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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
カルムクラインの生き残り
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実力確認



リディオノーレは食事を終えると執務室に戻ってきた。


「口に合ったか?」

グレイザックも食事をしている最中だった。


「お食事中、申し訳ありませんっ!」

彼女は部屋を出て行こうとする。


「良い。それよりここの食事は口に合ったか?」

「はい。久しぶりのまともな食事でしたので美味しかったです」

彼女は嬉しそうに答える。


「そうか。食事は保証すると言ったからな。歳の割に痩せてるから体力もつけねばならん。いっぱい食べろ」

口調は偉そうなのだが、とても気を遣ってくれている。


「俺が食事を終えたら、お前の勉強を見る。だからそれまでに残りの書類をやっておけ」

「かしこまりました」


彼女は返事すると残りの書類に取り掛かる。

何とかグレイザックが食事を終えるまでに終わらせることができた。


「サムエル、リディオノーレの書類を確認し、残り全てを仕分けし、怪しい書類は領主に説明してきてくれ」

「かしこまりました」

サムエルはグレイザックの食器を下げるため、一度部屋を出る。


「よし、勉強に移る。お前が計算ができるのは分かった。他にどれくらいの知識があるか確認したい。この用紙を仕上げろ。時間はいくらかかっても良い」

グレイザックは何枚も用紙を渡す。


「かしこまりました。不明な問題は無解答でも大丈夫ですか?」

「構わん」


彼女は早速取り掛かる。


まずは基本文の問題だ。

自己紹介なような用紙になっている。

好きな食べ物、好きなこと、嫌いなもの、得意なこと、などなどたくさんの質問がある。

こういう事態に陥ったときお前はどうするのか、といった質問もある。


次の用紙は、歴史のようだ。

今の王の名前や隣国の名前など簡単な問題もあれば、政変や法律関係も出題されている。


次の用紙を見てみると、天馬の問題だった。

これはあまり知識がないので解けるか不安になる。


あと最後は、呪文の問題だった。

呪文の本も読んだことはあるが、自信はない。

なんせ、杖がないので魔法が行使できないのだから。


彼女はひたすら解いた。

またもや周囲の音を遮断し、集中して机に向かう。


どれくらいたっただろうか。

解き終えると、日が沈みかけていた。


「……え」

あまりにも時間が経っていることに彼女は驚く。

顔を上げると、グレイザックとサムエルがお茶をゆっくり飲んでいた。


「終わりましたか?」

サムエルが問いかける。


「あ、はい!すいません、こんな時間までかかってしまい……」

彼女は謝りながら、用紙を渡す。


「受け取った。もう夕食の時間だ。食事にしよう」

グレイザックはそう言って、サムエルに指示を出す。


サムエルはぱぱっと3人分の食事を用意する。

彼女も慌てて手伝おうとするが、グレイザックに遮られた。


「初日だ。甘えておけ。今日はよくやった」

グレイザックはそう褒める。


その言葉に彼女は頬を緩める。

食事を3人でしながら、グレイザックは彼女が解いていた用紙に目を通す。


「……ふむ。読書が好きか」

「はい!!」

彼女は嬉しそうに返事する。


「何か好きな本があるのか?」

「特にこれと言ったのはないんですが、新しい知識をもらえる書物は興味深くて大好きです」


「ふむ。まあ、ところどころ甘い所があるがマシだな」

グレイザックは興味深そうに用紙を見ている。


「歴史も好きなのか?」

「好きというほどでもないのですが……本を読むといろんな情報が入ってくるので必然的にただ、知っているだけ…です」


「にしてはよく覚えているな。……天馬に関してはそこまでか」

「……そうですね…。ここ一年貧乏領地だったので切り詰めた結果、天馬も手放したので…」

彼女は俯く。


「ムナグレークがいるから大丈夫だ。天馬と使役獣に関してはあいつの右に出る奴はいない」

