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第十話 黒髪の「クルサ」

 その後、クルサは教室でも入学式のときも、ずっと沈んだ顔をしていた。


「……ごめんなさい。何とかするから」


 アルバートが去ったあと、そう呟いたきり、我の顔をまともに見ようとしない。


 上から目線な態度を取ったこと、我を投げ飛ばしたことに対する反省かと思ったが、様子が違う。

 アルバートが現れてから明らかにおかしくなり、我の体には得体の知れぬ魔力の気配。

 すべて、あの男が関わっている。


 我は放課後、アルバートの跡を追うことを決意した。



【この世すべての悪】――悪神「アンリマユ」


 千年前、この世界を混沌へと導いた存在。

 その禍々しい伝説は、千年の時を越えた今でも根強く残っていた。


 特に忌避されたのは、アンリマユと同じ「黒髪」

 それは“災いの印”とされ、黒髪に生まれた者は皆、魔法で髪色を変えるのが常だった。


 ……だが、クルサは違った。


 彼女は決して染めなかった。

「亡き母から受け継いだ大切な色」だから。

 そして、幼い頃――

 黒髪のままの自分を「綺麗だ」と言ってくれた少年がいたから。



 放課後――。

 我はこっそりとアルバートを追う。

 すると、辿り着いたのは体育館の裏。壁の陰に身を潜めて様子を窺った。


「これで今すぐ、オリオンにかけた魔法を解いて」


 そこには黒い巾着袋を持ったクルサが待っていた。


『それ、お金ですか。はぁ〜全く、そんなのいりません。僕の気持ちを受け入れてくれるなら解除します。でも、そうでないなら』


 アルバートは右手を上げ、人差し指と親指を重ねる。


『彼の“魔力”を消します。一生、魔法が使えなくなるでしょうね。あなたの妹さんのように』


「……くっ」


『ですが、不思議でなりません。あなたも彼とは初対面のはず。なのに、僕をわざわざ呼び出して、金まで……なぜですか?」


「妹と同じ目に遭ってほしくないから」


『嘘ですね。あなたは他人に優しくするような人じゃない。まして初対面の人のために金を渡すなどありえない』


「………」


『見た目ですか?彼は身長も高く、顔立ちもいい、銀髪も似合っていましたしね』


「……違う」


『では、なぜ?』


 クルサは悔しそうに目を伏せ、ほんのり頬を染めながら、小さく呟いた。


「……彼の一人称が、“我”だったから」


『は?それだけで気に入ったというのですか?意味が分かりませんね』


「べ、別に……気に入ったってわけじゃ……」


 アルバートは冷たく笑い、肩をすくめる。


『でも……あなたはともかく。彼はなぜ、あなたに近づくことができたのでしょうか? 普通なら、黒髪を見た瞬間に離れるはず……』


 クルサの目が大きく開く。


『彼は知らないのでは? 世界が恐れた悪神アンリマユと同じ髪色――つまり【黒髪】が、忌み嫌われ、災いをもたらすと。それを知らなかったからあなたに近づいた』


「そっそんなこと、あるはず……」


 その自身のない発言を聞いたアルバートはニヤついた。


『あるかもしれませんよ?けれど、その真実を知れば……二度とあなたには近寄らなくなるかもしれませんね。それは、僕にとって実に都合がいい。彼に話して確かめてみますか?』


 クルサの指先が震え始める。


「……やめてよ……そのお金で」


 アルバートは容赦なく、指を鳴らそうとする……。


『金なんていりません。欲しいのは“あなた”。僕を受け入れなければ、彼は魔力を失い、あなたは彼を失う。それだけのことです。 さぁ、お返事を――3』


 アルバートがここに来たのはクルサに呼ばれたから。

 そしてクルサは、我にかかった魔法を解除するために交渉したと。


 人間に庇われる……こんなことは初めてだ。


『2』


 それにしても「アンリマユ様」と同じ髪色だから嫌われているだと?

 *見た目で判断する……人間共は愚かだな。

  重要なのは、中身だというのに*


『1』

 

 我はクルサの評価を改め、姿を現す。


【話は聞かせてもらった】


 近づく我にアルバートは手を止め、クルサはこちらを振り向く。


「あ、あなた……! どうしてここに……!」


【黒髪の貴様といると”災い”がくるのか、実に恐ろしいな】


 その言葉に、クルサは悲しげにうつむいた。


【悪神『アンリマユ様』と同じ髪色だから忌み嫌われている…そういうことか】


 シュウゥ……

 我の銀髪が、静かにその色を失い始める。


【なるほどな】


 クルサは黙り込み、表情を陰らせる。

 だが、我がそっと肩に触れると――


「ひゃっ!」


 驚きの声を上げ、顔を上げる。

 そして、目を見開く。


「……うそ……」



我は己の『銀髪』を魔法によって、

忌まわしいとされる【黒髪】へと染め上げる。



【ならば、我も "災いを招くとしよう"】

ーーーーーー

次回:第十一話 やはり、あやつはおっぱいだ

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