第十話 黒髪の「クルサ」
その後、クルサは教室でも入学式のときも、ずっと沈んだ顔をしていた。
「……ごめんなさい。何とかするから」
アルバートが去ったあと、そう呟いたきり、我の顔をまともに見ようとしない。
上から目線な態度を取ったこと、我を投げ飛ばしたことに対する反省かと思ったが、様子が違う。
アルバートが現れてから明らかにおかしくなり、我の体には得体の知れぬ魔力の気配。
すべて、あの男が関わっている。
我は放課後、アルバートの跡を追うことを決意した。
*
【この世すべての悪】――悪神「アンリマユ」
千年前、この世界を混沌へと導いた存在。
その禍々しい伝説は、千年の時を越えた今でも根強く残っていた。
特に忌避されたのは、アンリマユと同じ「黒髪」
それは“災いの印”とされ、黒髪に生まれた者は皆、魔法で髪色を変えるのが常だった。
……だが、クルサは違った。
彼女は決して染めなかった。
「亡き母から受け継いだ大切な色」だから。
そして、幼い頃――
黒髪のままの自分を「綺麗だ」と言ってくれた少年がいたから。
*
放課後――。
我はこっそりとアルバートを追う。
すると、辿り着いたのは体育館の裏。壁の陰に身を潜めて様子を窺った。
「これで今すぐ、オリオンにかけた魔法を解いて」
そこには黒い巾着袋を持ったクルサが待っていた。
『それ、お金ですか。はぁ〜全く、そんなのいりません。僕の気持ちを受け入れてくれるなら解除します。でも、そうでないなら』
アルバートは右手を上げ、人差し指と親指を重ねる。
『彼の“魔力”を消します。一生、魔法が使えなくなるでしょうね。あなたの妹さんのように』
「……くっ」
『ですが、不思議でなりません。あなたも彼とは初対面のはず。なのに、僕をわざわざ呼び出して、金まで……なぜですか?」
「妹と同じ目に遭ってほしくないから」
『嘘ですね。あなたは他人に優しくするような人じゃない。まして初対面の人のために金を渡すなどありえない』
「………」
『見た目ですか?彼は身長も高く、顔立ちもいい、銀髪も似合っていましたしね』
「……違う」
『では、なぜ?』
クルサは悔しそうに目を伏せ、ほんのり頬を染めながら、小さく呟いた。
「……彼の一人称が、“我”だったから」
『は?それだけで気に入ったというのですか?意味が分かりませんね』
「べ、別に……気に入ったってわけじゃ……」
アルバートは冷たく笑い、肩をすくめる。
『でも……あなたはともかく。彼はなぜ、あなたに近づくことができたのでしょうか? 普通なら、黒髪を見た瞬間に離れるはず……』
クルサの目が大きく開く。
『彼は知らないのでは? 世界が恐れた悪神アンリマユと同じ髪色――つまり【黒髪】が、忌み嫌われ、災いをもたらすと。それを知らなかったからあなたに近づいた』
「そっそんなこと、あるはず……」
その自身のない発言を聞いたアルバートはニヤついた。
『あるかもしれませんよ?けれど、その真実を知れば……二度とあなたには近寄らなくなるかもしれませんね。それは、僕にとって実に都合がいい。彼に話して確かめてみますか?』
クルサの指先が震え始める。
「……やめてよ……そのお金で」
アルバートは容赦なく、指を鳴らそうとする……。
『金なんていりません。欲しいのは“あなた”。僕を受け入れなければ、彼は魔力を失い、あなたは彼を失う。それだけのことです。 さぁ、お返事を――3』
アルバートがここに来たのはクルサに呼ばれたから。
そしてクルサは、我にかかった魔法を解除するために交渉したと。
人間に庇われる……こんなことは初めてだ。
『2』
それにしても「アンリマユ様」と同じ髪色だから嫌われているだと?
*見た目で判断する……人間共は愚かだな。
重要なのは、中身だというのに*
『1』
我はクルサの評価を改め、姿を現す。
【話は聞かせてもらった】
近づく我にアルバートは手を止め、クルサはこちらを振り向く。
「あ、あなた……! どうしてここに……!」
【黒髪の貴様といると”災い”がくるのか、実に恐ろしいな】
その言葉に、クルサは悲しげにうつむいた。
【悪神『アンリマユ様』と同じ髪色だから忌み嫌われている…そういうことか】
シュウゥ……
我の銀髪が、静かにその色を失い始める。
【なるほどな】
クルサは黙り込み、表情を陰らせる。
だが、我がそっと肩に触れると――
「ひゃっ!」
驚きの声を上げ、顔を上げる。
そして、目を見開く。
「……うそ……」
我は己の『銀髪』を魔法によって、
忌まわしいとされる【黒髪】へと染め上げる。
【ならば、我も "災いを招くとしよう"】
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次回:第十一話 やはり、あやつはおっぱいだ




