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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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カルムクラインの者としての礼



ラルシャーク領での会食は、見たことのない料理がたくさん並んでいて、リディオノーレは目を輝かせた。

しかも立食形式ではなく長机での食事だ。

お喋りしながら話をする感じでそこまで堅苦しくなくて、リディオノーレは肩の力が抜けるのを感じた。


先にお互いが軽く自己紹介をし、全員が軽く食事に手をつけ、程よいところでグレイザックが口を開いた。


「では、報告を」

グレイザックの一言で空気が張り詰める。

一瞬にして空気が変わったので、リディオノーレは思わず顔が強張った。

ラルシャーク領の者は一斉に手を止める。

ふんわりした空気がなくなったので、リディオノーレは一瞬顔をしかめた。


念話の魔術具を初めから持たされていたアインズビルの4人は、その道具を握って心の中で会話をする。


グレイザックは表情を変えず、報告書を隅々まで読み漁る。


『世間話でもして、間をつなげ』

グレイザックは念話で命じる。

『……私ですか』

リディオノーレは聞き返す。

完全に彼女しか、その役をできる者がいない。

リディオノーレは少しだけ息を吐くと、領主に向かって微笑んだ。


「私、ラルシャーク領は初めてなんです。このお料理も見たことがないものばかりでとても新鮮です。良ければ色々とお伺いしたいのですが」

リディオノーレの笑顔に領主も少し表情が緩んだ。


「お口に合ったようで何よりです。ラルシャークではそちらにある料理が特産なのです。因みに魔獣になった獅子の肉です」

その説明にリディオノーレは目を瞬いた。

「そうなんですか!?美味しいです!」

「良かったです。お土産にいくつか持たせましょう。リディオノーレ様は他に何か興味があることがございますか?」

領主が尋ねる。柔和な雰囲気の領主なので、とても話しやすい。

リディオノーレの中ではかなり好印象である。


「ラルシャーク特産の素材を収集できたりしますか?」

リディオノーレはここぞとばかりに聞いてみた。

すると、左隣にいるグレイザックに無言で膝をはたかれた。


グレイザックは報告書を読み終えるとリディオノーレに渡す。

その行動にラルシャーク領の面々は驚いた様子を見せたが、グレイザックは気にしない。


『お前も確認しておけ』

念話で命じられると、リディオノーレは仕方なく目を通し始める。

そんな彼女の代わりにグレイザックが口を開く。


「リディオノーレは素材収集が好きなのです」

グレイザックは少し呆れたように話す。

『師匠の方が好きじゃないですか』

リディオノーレは思わず念話で突っ込んだ。

その突っ込みに右隣に座るムナグレークが彼女の膝をはたいた。


「入学までまだ先ですよね?調合とかもされるということですか?」

領主は驚いたように尋ねる。

まだそんなことで驚く人がいるとは新鮮である。


「私の弟子なので」

グレイザックはにこやかに答えた。

「………グレイザック様に見込まれるだけの実力があるというわけですね」

領主はまだ少し信じられない顔をしている。

「前もって知らせた通り、最終日の出立前に天馬合戦をしたいのですが、それは構いませんか?」

グレイザックは尋ねる。

その質問には、グレイザックとは対角線に座っていた騎士の正装をしている男性が答えた。


「構いません。詳細を今決めておきますか?」

アインズビル騎士団長と同年齢くらいに見える男性だ。

「ええ。決めておきましょう」

グレイザックは微笑む。

完全に企んでいる。


「こちらは我々4人で戦います。そちらの人数は15人までなら許容範囲です」

『4対15って………』

バルデミアンが思わず念話で突っ込んだ。

ラルシャーク領も驚いたのか、ざわざわとする。


「確かにグレイザック様とムナグレーク様とそちらの騎士様を相手するのでしたら、その人数でいかせてもらいます。……ですが、入学前の子どもを連れての合戦となると、かなり、難しい、のでは?」

