表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/94

第十五話 初恋の変態

 オリオンとアルバートが戦っている時、「私」はなぜか、今までのことを思い出していた……。


 あの日、小学校から帰ると村が燃えていた。

 遠くからでも分かった。――魔族に襲われている。そう直感した。


 足がすくみ、震えが止まらなかった。

 けれど、頭に浮かんだのは家で待つ妹の姿。

 私はリュックを道に投げ捨て、無我夢中で走った。


 家の前に着いたとき、そこには血まみれで倒れる父の姿があった。

 その奥では、妹がゴブリンに押し倒されていて――私は、考えるより先に飛び出していた。


 妹を庇い、背中に鋭い爪が食い込む。

 意識が遠のいていく。

 棍棒が振り下ろされた、その瞬間。


【ここにもおったのか雑種共。”我”の糧となるがよい】


 耳元で響いた声の直後、聞いたこともないような魔族たちの断末魔が響き渡った。

 そしてしばらくすると、すべての音がふっと消える。


 私は恐る恐る目を開けた。

 すると、そこにいた魔族たちは跡形もなく消えていた。残っていたのは、炎と血の匂い、そして彼。


【おい、女。傷を見せろ】


 炎の中に立っていたのは、私と同じくらいの年の少年。

 銀髪が、火に照らされてきらめいている。


 彼が……全部? 一人で、あの魔族たちを?

 信じられなかった。けれど、それ以外に説明がつかなかった。


 口を開き、お礼を言おうとした。

 でも、背中の痛みがそれを妨げる。


【黒髪か……】


 その言葉に、胸の奥がきゅっと痛んだ。  

 そうだ、私は黒髪――“災いの証”と忌み嫌われてきた。  

 魔族が来たのは、私のせいなのかもしれない。

 私が黒髪のままだったから。染めなかったから。  

 亡くなったお母さんの髪の色を守りたくて、繋がりを感じたくて、ただそれだけだったのに。

 私は思わず視線を落とした。きっと彼も、私を拒絶する。そう思った。


【……綺麗だ】


「……え」


 一瞬、時間が止まった気がした。


「き……れい?」


 耳を疑った。心臓が、急に騒ぎ出す。

 “綺麗”――そんな風に言われたのは、家族以外では初めてだった。


 彼は、真っ直ぐに私を見ていた。

 誰もが遠ざかっていった私に、向けられたことのない視線を浴びせてくる。


 その手のひらから、あたたかな光が生まれ、緑の輝きが背中を包んでいく。

 じわじわと痛みが和らぎ、身体の震えも少しずつ収まっていった。


【あぁ……これで治療は終わりだ】


 ――お礼を言わなきゃ。

 だけど、口が動かなかった。


 何だろう、この気持ちは。

 ただ、心臓の音だけがやたら大きく響いて、顔が熱くなる。

 胸がぎゅっと苦しくなって、私は思わず視線を逸らした。


【貴様、このことは他言するな。"我"のことは忘れて、生を謳歌するといい】


 私は思わず頷いた。

 そして、彼はどこかへと消えていく。その背中は夜の闇に消えていった。


 これが初恋だと自覚するのは次の日からだった。

 何をしていても、彼の顔が頭から離れなかった。

 あの銀髪と、「綺麗だ」と言った時のまっすぐな瞳が、何度も脳裏をよぎる。


 たった一言。それだけ。

 今思えば、そんな一言で恋に落ちるなんて、私って単純すぎる。自分でもそう思う。

 けれど、あの頃の私にとって、あの言葉は……

 家族以外の誰からももらったことのない、優しさだった。


 ずっと否定されてきた自分を、初めて肯定してくれたような気がした。

 私の黒髪を、初めて「綺麗」と言ってくれたその言葉が、どれほどの勇気をくれたか――今でも、忘れられない。


 あのとき、私は確かに思った。

 自分の選んだ道は、間違っていなかったんだ、と。


 彼のように、強くなりたい。

 そしていつか――彼の隣に立って、肩を並べて歩けるように。


………………


 オリオンが倒れたところで目が覚めた。

 でも、気づけば彼は立っていて、アルバートが悲鳴を上げ、次の瞬間にはいなくなっていた。

 アルバートが放っていた魔力の波動が一瞬にして消え、黒い鎖が解かれた。


「……えっ……倒したの?Cクラスのアルバートを?Gクラス……私よりも成績が低い彼が?」


 信じられなかった。けれど、オリオンはアルバートに立ち向かい、そして勝った。これが紛れもない現実。


「オリオン……彼は絶対に G クラスじゃない。C クラスのアルバートに勝ったんだから、少なくとも B 、いや A クラス。でも、何で彼は私よりも成績が低いの?意味が分からない」


