表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/94

第二十話 クルサの家♡

 クルサはさらに言葉を続けてきた。


「ここじゃ恥ずかしいし、初めてはその~理想があるというか……ヤ、ヤるなら、うちで……しない?今日、妹は病院で父も仕事で出かけてるから、私しかいないし。もしオリオンが良ければだけど……ホ、ホテルでも、私は」


 ——冗談で言っただけだったのだが。本気にしてしまったようだ。

 というか、何故ホテル?意味が分からん。揉むだけならここで十分であろう。まぁ、揉む気はないし、そもそも竜魔法を教える気もない。

 だが、クルサがこうして動揺し、困惑している姿を見るのは実に愉快である。我を罵倒した罰だ。もう少し、からかってみるとしよう。


【ここでいいだろう。わざわざ貴様の家に行く必要はない】


「で、できないわけじゃないと思うけど、やっぱりベッドの上がいいかも……恥ずかしいし……あっ!ごっ、ご飯作ってあげるから!」


 ピキーンッ!


 ——ご飯。


 その一言が我の中で、雷鳴のように響き渡った。

 キラリと光る眼差し。次の瞬間には、クルサの背中をぐいっと押して前へと進ませる。


【何をしている。さっさと貴様の家に案内せんか】


「えええぇぇーーーっ!!?」


 こうしてクルサを家へと案内させた。

 

 数分後……。


【ここが、クルサの住処か】


 一階建ての平屋。外観は地味で目立たないが、どこか落ち着いた趣がある。

 玄関を抜けると、木の床がミシリと優しく軋んだ音を立てた。


 内装は簡素ながら、丁寧に整えられている。

 壁には写真が数枚飾られ、ソファやテーブルも特別高価なものではなさそうだが、どれも手入れが行き届いている。


 ——ふむ。我が人間に生まれ変わり、半年ほど滞在していた村の家に似ているようで微妙に異なる。

 人間の住処は、どこも似て非なるものということか。むしろその“個性”こそが人間らしさなのかもしれぬな……。


 そんな風に家の中を眺めていると、クルサが指先で方向を示してきた。


「そこに洗面所があって、右隣にお風呂があるから先に入ってて。私、その間にご飯作っちゃうから」


【分かった】


 我が住んでいる宿屋にも、洗面所と風呂は一応、備えられている。

 そのため、入浴における人間社会のマナーは一通り心得ているつもりだ。


 洗面所で手を洗い、服を脱ぎ捨て、石鹸で体を拭き、シャワーを浴びる。

 我ながら完璧だ。


【ピコン。録音が開始されました】

 

