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第十七話 蜘蛛の女王【アラクネ】

 オリオンの体内は、魔界と繋がっている。


 魔界……それは、この世とは異なる法則で構成された異空間。

 空も重力も存在せず、ただ漆黒の空間が広がる中、煮えたぎる溶岩と燃え盛る炎が、辺りを赤く照らしている。

 そこには、人の理では測れぬ異形たちが蠢き、咆哮し、無秩序のままに共存していた。


 オリオンが傷を負うたびに、その魔界から無限の異形たちが現実へと現れ、命令を果たす。

 死んだ時や、体内に戻る時にはその場から消滅し、魔界へと転送される。


………………


 第一次試験が終わり、ベルゼブブはオリオンの体内――魔界へと戻っていた。

 静まり返った魔界にて、彼は音もなく地上へと降り立ち、主の玉座の間へと足を運ぶ。

 だが、その光景を目にした瞬間、思わず口を開いた。


「……お前、一体何をしている?」


 主が座すはずの巨大な玉座は、白く光る糸に覆われ、まるで蜘蛛の巣そのものと化していた。

 天井から垂れた糸は光を吸い、淡く煌めきながら玉座を覆いつくしている。

 その中心で、彼女は甘えるように頬を擦りつけていた。


『見て分からない? アタシの美しい糸で、愛を表現してるのよ』


 蜘蛛の女王【アラクネ】――

 艶やかに波打つ紫髪のポニーテール。

 上半身は人の姿をしており、おっぱいは大きく、滑らかな白い肌と紅を引いた唇が妖艶さを際立たせている。

 だが、腰から下は巨大な蜘蛛の体と化し、黒曜石のような甲殻が鈍い音を立てて軋む。

 その尻尾の奥にある針からは、甘く粘つく糸が引き出され、今まさに玉座の手すりへと巻きつけられていた。


『ふふ……この玉座には、主の匂いが残ってるの。あぁ、もう……たまらない』


 アラクネはいやらしく色気を滲ませた笑みを浮かべ、ぴったりと玉座に体を沿わせた。

 上半身の豊かな胸元を、艶やかに擦りつけるように揺らしながら、愛しい人に抱きつくかのように。


『でも~、なんでアタシを呼んでくれなかったのかしらぁ。森での戦闘なら、アタシのほうが得意なのに』


 ベルゼブブは深々とため息をつき、呆れたように言い放つ。


「お前は人間が目の前にいれば、主に“殺すな”と命じられていても殺すだろうが」


『当たり前じゃない』


「そこが問題なのだ。今回は“殺すな”という命令だった。理由は分からぬが――主はまた、何かを企んでおられる。人間を殺さずに試験を突破する、だから余が選ばれた」


『だって、仕方ないじゃない』


 アラクネの紫の瞳が妖しく輝き、口元に微笑を浮かべる。


『人間が絶望する、あの顔……たまらなく好きなんだもん』


 次の瞬間、空気が揺れる。

 忌まわしく、おぞましい魔力が玉座の間を満たし、圧のように広がっていく。


 だが、ベルゼブブは一切動じることなく背を向け、その場を去ろうとする。


『ええ~、もう行っちゃうの?』


「余は、ただ玉座を掃除しようとしただけだ。……その糸、後で片付けておけ」


『はぁ~い♡』


 アラクネは頬を染めながら、楽しげに指先で糸を巻き取る。

 その瞳はなおも、玉座に残る主の残り香を追いかけていた。


ーーーーーーーーー

次回:第13話 変わってしまった学校生活♡


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