第十八話 見返りというご褒美❤
学校内では、第一次試験の話で持ちきりだった。
「Cクラスのアルバートが死んだって本当なのかよ?」 「Cクラス最強って噂だったけど、実力は嘘だったんじゃね?」 「いやいや、上級魔法が使える時点で強いっていうか、実力は確かだろ」 「魔族にやられたとは考えにくいし……誰かに殺された説もあるぞ?」 「でも目撃者がいないんだって」 「途中で現れた魔族に襲われたんじゃね?」 「それも違う。アイツら、俺たちには何もしなかったし」 「……それよりあの時、すごい魔力を感じなかった?」 「感じたけど、それってAかBクラスの誰かじゃね?」 「そ、そうだよね……私の勘違いかも」
「でもさ、アルバートって確か、黒髪のクルサに告ってたよね? 中学の頃から」 「うわ、それが原因かも……」 「黒髪の女に関わったせいで死んだ……? やっぱ“災い”って本当にあるんだな」
このような話が、校内を駆け巡っていた。
我が失策により、クルサは我の女となった。
すでに彼女には、「この関係を誰にも話すな」と口止めをしている。
これ以上、目立つわけにはいかないからだ。
試験の合格者は校内で明記され、Gクラスからは我とクルサを含め、五人が名を連ねた。
そして今、その名は全校生徒に知れ渡っている。
加えて、我は黒髪――“災いの印”を持つ者。
いやでも視線を集める存在となっている。
ただでさえ目立つというのに、もし、クルサの“男”が我だと知られた場合、さらに注目を浴びるのは、火を見るより明らかだ。
全生徒からしたら、Gクラス合格者、黒髪というのが我の印象であろう。これ以上の目立ちは不要。
今はまだ、竜だったという事実を知られてはならぬ。
封印は二度と御免だ。
だからこそ、クルサにはあらかじめ言っておいたのだ。
「誰にも口外するな」「教室では必要最低限の会話だけを交わし、他人として振る舞え」。この二つの条件を、彼女に課した。
まぁ当然、見返りを要求されたがな。
試験が終わり、今日から再び日常――通常授業が再開された。
四限にわたる講義を終え、50分の昼休み。
食堂で食事を取る者。本を開いて静かに過ごす者。外に出て魔法の訓練を始める者。それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。
――そんな中、我は拘束されていた。
クルサの見返り……条件のために。
我は無言で階段を上がり、屋上の扉を開ける。
風が髪を揺らす中、右へと歩く。
肌色の建造物を通り過ぎ、さらに右へと折れると――そこに、彼女はいた。
クルサは色とりどりの模様が描かれた小さな箱を膝に抱え、静かに座っている。
我に気づくと、ぱっと顔を上げ、頬を朱に染めて口を開いた。
「やっと来た」
【約束だからな】
「なんか、義務みたいで嫌な感じ」
【実際、そうであろうが】
「はぁ~……まぁいいや。ふんっ」
クルサはふてくされたように小さくため息をつきながらも、隣のコンクリートをポンポンと叩く。
我は無言のまま、そこに静かに腰を下ろした。
「はい、これ」
そう言いながら、クルサは片手で自身の黒髪を弄り、もう片手で小さなカラフルな箱を差し出してきた。
我は眉をひそめ、それを受け取る。
【……何だ? これは?】
「お弁当よ、お・べ・ん・と・う」
【お弁当?】
初めて聞く単語だな。爆弾の類か?蓋を開けた瞬間、半径一キロが吹き飛ぶのか?
「朝、私が作ったの。見た目は普通でも……味には自信あるから」
ほぅ、朝の短時間に爆弾を仕上げるとは、面白い。
我のこの強固な肉体に、果たしてどこまで通用するか――試してやろう。
パカッ――。
我は慎重に蓋を開けた。
が、そこに広がっていたのは――まったく予想外の光景だった。
*
ほかほかの白米に、ふっくらと焼き目のついた鮭の切り身。
出汁がしみた卵焼きが三切れ、黄色い花のように並び、
煮物の中には人参や椎茸、こんにゃくが丁寧に味付けされている。
副菜の小さなカップには、彩り鮮やかなブロッコリーとミニトマト、そしてポテトサラダ。
デザートには、隅にひと口サイズに切られた林檎が、うさぎの耳のような形で添えられていた。
オリオンは前世で魔族か、魔族が作る魔の料理しか食べたことがない。
人間に転生して15年、離乳食、山に住む動物たちの肉、村から盗んだ野菜や作物、魔族しか食べていなかった。
学校に通ってからも、食堂にある一番安いパンを食べては、路地裏で残飯を漁り空腹を満たしていた。
そんなオリオンは生まれて初めて、まともな料理というものを目にする。
*
【なっ……何だこの、美味そうな食べ物たちは……!】
我は香りに惹かれ、思わず素手で掴み、一つひとつを食していく。
どれもこれも、今まで口にしたことのない味――
甘みと出汁が舌にじんわりと染みわたり、喉を通るたびに体が温まっていくようだった。
「……ど、どうかな?」
【……うまい。こんなものを……我は今まで、食べたことがない】
その瞬間、我の頬を一筋の涙が伝っていた。
戦場でしか、流さなかった涙が今、零れていた。
「ふふっ……そんなに、良かったの?」
クルサは驚きつつも、どこか安心したように微笑む。
【当たり前だ!これほどの食事……食わずにいられるか!】
我は夢中で食べ続け、気づけば弁当箱の中身はすっかり空っぽになっていた。
【ふぅ……美味かった。満足だ】
空を仰ぐ。そこには青空が広がっていた。
ほんの少しだけ――我の世界が、穏やかに変わったような気がした。
「それは良かった。じゃあ、二つ目も……聞いてもらおうかな~」
【……そうだったな】
「……肩……貸して」
我は美味なる食事で満たされた余韻の中にあり、気分も幾分か穏やかだった。
そのせいか、自然とクルサの言葉に逆らう気にはならなかった。
クルサはそっと左手を差し出し、我の右手を包むように握る。
そして、指先同士を丁寧に絡めながら、そっと身を寄せた。
彼女の黒髪がさらりと揺れ、次の瞬間には――我の左肩に、彼女の頭がそっと預けられていた。
目を閉じた彼女の顔には、安心と幸福の入り混じった穏やかな微笑みが浮かんでいる。
風の音、鳥のさえずり、学園のざわめきが遠くに霞んでいく。
何も話さず、何も動かず――ただ、寄り添っているだけの時間。
我は静かにその重みを受け止めながら、しばし静寂に身を委ねていた。
クルサが我に出した二つの条件……。
一つ、昼休みは屋上で共に過ごすこと。
二つ、学校がある日は欠かさず、触れ合うこと。
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次回:第十九話 おっぱいを揉ませてくれるのなら、教えてやってもいい!……キュン♡




