第二十九話 初めてのハグ(キス)♡
胸元にクルサの体がぶつかり、我は一歩だけ後ろによろめく。
「これが……ハグ、よ」
顔を押し付けたまま、クルサは幸せそうに笑っている。その細い腕が、我の背中に回され、ぎゅっと力を込めた。
【こっ……これがハグ……】
これがお礼だと?ふざけているのかと思ったが、その考えは、抱きしめられた瞬間に霧のように消えていた。
ただクルサが我に身を預けている──それだけのはずなのに、なぜだか胸の奥が穏やかに満ちていく。懐かしいような、あたたかな感覚。まるで……「アンリマユ様」と共にいた、あの静かでやさしい時間を思い出す。心の奥底が、じんわりと緩んでいく。
そんな我の思考を、クルサのかすかな声が破る。
「……は、恥ずかしいから……オリオンも私と同じように腕……回してよ」
クルサとの身長差は、我の頭一つ分ほど。至近距離で囁かれたその声は、耳朶をかすめるように入り込み、こそばゆい感覚を残す。
【そう言われてもな……】
これ以上近づけば、柔らかい胸が完全に我に押しつけられてしまうではないか。それに──いや、何に戸惑っているのだ、我は。
「んーんー、早くしてよ……。あなたがしてくれないとハグ……お礼にならないの!」
【わ、分かった】
我は意を決し、ゆっくりとクルサの背に腕を回す。そして、そっと、彼女の体を我の方へ引き寄せた。するとクルサの大きいおっぱいが、我の体に柔らかく押し当てられる。
ムニュ~
想像を超える弾力。押し返してくるような柔らかさに、一瞬たじろぐが、クルサはそんな我に頬をすり寄せ、さらに抱きしめる力を強めてきた。
「ん~ん~♡」
彼女の甘えたような声が聞こえてくる。嬉しそうに身を寄せるクルサの表情は、とろけるように緩んでいた。
「ふふっ……ありがと♡私を鍛えてくれて」
その声音には、言葉以上のぬくもりが込められているように感じた。
クルサは色っぽい瞳を輝かせ、我を見上げる。
「ねぇオリオン。オリオンは……私の男だよ」
【そ、そうだな……】
その言葉に少しだけ圧を感じつつも、我は素直に頷いた。
「だから、私の前で……他の女のこと、考えないで」
【……了解だ】
「オリオンは誰にも渡さない。絶対に、私だけのもの──」
その瞳が、まっすぐに我を見つめ後、顔を急に近づけてきた。
「……私だけを見て……」
チュ
右頬に、柔らかな感触が触れた。
妙に長く、熱を帯びていたように思える。
触れた感覚が離れると、クルサは頬を真っ赤に染めて、うっとりとした表情で我を見つめている。
その顔を見た瞬間──
【……な、何だこれは】
我の心臓が、ドクンと一際大きく鳴った。
魔力の乱れでもない。戦闘の緊張でもない。未知の感情が、胸の奥を支配していく。
「これはハグの一環だから、気にしないで」
【クックルサ……】
「じゃあ、もう一回するね」
チュ
今度は左頬にクルサの唇が触れてきた。
「もう一度だけ……」
チュ チュ チュチュチュ
軽やかな音が、頬をリズムよく包むたびに、我の心臓が勝手に速度を上げていく。
うるさい、うるさいぞ鼓動。どうなっておるのだ。
これは魔法なのではないか?鼓動を加速させ、心臓に直接負荷をかける魔法。まさか、そんな禁呪が存在したとは……。
我のような存在にすら効力がある。これは脅威だ。
そのはずなのに──なぜ、我は抵抗しない。
チュ、チュチュ~、チュ~~
不快ではない。むしろ、心地よいとすら……思ってしまっている。
ムクッ。
「ん?」
【……ん?】
我とクルサは、同時に下方へと視線を移した。
そこには、予期せぬ“変化”が、確かに存在していた。
*
オリオンの心は未だに竜である。
理性は冷たく研ぎ澄まされ、感情の起伏に乏しく、何より“性”というものに無関心であった。
だが──肉体はそうではない。
彼の今の姿は、成長期まっただ中の男子高校生の肉体。
どれだけ心が竜のままでも、どれだけ人間の性に疎くとも、人間の体に心が引っ張られてしまうのは避けられない事だった。
クルサという絶世の美女である彼女が目の前、そして興味をもち続けているおっぱいがずっと触れ続けている状態。さらにクルサの口づけ……キス……これは体験したことがない刺激であり、オリオンが性に目覚めるのも不思議ではなかった……。
*
「……えっ、あっ、こ、これ……もしかして……」
クルサが赤面しながら、おどおどと呟く。
【な……なんだこれは。我のエクスカリバーが、勝手に……】
我の下半身「エクスカリバー」に変化が訪れていた。熱く脈打つ感覚。心臓の鼓動と連動するように、内なる力が暴走しているような──
【クックルサよ、これは……これは一体、どういうことなのだ?】
「あ、あわ、あわわわ……」
クルサは明らかに混乱していた。頬を真っ赤にしながら、腕をほどき、じりじりと後ずさる。
「……わっわたたしししし、どっどうしたら」
小さい声でそう呟いたあと、彼女は我の下半身──“エクスカリバー”を一瞬だけ見つめると、わたわたと手を振った。
「ごごごごめんなさい!!!」
クルサは大声を上げ、とてつもない速さで我の横を通り過ぎ、屋上から出ていった。
バタン!
扉の閉まる音がやけに響く。屋上には、我ひとりが取り残された。
【お、おい……クルサ?】
何なのだ……これは……。