 彼がとても怖く見えた。けれど、どこか安心していた。

 最初に出会った時からずっとそうだった。偉そうな態度、どこか上から目線な口ぶり、整いすぎた顔立ち、そして“我”という珍しい一人称――。


 そのすべてが、昔出会った“彼”にあまりにもよく似ていた。


 そして、今目の前で繰り広げられた戦闘。

 あの時と同じだった。圧倒的で、理不尽なまでの強さ――。


 もし、“彼”がオリオンだったとしたら――今の強さにも納得がいく。

 魔族を一瞬で消し去った"彼"が、さらに鍛え上げられていたのなら、アルバートを倒しても不思議じゃない。

 Gクラスにいる理由は分からないけれど、すべてが不思議と繋がっていく。


 でも認めたくない。

 あんな変態が、私の憧れで、初恋の人であるはずがない。それに、こんな弱い私を見てほしくない……。

 様々な葛藤に揺れる中、オリオンがふとこちらを向く。しかし、すぐに背を向けてどこかへと行こうとする。


「まっ待ってよ。その怪我でどこに行こうとするの?」


 オリオンは心臓の部分に穴が空いていて、全身が傷だらけ、左腕はなく、血が大量に溢れ出ている。立っているのが不思議なくらい。


【……貴様は我を投げ飛ばし遠ざけたはずだ。なのになぜ、また我に近づこうとする】


「そっそれは………」


 私の初恋の人。あなたがその人かもしれなくて、心配だから……なんて言えるわけないでしょ!


「お……お礼が言いたくて……」


【お礼?あのアルバートという男はこの世に居てはならぬ卑怯者だ。死んで当然。礼を言われる筋合いはない。我が一人で殺り、一人で行ったことだ】


 なんでだろう。

 あの頃の“彼”がオリオンだと思うと、すべてがカッコよく聞こえてしまう。

 彼の声を聞くだけで、胸が締め付けられる。


「強くなりたい」


 気づけば、口から本音がこぼれていた。


「あなたのように強くなりたい」


 彼は驚いた表情を浮かべる。


【……そうか。少し、待て】


 そう言うと、彼はふいっと視線をそらし、何やらブツブツと考え込む。

 腕を組んで、うーむ、と難しい顔。かと思えば、急に顔を上げて目を輝かせた。


【よし、決めたぞ。我が貴様を鍛えてやろう。だが条件がある。“二つ”だ】


「なっ何よ」


【まず、今までのことを謝れ】


「えっ?だって、全部あなたが悪かったし」


【ふむ。我は構わぬが、貴様が謝らなければこの話は無かったことになる。それでもいいのか?】


 彼はそう言いながらめちゃくちゃニヤついている。


「くっ!」


 前言撤回!こんな人が私の初恋の人?信じられない。信じられないけれど事実かもしれないのが、どうしても憎い!幼い頃の私、考え直した方がいいかもしれない。こんな人を好きになるなんて!


 様々な事が頭に浮んだけれど、謝れば強くなれる。そう思い直し、私はぐっと唇を噛み、プライドを飲み込んで、うつむきながら絞り出した。


「ごっ……ごめんなさい」


【よかろう。我は心が広い。今までの事を水に流そうではないか】


 何その態度!くぅー!ムカつく!もういい!さっさと二つ目を聞いて終わらせよう。少し考えたいこともあるし。


「もう謝ったからいいでしょ。それで、二つ目は何なの?」


【我の女となれ】


「・・・はっ?」


ーーーーーー

唐突なオリオンから告白、これには理由が……。

………

次回:第十六話 重すぎる愛キュン❤️ついにイカれ始めた…クール清楚黒髪ロング巨乳ヒロイン(クルサ)❤️

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