第十九話 おっぱいを揉ませてくれるのなら、教えてやってもいい!……キュン♡
美味しい弁当を食した後、その日の五限目が始まった。
コトッ。
我の右隣の席はクルサ。そして、クルサの前の席に座る女が「マイラ」という。
先ほど、我はうっかり消しゴムを床に落としてしまった。それはマイラの席の下まで転がっていった。
授業中の私語は禁じられているが、必要最低限のやり取りは許されている。そこでマイラに声をかけようとした、その時——
目の前に、勢いよく何かが飛んできた。
コンッ
消しゴムが窓ガラスに当たって跳ね返り、見事に我の机の上へと着地する。
視線を飛んできた方向へ向けると、クルサの机の上から消しゴムが消えていた。
そして、クルサは一言だけ、さらりと口にする。
「それ、使って」
どうやら、我の消しゴムが落ちたことに気づき、自分のを飛ばしてくれたらしい。
クルサ……さすが我を支える女、なかなか気が利く。
【了解だ】
返事をしつつ手に取った消しゴムには、ひとつだけ気になる点があった。
——ハートマーク♡。
それも、ただのデザインではない。よく見ると、鋭利なペンか何かで丁寧に刻まれている。
……まぁ、気にしないでおこう。
そう思いつつ、我はその消しゴムでノートの間違った部分を静かに消した。
全ての授業が終わり、我は【中級魔法:無色化】という魔法を使い、クルサと共に下校していた。
ハイド……体が周囲の景色と同化し、完全に視界から消える魔法。だが、自らが触れている相手には姿が見える——という仕様である。
クルサの肩にそっと手を添え、我は彼女と共に緩やかな坂道を下っていた。
辺りには下校中の学生たちの姿。だが彼らの誰にも、我の姿は見えていない。
ひそひそと小さい声で我とクルサは会話をしている。
「ねぇ、オリオンは何で G クラスなの?」
【我にも分からん】
「……そう。実力を隠しているってわけでもないんだよね」
【真面目にやってこの成績だ】
そう言いながら我は学生証をクルサに渡す。
魔力 60/100 知識 0/100
技術 60/100 発動速度 40 / 100
応用力 10 / 100 耐久力 100 / 100
道徳 0/100 合計 270/700
*
千年という長い時を経て、古代文字から現代文字へと変化していた。
オリオンは村から盗み出した本で独学し、現代文字を「読むこと」はできるようになっていた。
だが——「書くこと」は別だった。
ぶっつけ本番の筆記試験、ペンという物を初めて握り、何とか答案用紙に書いた。
筆記試験で問われていた内容は全て魔法に関すること。
実際のところ、オリオンは80点という点数なのだが、字があまりにも汚すぎて答案用紙はラクガキ同然。試験官は解読不可能、問答無用で0点とつけられていた。
これが、オリオンの知識が0な理由。
なお、最近行われた小テストでも、オリオンはやはり0点を叩き出した。
その答案用紙を、隣の席からちらりと目撃していたクルサはというと——
目をキラキラと輝かせ、頬を染めていた。
「これは……彼の魅力♡」
あっさりと、オリオンの字が汚すぎて0点だったという事実に気づいたうえで、そこに惚れ直していたのである。
オリオンが好きすぎるあまり、彼の“欠点”でさえ“愛すべき個性”に見えてしまっていたのだ。
*
クルサは学生証の裏に書かれている我の成績を見て呟き始めた。
「ふぅ~ん。知識と道徳が0なのは分かるし、応用力がないのも分かる」
【おい、いきなり罵倒された気がするが気のせいか?】
「耐久力は……うん、アルバートの攻撃をほとんど無傷で耐えてたから、まあ納得」
【我の発言に答えぬとは、きさ】
「でも、魔力だけは分からない。アルバートが一瞬で消えたあの魔法……見たことも聞いたこともない。あれって、結局どういう魔法なの?」
罵倒されたと思いきや、即座に褒められた。我ながら複雑な気分である。
我の竜魔法【冥界門】——それは【対象物を我の体内に直接送り込む】魔法。
だが、クルサに説明してもどうせ理解できんだろう。ならば、からかいを交えて煙に巻くとしよう。罵倒された借りは返しておかねばならぬしな。
【……貴様のおっぱいを揉ませてくれるのなら、教えてやってもいい】
そう言った瞬間、クルサの足がぴたりと止まる。
沈黙。
気になって隣を見ると、クルサは頬を真っ赤に染め、頭から湯気を出していた。
数秒後、彼女は再び歩き出したが、家と家の間の細い路地へ。
そして、ある程度進んだところで振り返る。
我はハイドを解除し、お互いに向き合う形となった。
「……ば、ばかっ。そういうこと急に言わないでよ……っ」
体をもじもじとさせ、自分のおっぱいを隠すように片手を乗せる。
我にも聞こえぬほどの小さな声で何かを呟いた後、ふぅと小さく息を吐く。
覚悟を決めたような表情で、ちらりと上目遣いに我を見つめながら問いかけてきた。
「そっ、そう言えば……オリオンの家って、どこにあるの?」
……話の流れが唐突すぎて、一瞬思考が止まった。
【いつもは宿屋に泊まっている】
なお、その宿代は各地の村で盗み取った金で賄っている。だが、それは言わなくてよかろう。
「……そっか」
クルサはスーハーと呼吸を整え、深呼吸を数回。
そして照れたようにこちらを見上げながら、ぽつりとした声で言った。
「じゃ、じゃあ……うちに、来る?」
・・・ん?何故、そうなる?
ーーーーーーーー
次回:第二十話 クルサ家♡