ラルシャークの騎士が、恐らくこの席に呼ばれているのだから団長だと思われるのだが、その男性がチラチラとリディオノーレを見ながら言葉を紡ぐ。


普通に考えたらそうだろう。

その言葉にリディオノーレは心中で同意する。


「ご心配でしたら20人でも構いません。こちらはかなり厳しくなりますが」

グレイザックは煽る。

バルデミアンは『頼むからそれ以上はやめてください…』と弱気で念話を飛ばす。


そんな言葉は丸無視で、グレイザックはにこりと微笑んだ。


「私の弟子ですからね。但し、攻撃魔法は無しでお願いします。攻撃魔法でなければいくらでも使ってもらって構いません」

ここまでグレイザックに言われたらラルシャーク領も引けない。

「……分かりました。こちらは15人でお願いします。ご指導お願い致します、百戦錬磨の合戦王、グレイザック様」

団長と思われる男性が承諾した。


『何ですか、その名前』

リディオノーレは念話で突っ込む。

なかなかに面白い二つ名である。

『……黙ってろ。……お前、報告書は読んだのか』

グレイザックに少し睨まれ、リディオノーレは報告書を返した。

『読みましたよ。変な箇所はなかったと思います』

その答えを聞いて、グレイザックは頷いた。


「では、最終日までにこの報告書通りか確認するため、案内をつけて欲しいのですが」

「かしこまりました。私と息子が案内をします」


お互いの予定を確認し合うと、あとは世間話に花を咲かせ、あっという間にお開きになった。

リディオノーレはひたすら食事にありつき、満腹で睡魔が凄かった。


睡魔と格闘しながら部屋に戻ると、リディオノーレは早々に寝台に潜り込み、眠りについた。


「夜だけ結界を張っておくから、寝ていいぞ」

グレイザックは扉の外で護衛をしようとしていたバルデミアンに声をかける。

「……助かります」

バルデミアンは少し目を瞬きながら答えた。


普通なら有り得ないからだ。

寝ている間も護衛しないといけないのは当たり前であるが、護衛騎士よりはグレイザックの結界の方が遥かに強固であることには違いない。

だから、この最小人数で動けるのだ。


「グレーク、バルデミアン、自分の身は自分で守れよ」

グレイザックは部屋へと入る2人に向かってそう言った。

「ええ、分かっております」

ムナグレークはそう答えて部屋に入って行った。






そして、翌日からは報告書の通りか城内や城下を周り、視察をする。

リディオノーレ1人だけウキウキしながらついていく。


『グレーク、バルデ、しっかり見張ってろよ』

グレイザックは後ろを歩く2人に念話で話しかける。

急にバルデ、と呼ばれた本人はかなり驚く。

口には出さないが目を見張っていた。

だが、嬉しそうに少し表情を崩した。


そんな様子を見て、リディオノーレとムナグレークは自分のことのように嬉しくなる。


色々見て回ったグレイザックは納得したように言葉を発した。

「………昨年と変わりなく問題ないですね」

「増えた領地も大分落ち着きました」

領主はそう答えた。


「そのようですね。………リディオノーレ」

グレイザックは、あちこちキョロキョロと目移りしながら上機嫌なリディオノーレを呼ぶ。


「はい、何でしょう」

リディオノーレはグレイザックの隣に並ぶ。

「カルムクライン領を請け負ってくれた礼を」

「………」

リディオノーレは楽しげな表情をやめて引き締め、跪いた。


その行動に領主と、同行していた領主子息が慌てる。


「旧カルムクライン領主の姪であるリディルレーネ・リンド・カルムクラインは、急な粛清により生じた余波でラルシャーク領にご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げると共に、深く感謝しております。礼が遅くなってしまい大変申し訳ございません。今後とも、旧カルムクライン領とその領民たちのことをよろしくお願い申し上げます」

