった。
だが、家具の類は一切なく、床には大きな瞬間移動魔法陣が刻まれていた。
見渡せば、すでに”多くの人間(生徒)”が集まっている。
どうやらA・B・Cクラスは全班が上級を選択。他のクラスからも、数班が名乗りを上げているようだ。
周囲を見ていると次の瞬間――余らの足元にあった魔法陣が光を放ち、視界が白く染まる。
転送が始まったらしい。
ふいに視界がぐらりと揺れる。
転送先は、広大な円形の空間だった。
全員が余裕を持って立てるほどの広さがあり、天井も高い。
目を引くのは、周囲を取り囲む“無数の穴”だった。
床、壁、天井――斜め上、真横、真下、まるでアリの巣のように大小の穴がいくつも開いている。
生徒たちは一瞬で状況を把握し、互いに干渉しないよう、それぞれ別の穴へと吸い込まれるように消えていく。
この上級コースは魔族の核を150個集める――それが試験の課題の一つ。
他班に邪魔されたり、奪われたりするのは誰もが避けたい。そのための迅速な行動だった。
「輝きが僕を待っているっ!」
そう叫びながら、シリウスが意気揚々と一つの穴へ飛び込んだ。
”余ら”もその後を追って、同じ穴へと進む。
通路の先は、自然に形成された洞窟のような空間だった。
壁面や天井には、淡く光を放つ魔晶石が無数に埋め込まれており、それが照明の代わりとなって周囲を仄かに照らしている。
青白い光が岩肌に反射し、空間全体は静かで幻想的な雰囲気を湛えていた。
…………………
バンバンバンバンバン……。
「……これで周囲にロボットはいない、わよね?」
「そのようだっ!」
「分かったわ。問題解いてくる。しっかり見張ってよ?」
「もちろんだっ!」
「先に行ってるぞ」
「カイザーよっ!了解だっ!」
試験が開始してから、すでに20分が経過していた。
余らの班は、通路の奥へとまとまって進みながら、行く手を阻む魔族ロボットを次々と撃破していた。
最初のスポットに到着したところで、あらかじめ決めていた役割分担が実行される。現在ローゼは問題の解読に集中し、シリウスは突発的な襲撃に備え、周囲を警戒する。
一方、余とクルサ、カイザーとマイラの二組は、さらに奥へと進んでいた。
目的は、前方に控える魔族ロボットの先制撃破と、核の迅速な回収。
加えて洞窟内に仕掛けられている環境トラップ(ギミック)を発見・回避し、後続が安全に通れるよう整えておく狙いもある。
試験の制限時間は三時間。
一見すると余裕があるようだが、核を150個集め、さらに難解な問題を6問も解かねばならない今回の試験では、決して長いとは言えない。
可能な限り無駄を省き、時間を効率よく使う必要があった。
そこで余らの班は、事前にローゼの提案をもとに明確な方針を定めていた。
戦闘力に優れる男子が女子を守り、知力を要する問題は女子が担当する。
万が一ギミックによって班が分断されたとしても、二人一組であれば生存率が大きく下がることはない。
また、先で新たなスポットを見つけた場合は、一組が立ち寄って問題を解き、もう一組がさらに奥へと進む。
各メンバーに配られた鉄製の指輪には通話機能が付与されており、魔力を流し込むことで班内の連絡を取ることができた。
ギミックや敵の出現を確認した際は印を残し、即座に情報を共有する。
こうして、全員が連携しながら試験を効率的に攻略する。それが余らの作戦である。
「それにしてもよ……まだ手前だってのに、ロボットたちの強さが尋常じゃねぇな。奥に行けば行くほど強くなるって話だろ? ……上級、一筋縄じゃいかなそうだな」
カイザーという人間は、先ほどから額に冷や汗を浮かべている。焦りが隠しきれないタイプらしい。
実際、余らはすでに魔族の核を20個回収していたが、その過程で戦ったロボットたちは、どれも簡単に倒せる相手ではなかった。
何より全体的に装甲が分厚く、攻撃が通りにくい。特に正面からの一撃では、装甲の表面をかすらせる程度で、決定打にはならないことが多い。
そんなふうに考え事をしていたその時――背後から、かすかな魔力の気配を感じた。
咄嗟に後ろを振り返った瞬間。
「おっと、あっぶなーい!」
ローゼの声が響き、同時にクルサが背中を押されるようにして余の方へと倒れ込んできた。
「きゃっ!」
“守れ”――その一言が、条件反射のように頭をよぎる。
余は即座に腕を広げ、正面からクルサを受け止めた。
――ドサッ。
結果、クルサは余の胸元にすっぽりと収まる形となる。
「なっ、何……はっ!」
クルサがようやく状況を理解し、顔を赤く染めたまま、はにかんだように余と視線を交わす。
「オリオン、ごめ――」
言いかけたそのとき、クルサの表情がふと変わる。
さっきまで真っ赤だった頬が色を失い、代わりにまっすぐな瞳でじっと余を見つめていた。
「どうした、クルサ」
「……なっ、何でもない」
クルサは慌てて距離を取り、気まずさをごまかすようにくるりと後ろを振り返る。
「ロ、ローゼ。いきなり押さないでよ……」
「あはっ、ごめんごめん、ちょっと足が滑っちゃって〜」
ローゼは悪びれる様子もなく、ニヤニヤと笑いながら軽く手を振る。
「もう、危ないから気をつけてってば……」
クルサが軽く睨むように言うも、ローゼはどこ吹く風といった様子で楽しげに微笑んでいる。
どうやら彼女は、問題をすでに片付けてしまったようだった。
そうして、軽いやり取りを終えた余らの班は、再び足並みをそろえて奥へと進み始めるのだった。
次回:第四十一話 全ての生物から嫌われた女王




