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四年目

 修行の甲斐あって、俺の魔法技術はそこそこ進化し、それに伴って生活レベルも大いに発展した。


 まず、河原に転がっている黒っぽい石から鉄っぽい何かを抽出できるようになった。あんまり取れないが、おかげで装備が鉄っぽいナイフになっている。

 ついでに針とか糸も作れるようになったが、今の俺の服装はいろいろな動物の皮をつないで作ったザ・原始人と言ったいでたちのままである。大して進歩していない。復職についてはセンスも技術も材料もないからな。


 魔法による石材加工の熟練度はかなり上がり、今ではかなり自由に削り出しで形を作れるようになった。その集大成ともいえるのが今目の前にある井戸と手押しポンプである。

 最初の拠点である小屋と畑の前には小川から溝を切って水路を引き込んだが、第二拠点の周りには川はないので井戸を掘ったのだ。


 井戸自体は二、三メートルも掘るだけで作ることができたが、おぼろげな知識を総動員して魔法の練習もかねて三カ月かけて作ったのがこのポンプだ。


 見てくださいこの御影石のような光沢を放つポンプを!材質はほぼほぼ石、可動部のキーパーツだけ鉄っぽい何かを使った自慢の一品だ。ぶっちゃけ魔法による石材加工はすでに前世の最新技術に迫るものがあるのではないかと感じている。長さ一メートルのまっすぐな石のパイプとか見たことある?俺はなかった。

 最近は用もないのにポンプをキコキコやって水を出すのが楽しみである。

 折角なので第二拠点の周りにも小さい畑を作った。



 そんなこんなで俺がシカ魔獣の対策を初めて早くも二年半ぐらいが経過している。


 幸いなことに、こちらが魔力操作なしでは森の奥へと入れないように、あちらも魔力のないこちら側へは入ってこれないようだったので、安全第一でいろいろ試してみたのだがどうにも芳しくない。


 今はなけなしの鉄(仮)で作った銛をどうにか打ち込めないかを考えている。


 投げつけただけで刺さるとは思えない。以前作った弓はショボすぎて試す気にもならない。まだ魔法でどうにか加速できないかを試したほうが有意義というもの。

 というわけで、境界領域で丸太に銛を打ち込む魔法の練習をしていた時、俺がこの世界にやってきてから最大の転機がやってきた。




 がさり、と茂みが揺れて、そこから出てきた人と目が合った俺はたっぷり一分ぐらい固まっていた。

 そう、人である。


 それは、四人組だった。


 森林迷彩の軍服のようなものを着ている。


 ……なんか思ってたんと違う。

 魔法がある世界ということで、もし人と会うようなことがあれば粗末な麻の貫頭衣だとか、あるいは「冒険者」的な武器防具を身に着けた人なんだろうか、と想像したりもしていたのだが、実際に出てきたのはゲリラ戦に身を投じる軍人みたいなやつだった。あれれ~?おかしいぞ~?


「〇●〇▽~~?」


 先頭の男がなんか言ってるが。

 何を言っているかわからなかった。マジか。なんとなく大人の姿でここに立っていたからなんとなく誰かと会っても言葉は通じるものだと思っていたがそういうわけでもないらしい。


 そんなことより、男の後ろに立っている三人が武器らしきものを構えているのが気になって仕方ない。

 ワンミスでブスッとやられる、そんな状況だ。


「あの、どちら様ですか?」


 とりあえず俺は、きわめて友好的に気を付けて、銛を地面に置いて両手を挙げた。抵抗の意思はない。通じるのかは、知らんけど。


「!!? !!?」


 男たち(男が二人と女が二人、に見える)には、やはり言葉が通じていないようだ。


 すると男が手を前に出して何かを言った。俺はそれを「動くな」と解釈した。


 うーん、どうしよう。このまま無抵抗でいていきなりぐさっとやられる可能性がないわけでもないが…

 いかんせん多勢に無勢、向こうは軍人(仮)が四人、こっちは丸腰の原始人。抵抗しても勝てる気がしない。



 男にけん制されている間に、連中の一人が俺の後ろに回り込んで近づいてきた。怖すぎるが、一応武器は俺から見えるところに置いてきてくれたようなのでとりあえず敵意はないと考えていいんだろうか。