 ……ん?何だ?外で何か音がした気がするが……まぁよいか。

 我は気にせずシャワーを気持ちよく浴び、湯舟を堪能した。


 風呂を上がり、タオルで髪を拭きながらリビングへ戻ると、低いテーブルには湯気の立つ料理が並べられていた。


「できたよ、オリオン。熱いから気をつけてね」


 クルサがエプロン姿で微笑む。


 相変わらずおっぱいが大きいな、少しだけ肌が出ているではないか。

 そう思いながら我は低いテーブルに胡坐をかき、箸を持つ。

 料理の名は——「うどん」と言ったか。白く太い糸が、透き通った白い汁に沈んでいる。その上には玉ねぎとワカメが浮かび、湯気と共に立ち昇る香りが妙に食欲をそそる。

 我が風呂に入っていた短時間でも完成し、かつ美味しいらしい。

 最初は疑ったが、一口すすった瞬間、その疑いは霧散した。


【……うまい】


 その一言が、自然と口をついて出た。

 もちもちとした糸の食感が舌に心地よい。汁は熱すぎずぬるすぎず、絶妙な温度で胃に染み渡る。ズルズルと止まらず喉を通っていく。これは止まらないな。

 さらに隣には、「お稲荷さん」と呼ばれる謎の小さき包みが並んでいた。これも実にうまい。「うどん」との相性が最高だ。


 我はお弁当のときと同様に、うどんもあっという間に平らげていた。

 その様子を静かに眺めていたクルサは、頬を赤らめながら、どこか決意を秘めたような表情で口を開いた。


「ねぇ……私がお風呂入り終わったら、その……胸、揉ませてあげる……。べっ、別にしてほしいってわけじゃないけど。ただ……魔法を教えてほしいだけで……」


 ……そう言えばそうだったな。すっかり忘れていたが、ここに来たそもそもの理由は、我が冗談で彼女をからかったことにあったな。

 しかし料理は食べた。もはや用はない。


【ああ……魔法を教えると言ったことか。あれは冗談だ】


「え……?」


【おっぱいを揉ませろと言ったのも冗談ということだ。魔法を教える気もない。……料理、美味であった。またよろしく頼む】


「……嘘……私……覚悟、してたのに」


 クルサはしゅんとした顔を浮かべ、肩を落とした。そして静かに魔力が立ち上がる。その時、我は対抗魔法の構えを取った。


【またあの魔法か。だが、我も三度目は食らわぬぞ】


「……」


 クルサは頬を膨らませると、ぷいっとそっぽを向いた。

 沈黙。彼女は我に目を合わせようとせず、台所の方へと体を向ける。

 我が近づいて目の前に立てば、すぐさま身体を反対に背ける。


【……おい、何だその態度は?】


 我の問いかけにも、クルサは頬を膨らませたまま「ぷいっ!」とそっぽを向く。

 そんな彼女の肩を掴み、くるりと身体ごとこちらに向かせる。だが、視線は斜め下、こちらを見ようともしない。


 ……もしや、これは最高の展開ではないか?


「もう、オリオンなんて知らないっ!」


 ……ふむ。これは、我の女をやめさせる、絶好の機会と見た。

 今この瞬間、クルサは確実に我に失望している。おそらく先ほどの態度が気に食わなかったのだろう。

 ならば、この流れに乗じて、関係を断ち切る方向へ持っていくことも不可能ではない。

 それができれば、“魔法を教える”という面倒な義務からも解放される。

 好都合ではないか。


【……そうか】


 我が話を切り出そうとしたその瞬間、彼女は強烈な言葉を放つ。


「もう、お弁当作ってあげないから」


 ……。


 ガッ!!!


 ……。


 思考が止まる音がした。


 そうだ。

 クルサが我の女をやめるということは——同時に、お弁当という最高の供給源を失うことを意味している……。それは我にとって死活問題、死に至らしめる行為そのものだ。いや、実際に死ぬわけではなのだが、永遠に「食べられない」という苦しみを味わうことになる。


【……ク、クルサ】


「プイーーー!!!」


 ダメだ。完全に怒っておる。

 くっ、このままでは飢え死にしてしまう。何とかしなければ……。


【……分かった。では、代わりに願いを一つだけ叶えてやろう。何でも言え】


 クルサはぴくりと肩を震わせた。


「……ほんとに?」


【あっあぁ。本当だ】


 顔はまだそっぽを向いたままだが、声は小さく、それでもはっきりと聞こえた。

 

「……そ、それなら……今日、うちに泊まって、一緒に寝て」


 ……ふむ。


 その後、我はクルサにこれから先、「嘘は禁止」と言われた。でなければお弁当は無くなると……。苦しい条件だ。


 そこからは何でもない言葉のやりとり、たわいない話題。

 気づけば23時。クルサが風呂に入り、我は願いを叶えるべく、共に布団に入った。

 しばらくして、クルサがもぞもぞと動き始め——気づけば我の腕にぎゅっと抱きついていた。

 ぴったりと身体を寄せ、おっぱいを押し当て、満足げな表情を浮かべて眠り始める。


【……やっと寝たか】


 そっと布団を掛け直し、我も目を閉じる。


 我は、クルサを好きでも何でもない。

 しかし、こやつの料理は美味で、気も利く。我が命じずともよく動く。

 我の女として、なかなか優秀であろう。


 ——ただ一つだけ、予想外だったのは。


 先ほど、本気で「この女を手放したくない」と思ってしまったことだ。


 クルサ……こやつといると、なぜか心がざわつく。感情が、制御しづらくなる。


 こんなことをしている暇があるなら、魔法の鍛錬にでも励んだ方が有意義だ。

 本来の目的に比べれば、この状況はあまりにも無意味で、非合理で——


 ……なのに、なぜだろうな。

 分からん。

 今はもう、考えるのはやめよう。


ーーーーーーー

次回:第二十一話 クルサの想いは重い:あぁ好き❤️

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