キッパリハッキリとグレイザックは述べた。


「……まあ、少し変わってるがな」

こほん、と咳払いして話題を変える。


「お前、本当に魔法が好きだな」

呪文の問題用紙を見ながら驚くグレイザック。


「読んだだけでこれだけ覚えてるのか」

「覚えてるだけですよ。杖も持ってないし、使えません。意味がないです」


「いや、教える手間が省けるだろう?」

グレイザックはにやりと笑う。


「ふむ。前倒しで杖をやってもよさそうだな」

まさかの言葉に彼女は目を輝かす。


「本当ですか!?」

「ああ。ただ、杖はすぐつくれるものではない。お前の魔力量を見極めたのち、それに耐えれる素材を見つけ、調合し、加工する。軽く見積もっても1年は先だな」


がっくり、と項垂れるリディオノーレ。


「予想以上の出来だ。少し厳しめでいっても良いかもな」

グレイザックはちらりと彼女を見る。


「え!?今日かなりの量の書類しましたよ!?結構厳しいと思うんですけど……」

思わず言い返したが、最後は尻込みしてしまう。


「え?あれでか?後々、領主側近の仕事をさせるつもりだぞ」

「ええええっ!!!」

「俺だって忙しいからな。卒業して義兄上の仕事を半分以上は請け負っている。義兄上の代わりに宴に出たりすることも増えるからな。そんな時、お前が俺の仕事を代わりにするんだ」


(き、聞いてなーーーい!)

彼女は心中で声を上げる。

何でもすると契約した手前、反抗できない。


「大丈夫だ。お前ならできる」

意地悪くニヤリと笑うグレイザック。


でも、信用されてる分は嬉しい。


「食べたら湯浴みをしてこい。サムエル、一応案内して中の使い方を教えてやれ」

「かしこまりました」

「今日はもう休んでよい」

「え、でもまだ日が沈んだところですよ?まだ手伝えます」

「良い」


彼女が不満そうな顔をしていたのであろう。

サムエルは口を挟む。


「リディオノーレ、行きますよ」

サムエルに連れられ、彼女はグレイザックの部屋を出た。


「……リディオノーレ」

部屋を離れてから、サムエルは声をかける。


「はい。何でしょう?」

「あなたから見てグレイザック様はどんな方ですか?」


うーーーん、と考えこむ。


「とりあえず仕事人間でとても優秀な方ですよね!あの量の書類を捌いてるなんて人間じゃないです!」

その言葉にサムエルはくす、と笑ってしまう。


「あ、サムエル様も仕分けすごいです!あんなに早く仕分けできるなんて羨ましいです!あの量の書類は私1人だと1週間かかります……」

カルムクライン領での執務を思い出した。

遠い目をする。


「あんなにたくさんの計算書類を捌いたのは今日初めてでした。見張られてると思うと案外できるもんですね」

リディオノーレはうんうん、と頷く。


(あの量の計算をあの短時間でできる者はいないのですがね…)

サムエルは心中で突っ込む。

彼女の集中力はすごいものだった。

何回話しかけても声が届かなかったので、昼の鐘が鳴るまでグレイザックと共にだんまりを決めこんだのだ。


「あと、グレイザック様は厳しいのか優しいのか分かりません」

彼女は少し不満げな顔をする。


「でも、恐らくものすごく優しいんですよね」

「……どうしてですか?」

サムエルは尋ねる。


「先程手伝いを申し出たとき突き放されたので、少し落胆したんです。実力不足だったのかな、と。でも考えてみると初日だからゆっくり休めるようにしてくれたのかもしれません」

その言葉にサムエルは少し嬉しそうな顔をする。


「でも!ですよ!初日であの量は厳しいです!でも……優しい方だと思います」

その言葉にサムエルは立ち止まり、彼女の頭に手を置いた。


「?」

彼女も立ち止まり、不思議そうにサムエルを見上げた。

彼女の頭の位置はサムエルのお腹くらいだ。

サムエルは案外長身である。


サムエルは何も言わず、彼女の頭を優しく撫でた。


「???」

彼女はハテナが増える。


「さあ、行きましょうか」

サムエルは何も言わなかったが、すごく喜んでいるのが分かった。


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