リディオノーレは低頭した。


「い、いや、そんな、当然のことをしたまでで」

領主はオロオロする。

「私からも感謝を」

立ったままだが、グレイザックも少し頭を下げた。

その行動に領主と子息はもっと動揺し、おかしい動きをし始める。


「……ぷ」

リディオノーレは思わず吹き出してしまい、そろそろ可哀想だと思って立ち上がった。


「これからもよろしくお願い致します」

リディオノーレはにこりと微笑んだ。

「……こちらこそ、よろしくお願い申し上げます」

領主は少し緊張しつつも微笑み返してくれた。


「私も、仲良くしていただけるとありがたいです」

領主子息がズイ、と前に出た。

確か年齢は20歳前後だった気がする。

リディオノーレは「こちらこそ」と微笑むが、柔和な領主とは対照的に少し図々しめな所が見受けられた。


『近付くな。お前の相手ではない』

グレイザックが念話で怖い声を飛ばす。

『……知ってます』

リディオノーレは少し呆れたように返した。


「天馬合戦に私も参加させてもらえるように頼みました。是非、お手合わせお願い致します」

領主子息は微笑む。

「こちらこそよろしくお願い致します。きちんと対策してきてくださいね」

リディオノーレは微笑んだ。

会食の騎士団長の様子から見て、リディオノーレのことを侮っていることは間違いない。

完全に勝機である。


『勝てそうですね』

バルデミアンが呟く。

『間違いなく』

ムナグレークが唇の端を少し上げた。

『当たり前だろう』

グレイザックはにこやかに領主親子に微笑んでいる。

『ぎゃふん、と言わせましょう』

リディオノーレも微笑みながらそう言った。


『今日日、誰がぎゃふんなんて言うんだ』

グレイザックが変なところを突っ込んできた。

『それを言うなら、今日日も誰も言いませんよ』

リディオノーレが言い返す。

『……お2人共に論点が違います』

ムナグレークが冷静に口を挟む。

『………』

師弟2人は少し黙りこんだ。


『師匠、こてんぱんにやってやりましょう』

『……そうだな』

師弟2人はムナグレークを少し睨むと決意を口にした。




アインズビルの4人は部屋に戻りながら、天馬合戦の作戦会議を行う。


「前衛はバルデミアン様でしょ」

リディオノーレは言う。

「やっぱり、そうですよね……」

バルデミアンが呟く。

「え、嫌ですか?嫌ならムナグレーク様になりますけど」

リディオノーレはムナグレークに話を振る。


「え?私ですか?」

ムナグレークが驚いたように目を見張る。

「私はそこまで剣に覚えがありませんから無理ですね」

ムナグレークが微笑む。

「バルデミアンが取りこぼした奴を相手するくらいなら出来ますが」

「そのグレーク様も取りこぼした奴を相手するのなら、私も出来ますよ」

リディオノーレも微笑んだ。


「………分かりました。出来るだけ足止めさせればいいんですね」

バルデミアンは何だかんだで了承してくれる。あまり反論もしないのがありがたい。


「私は魔法で、グレーク様は剣で後ろから加勢しますので大丈夫ですよ」

「………」

バルデミアンはちらりと彼女を見て、ため息をついた。

「リディが何の術をするのか分からないのが心配なのです。痺れ薬を撒き散らして、1対大勢を相手している私にかからないようにできますか?」

「………」

リディオノーレは無言になった。

彼女は助けを求めるようにグレイザックを見上げた。


「……俺が何やら術を展開して、バルデに被害がいかないようにすればいいんだな。………いや」

グレイザックは何か思いついたようでにやりとした。

「な、何ですか」

嫌な予感がしたリディオノーレは思わず尋ねる。

「ちょうど、魔力の調整の練習をしていたところだろう?練習がてらそれも考えてやってみろ」



「そんな殺生な!!!

リディオノーレは思わず叫んだ。


その叫びに「そんな言葉も今時言いませんよ…」とムナグレークが呟いた。




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