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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
カルムクラインの生き残り
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執務



サムエルは執務室の扉をノックする。

「グレイザック様、準備が終わりました」

「入ってくれ」


中から声が聞こえ、サムエルは扉を開ける。

執務室には書類仕事をしているグレイザックの姿があった。


サムエルはすぐさま仕分けらしき作業を始める。

リディオノーレは立ちすくむ。


書類仕事をいきなり任せられることはないだろう。

他領から越してきた者にいきなり自領の書類は見せないはずだ。


でも、何かしなければいけない。

(考えろ……)


「私ができる仕事はありますか?見てもよい内容の物があるならば私も手伝います」

彼女は恐る恐る口にした。


その言葉にグレイザックは手を動かしながらチラ、と彼女を見る。


「少し判断が遅いが、まだ許容範囲だな」

そう言うと1枚の書類を出す。

彼女は受け取る。


「お前がどこまで出来るか確認したい」

書類を確認すると収支計算書みたいだ。


「そこの机を使え」

グレイザックは顎でしゃくる。


彼女はすぐさま机に座り、書類に向かう。

収支計算は元々カルムクラインでもしていた。


彼女はポケットからメモ帳を取り出し、そちらに計算式を書く。計算ミスが無いように確認しながら1枚の書類を仕上げた。

3回は確認した。


彼女は恐る恐る書類を差し出す。

「できました」


「サムエル、確認を」

サムエルが彼女の書類を確認する。


「……大丈夫そうですね」

サムエルは確認すると、そう答えた。


「よろしい」

グレイザックは一度手を止め、顔を上げて彼女を見る。

彼女は思わず背筋を伸ばす。


「サムエル、計算書類を彼女に回せ。それをサムエルが確認せよ。あと計算用に白い用紙を渡してやれ」

「かしこまりました」

サムエルはすぐに動く。


「リディオノーレ、遅くても構わん。ミスがないように仕上げろ。分からないことがあれば必ず聞くように」

「かしこまりました」

返事すると、サムエルから書類と白紙を受け取る。


「昼食の時間に声をかける。サムエル、仕分けしたのち決裁の判が押してある書類を領主に」

「かしこまりました」

サムエルの動きが早くなった。


彼女に回された計算書類が意外と多い。

見ても良いのか不安になるが、渡してくれるということは大丈夫なのだろう。


(……っていうか、何枚あるの……っ)

軽く30枚はこえている。

計算してる内にまだサムエルから書類が足される。


(うへぇ…)

内心口をへの字に曲げながら、ひたすら計算しまくる。

カルムクラインとは比べ物にならないくらい書類が多い。


(これ、見てもいいの?)

視察結果の各領地の収支報告書がある。

ちら、とグレイザックを見てみたが、気にもしてなさそうだ。


「ぐ、グレイザック様!」

意を決して声をかける。


「何だ?」

書類から顔を上げず、彼は問いかける。


「各領地の収支報告書は私が見ても良いのですか?」

確認しといた方がいい。


「ああ、構わん」

呆気なくそう答えてくる。


「な、何故、ですか?」

「お前が見たところで悪用できないだろう?」

「…なるほど」

確かに、と彼女は頷く。


「この書類を見るのは俺とサムエルとお前と領主だけだ。悪用されたら確実に誰が犯人か分かる」

その通りだ。

心配するだけ無駄だったようだ。


ほっ、と安心する。


「それより手を動かせ。昼の鐘が鳴れば昼食だ。それまでに終わらせろ」

ぶっ飛んだ要求にリディオノーレは目を剥く。


彼女はもうそれから何も質問せず、ひたすら計算しまくった。






昼の鐘が鳴った。


彼女は周囲の音を遮断し、ひたすら計算書類に向き合っていた。

鐘の音で、は!とする。


(あと、3枚っ!!!)

慌てて速度を上げる。


「リディオノーレ」


「リディオノーレ!」


「リディオノーレ!!!」


計算していた用紙を奪われた。


「!!!も、申し訳ありません!!!」

彼女は謝る。


「集中しすぎだ。声が聞こえなかったのか?」

「……はい、申し訳ありません。集中すると周囲の雑音を遮断してしまいます……」

彼女は項垂れる。


「昼の鐘が鳴った。食事にしろ」

「え、でも、まだ3枚残っております…」

「良い。それはそれでお前の実力だということだ。受け止めろ。自分の実力も見極めながら仕事せねばならん。安請け合いをしないようにそういうのも考えれるようになると良い」


グレイザックはそう助言する。


「ご指導ありがとうございます」

「昼食をお前の部屋に用意している。食べてくるがいい。食器は厨房に返すように。それが終われば、またここに来い」

「かしこまりました」


リディオノーレは自室に向かった。


彼女の気配が完全に消えたのち、サムエルは彼女がやり終えた書類をグレイザックに渡す。


「……完璧ですね」

サムエルは暗算しながらグレイザックと書類を確認する。


「ふむ」

グレイザックは満足そうににやりと笑った。


「ちょっとは俺の仕事が減りそうだな」

「そうですね。これは、かなり、助かります」

サムエルも嬉しそうだ。


視察終了後のこの時期は、収支報告が合ってるのか、横領など変な金の流れは無いか、など必ず計算し直す。

大抵は合っているのだが、たまに合わないときがある。

計算が合わない書類があれば、メモを挟み、彼女はちゃんと指摘している。


流石、領主まがいのことをしていただけはある。


「この時期にこれだけ計算書類をやってくれるのは有り難い。午後から勉強を見てやるつもりだったが、書類仕事が片付いてからでも良さそうだ。こいつの計算書類が終わったのち勉強を始める。サムエル、食事を頼む」


「かしこまりました」

サムエルは微笑むと食事の準備を始めた。


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