第二話 夜がうるさい、魔法の世界
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アジ・ダハーカの肉体には、魔虫、魔獣、魔人――
様々な異形が住んでいる。
一体ごとに命があり、意思を持つ。
傷を負うたび、体内から湧き出す。
それらは全て、アジ・ダハーカに絶対の忠誠。
その数、無限。
かつて、アジ・ダハーカと共に、幾多の国を覆い尽くし、
「そこにある命を すべて 刈り取った」
――これは、アジ・ダハーカの能力の【一端】に過ぎない。
*
半年が経った。
我は今も生きている。
食われるか奴隷にされると思っていたが、男(父親)と女(母親)は、むしろ衣食住を与え、世話をしてくれる。
【……そこまで子とは大事なものか?】
分からぬ。我は奪ったことしかない。
我以外の者は全て食料、糧に過ぎない。
今までそうして生きてきた………。
「オリオン様!」
【……戻ったか】
人間となった我。
体は大幅に小さくなり、能力にも変化があると思っていた。
だが、異形の者たちは「アリ」くらいの大きさとなり、今も我の体内に存在している。
どういうわけか、我にも分からん。
この世界について知るため、我は自らの体に傷をつけ、異形たちを密かに解き放ち、情報を集めていた。
我は常に女(母親)の監視下にある。
何度か逃げ出そうとしたが、そのたびに察知、捕らえられた。
だからこそ、探索は異形の者たちに任せていたのだ。
クモの魔虫がトコトコと近づき、小さな声で報告する。
「どうやら、この水晶石に触れることで、わずかですが“エーテル”を得られるようです!」
“マナ” は完全に消え去り、代わりに “エーテル” という新たな力が大気に満ちているらしい。
――“エーテル” を体内に溜め込み、魔力へと変換して放つ――それが『魔法』。
しかし、今の我は “エーテル” を感じ取ることすらできない。
どうやら、魔力という器が閉じたままの状態らしい。
一度、エーテルを直接感じ取り、その蓋をこじ開ける必要があるようだ。
魔虫は青く輝く小さな石――水晶石を差し出す。
我はそれを受け取り、じっと見つめた。
【これが……?】
――ビリッ!
指先から鋭い衝撃が駆け抜け、思わず手を引く。
【ぐっ……な、何だ、これは……?】
夜の闇に包まれた部屋。
だが今、かすかに光が満ちている。
青、緑、紫――微かな光が揺らめき、空間を静かに照らしていた。
【これが、エーテル……なんと、美し――】
「あんっ!」
【………し】
『まだまだいくぞ!そらっ!』
【………い】
「んっ!あなた~!!!」
【はぁ~】
またこれか。
夜な夜な、我が眠りにつく時間、つまり今、パンパン!と音と共に叫び声が響くのだ。
ほとんど毎晩と言っていい。
【人間はナ二をしているのだ?】
これが我の眠りを妨げる要因。
この部屋でやらないこと、そして日々、世話になっている故、目を瞑っているのだが……うるさい。
【少しは静かにできんのか?】
まぁいい。こうも続くと、慣れてしまうものだ。
ともあれ、魔力という箱に穴が空いた。
エーテルを感じられるだけで、大きな収穫と言えよう。
「あぁぁぁん~♡」
【主人公が死ぬカウント 1】
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次回:第三話 これもまた、能力の【一端】