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第三十話 エチチ(ピンク)の本を嗜む……悪神「アンリマユ」

 我は、未だに胸に引っかかる疑問を抱えたまま、屋上の柵に腕をかける。

 頬を撫でる風は心地よく、眼下には学園の穏やかな風景が広がっていた。


【……アンリマユ様。なぜ、我の“エクスカリバー”が急に大きくなったのでしょうか。はぁ~、こうなると分かっていれば、「聖なる儀式」について詳しく聞いておくべきだった】


 我は静かに目を閉じる。過去の記憶が、ふと脳裏をよぎった。


・・・

・・・


「ほぉ〜……これはなかなか……おおっ!?告白してからの王道とは!ふんふん、ふんふん。これは良いですね!やっぱり純愛もの最高です!」


 ここは魔の城。黒き広間に、アンリマユ様の気ままな声が響き渡っていた。その声に我は目を覚ます。

 我はアンリマユ様が座る玉座を囲うように身を丸めて床に伏せていた。ゆっくりと中頭を上げ、玉座の横から主の姿を見つめた。

 

 美しい人間の容姿をしており、黒く艶やかな長髪に、大きいおっぱい。白く、だぼっとしたパジャマに身を包み、やや前のめりになって一冊の本を読んでいた。

 読書に夢中なのか、我が目覚めたことにはまだ気づいていないようだ。


「前に読んだあの“NTピー”も悪くなかったけど、うーん……やっぱりワタシは純愛が好きですね〜。さて、次は百合ものを……」


【アンリマユ様】


「ひゃっ!?」


 コトン。


 アンリマユ様は肩を跳ね上げ、手にしていたピンク色の本を取り落とす。本は階段を跳ねるように転がり落ちていったが、すぐに指を弾き、小さなゲートを開いて回収してみせた。

 そして、おどおどとこちらを振り向く。


「お、おきてたのですね……アジ・ダハーカ」


【ええ、つい先ほど目覚めました。ところで、アンリマユ様が読まれていたピンク色の本、あれは何ですか?】


 問いかけに、アンリマユ様は「いっ!」と短く声を上げ、慌てて手を振りながら早口で言い始めた。


「た、たっ!ただの人間が作った〜その〜えっと、普通の本です!べっ、別にエチチな本とかじゃないですからね!?玉座の下に隠してたわけでもありませんからねっ!」


 “エチチ”とは何か、正直よく分からぬ。が、それは些末な問題だ。

 主があれほど夢中になっていた本――たとえ下等な人間の創作物であろうとも、きっと何かしらの価値があるに違いない。


 一体、どんな内容なのだろう。気になる……非常に、気になる。


【どんな内容だったのですか?】


 アンリマユ様は「えっ!あ~ちょっ、ちょっと待ってくださいね」と慌てた様子で言い放った。そして、うぅ〜んと悩み込む。 数秒後、ハッと何かを思いついたように顔を上げ、我に視線を向けてきた。


「人間による聖(性)なる儀式!という内容です!」


【せい、なる儀式……それは面白い話なのですか?】


「それはもちろん!!!」


 力強く頷いたアンリマユ様は、勢いそのままに“人間の好き”や“恋愛”というものについて語り出した。

 本の内容を交えながら、次第に顔を赤らめ、とてつもない情熱で、しかもとんでもない早口で話し続ける。


「そして、それらの過程を通して、男性の矛“エクスカリバー”が、女性の盾にこう……ズバァッと……って、ナニを言わせるのですかあなたは!」


【……アンリマユ様が、急に長々と語り出したのではありませんか】


「そ、それは……! あなたのせいです!あぁもう、ワタシはなんてことを~!」


【落ち込んでいるところ申し訳ありませんが……話の途中で何度も“エクスカリバー?”と仰っていましたね。それは一体、何なのですか?】


 我が首を傾げると、アンリマユ様は咳払いをし、口調を切り替える。


「えー……エホン。それくらいならまぁ……。つまりですね、人間の男の下半身に備わる聖剣“エクスカリバー”が、“聖なる儀式”の鍵を握っているのです! 色んな意味で!」


【ん? やはり話が見えてきません。結局、エクスカリバーを使ってナ二をするのですか?】


「だぁあああっ!これ以上の質問は禁止です!あなたはまだ100歳! 若すぎる! 200歳になったら話します!だから、今は知らなくていいのです」


・・・

・・・


 我は目を開いた。


【懐かしいな】


 クルサにハグをされ、“エクスカリバー”について考えていたはずが……気づけば、アンリマユ様との記憶に意識を持っていかれていた。

 あの騒がしくも温かな時間。理解できぬことばかりだったが、それでも――どれも大切な思い出だ。


【エクスカリバーについては、後でクルサに聞けばよいであろう】


 我は屋上の柵から手を離し、ゆっくりと空を仰ぐ。

 雲の切れ間から差し込む陽光が、学園の屋根を柔らかく照らしていた。


【……しかし、今は我ひとりか】


 ぽつりと漏れた声は、そよ風に乗って静かに空へ消えていった。



 その後、我は五限の授業に出るため、教室へと戻った。

 ざわついていた室内は、やがて静まり返る。前方の教卓に立つのは、筋骨隆々とした男――教師の「ハルク」である。


「これから、魔法合宿について説明する」

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