 こっちもあっちも緊張で脂汗だらだらなのがなんか面白くなってきた。


 後ろに回り込んできた男が、俺の後頭部の髪をかき分けて何か確認している。

 そこに何があるというのか。いや、何かあることはわかっている。寝るときたまにゴリゴリあたって痛いし。


 俺の後頭部にはなんかピーナッツぐらいの固いコブみたいなのがあるんだが、いかんせん全く見えない部分なので何がついているのかは把握していない。


「◇◇……」


 後頭部を確認した男が何かを告げると、残りの三人は露骨にほっとした様子で武器を下した。


「誤解が解けてよかったです」


 いや、誤解してるかどうかもわからんのだが。どうせこっちが言うことも通じていない。


「とりあえずお茶でも出しましょうか」

「▽△……?」


 後ろをちらちら振り返りながら四人がついてくるのを確認しつつ、境界領域から第ニ拠点に戻る。

 なんか思ったよりあちらさんの文明レベルが高そうなので、あからさまにボロい第一拠点には案内する気にならなかった。

 第二拠点なら、そう、自信作の手押しポンプ付き井戸がある。


 拠点につくと、さっそくポンプで水を汲んで湯を沸かす。手押しポンプで水を汲む時、おおっ、と驚いたような声が聞こえたがあくまでも俺はクールを装って水を汲み続けた。

 背を向けているから四人には見えないだろうが、そしておれも確認できないがきっと渾身のドヤ顔をしていることだろう。


 石を削り出して作った瓶をかまどに乗せて、薪を放り込んで火をつける。この辺りはギリギリ魔法が使えないところなので、火打石だ。最近は魔法で作った火種を境界領域から運び込むことが多かったんで久しぶりに使ったがなかなか火がつかない。


 焦っていると、男がすっと何かを差し出してきた。なんかすごい見覚えがある。鉄の棒にトリガーのようなものがついていて、鎖で石がぶら下がっている。あれ、これってもしかして?


 男がトリガーのところをカチャカチャやると、予想通りぽっ、と火が出た。

 やっぱりこれ、ライターだ。地球のライターと違うのは、どうやらガスを燃やしているわけではないらしいところ。だって火が出ている鉄の棒は穴が開いていない。


 なんか興奮してきた。もしかして魔道具って奴だろうか。そんな俺のはしゃぐ様子に気をよくしたのか、どうやらこの道具は貰っていいらしい。助かる。


 しばらく無言で五人向き合っていたが、お湯が沸いたのでお茶をふるまう。


 器は練習で作ったものがいっぱいあるのでその中から自信作を4つ用意した。

 寿司屋にあるような湯飲みを意識して大理石っぽいものを削り出して作った見た目だけは高級そうな湯飲みである。


「粗茶ですが…」


 いきなり怪しい人にふるまわれたお茶を飲む人などいるはずがないので、まずは自分で飲んで見せる。

 うん、前世のものとは比べ物にならないほど不味いが、飲めないもんじゃない。この四年で厳選に厳選を重ねた茶葉だが、マジで粗茶だ。茶を名乗るのもおこがましいレベル。


 それを見て、リーダーと思われる男がおっかなびっくりお茶を飲んでくれた。すごい顔してやがる。まあ気持ちはわかる。

 残りの三人も張り付けたような笑顔でお茶を飲んだ。一口だけな。


「〇△…△◇…」


 少しの相談の後、リーダー風の男がカバンから何か取り出した。いや、いっぱい出てきた。

 見た感じウェストポーチぐらいの大きさのカバンから紙に包まれたサンドイッチ的なものがいっぱい出てきた。


「マジックバッグですかぁ!!?」


 俄然テンション上がってきた。

 さすがは魔法世界。物流はチートレベルだ。こっち方面では知識チートは無理っぽい。まあ、物流に関する知識なんぞハナから持ち合わせちゃいないんだが。


 いただけるようなので遠慮なくパクつく。うめぇ。四年ぶりのまともな料理だ。ありがてぇ。ありがてぇ。



 その後、四人といろいろしゃべてみたが、結局何一つ意思疎通することはできなかった。

 三人は一旦帰還するようだが、一人は残って俺に言葉を教えてくれるらしい。

 いや、全然わからないがそう解釈するしかない。


 これからどうなるかは全くわからないが、まずは言葉をしっかり覚えよう。


 それから、俺の異世界知識チートが始まるんだ。

 俺はワクワクしながら帰還する三人を見送った。

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