第十一話 やはり、あやつは「おっぱい」だ
「あなた、何しているの!」
【何って。クルサと同じ、黒に変えただけだ】
「今すぐ戻して! 自ら黒髪になるなんて正気じゃない。そんなの、都市中……いいえ、世界中の人から嫌悪されるのよ!」
【構わん。嫌われることには慣れている】
「慣れてるって、そんな……」
クルサとのやり取りが気に障ったのか、アルバートの顔がピクリと歪む。
周囲の空気が震え、彼の身体からじわじわと魔力のオーラが漏れ始めた。
『……会話に、割り込まないでもらえますか?』
【我に命令するとはいい度胸だ。そして断る。我を止めたくば、貴様の魔法で何とかするのだな。魔力を消す?だったか。やってみよ】
『僕は今、堪忍袋の緒が切れている状態です。本当にしますよ。いいんですね』
【良いと言っているだろうが。それとも、クルサの弱みを手放すのが怖いのか?】
アルバートは怒っているが、声色には冷静さが残っている。
その目は、我ではなく――クルサをまっすぐに見据えていた。
『もういい。クルサさん、これが最後のチャンスです。僕のものになると、そう言いなさい。そうすればすべてが丸く収まる。……彼の人生が台無しになっても構わないんですか?』
「……わ、私は……」
こやつ、まだ迷っているのか?
【クルサ、我は平気だ】
我の言葉に、クルサは小さく息を呑んだ。
「……いいの? 彼の魔法は冗談じゃない。妹がかけられたの、本当に……今も魔力が戻らないの。魔法が……二度と放てなくなるのよ?」
やれやれ。せっかく我を庇い、評価してやったというのに。
だが、どうにもクルサは感情的だ。
【声が大きい。全く、大きいのはおっぱいだけにしてくれ】
「今はそんな冗談を言ってる場合じゃ!」
冗談ではないのだが……まぁ、良い。
我はクルサの頭に手を乗せた。
【貴様に庇われるほど、我は弱くない。信じよ】
すると、クルサは一瞬だけ頬を染め、しかしすぐに顔を横に振って答える。
「……分かった」
そしてアルバートに向き直る。
「私は……あなたのものにはならない」
『チッ……そうですか!』
アルバートは指を鳴らし、魔法を発動する。
*
アルバート……Cクラス、属性は『闇属性』。
中級魔法……『抹消』。
『名前を聞いた相手の”魔力”を消滅させる』。
属性一つに付き、魔力(器)が存在する。
抹消は、その魔力(器)を消滅させる。
しかし、アルバートが消せる魔力(器)は三つまでだった……。
つまり、『消せる属性も三つまで』……。
*
ホォォォン――。
空間が揺れるような低い音が響き、我の胸の奥に鈍い衝撃が走った。
たしかに――何かが抜け落ちた感覚。
『これで君は、魔法が放てなくなりました。退学するかどうかは自由ですが、することを、お勧めしておきます』
アルバートは我らに背を向けながら、淡々と続ける。
『残るなら、“試験”で待っていてください。学校内では殺したら面倒なので、正式の場で終わらせます。……楽しみにしてますよ』
そのまま姿を消すように、歩み去った。
「……ごめんなさい」
クルサが、俯きながら震える声で呟く。
【ふむ……奴が消せる属性は三つまでか】
「……え?」
【魔力量からして、五つくらいは消せると思っていたが……見誤ったな】
「ちょ、ちょっと待って。あなたの属性は……?」
【ふん。驚くなよ。我はこの世に存在する“全ての属性”を宿しておる!】
「………ん? つまり、属性を三つも消されても問題なかった……ってこと?」
【当然であろう!】
「そんな人いるわけ――いや、今は突っ込まないでおくわ……そう……全属性、ね……ふぅん〜〜〜〜?じゃあ、私がこんなことしなくてもよかったんだぁ~へぇーそうですかー!」
クルサの目がキラリと光る。次の瞬間、彼女の体に魔力がみなぎる。
【お、おい……クルサ? その魔力、まさか――】
「そういうことならッ!!」
わっ! ドッパァァァン!!
我の体はふわりと宙を舞い、勢いよく茂みの中へと頭から突っ込む。
葉がざわめき、鳥が一斉に飛び立つ。
「もっと早く言ってよっ! バカ! 変態!!」
【こっこのクソおっぱいめが……】
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次回:第十二話 蠅の王【ベルゼブブ】




