表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
カルムクラインの生き残り
7/912

アインズビル城に到着




「リディオノーレ、着くぞ」

その言葉に、は!と飛び起きる。

どうやら寝てしまっていたようだ。


「お見苦しいところをお見せして申し訳ありません…」

彼女は謝罪する。


「良い。もうすぐ戦場だ。しっかり励め」

グレイザックは見つめる。

言葉の選び方が面白い。


「ありがとうございます」

彼女はそう答え、窓から下を覗いた。





サムエルの惚れ惚れする手綱捌きでアインズビル城に到着する。

本当に、ふわり、と降りるのだ。

音もなく。

揺れも殆どない。


この手綱捌きもゆくゆくは覚えないといけないだろう。


到着し、グレイザックが先に降りる。

彼女も彼に続いて降りる。


目の前にはカルムクライン領に視察に来ていたライリルムントがいた。

その横に女性、そして少女と少年がいる。

アインズビル領主家族だろう。


リディオノーレはすぐに跪き、感謝を述べる。

「リディオノーレでございます。グレイザック様の側近として働かせていただきます。どうぞよろしくお願い致します」


領主以外は値踏みするような雰囲気を醸し出していた。

接触したことのある領主だけは微笑む。


「よく来た、リディオノーレ。後見人であるグレイザックに恥だけはかかさぬように励め」

ライリルムントの言葉に彼女は低頭する。


「あの領地からでは遠かったであろう。とりあえずは休むがよい」

ライリルムントはそう述べる。


「義兄上、この娘の扱い方は私が決めます。甘さは不要です」

グレイザックは自称を〝私″と言う。

他人仕様なのだろう。


〝俺″としてしか話してなかったので少し違和感がある。


「サムエル、部屋を案内し、その後屋敷内を案内させ、後ほど私の執務室へ」

グレイザックはサムエルに命じる。


「かしこまりました。先に天馬車を戻して参ります。リディオノーレ、ついてきますか?」

サムエルは彼女に尋ねる。


「もちろんでございます。ご指導よろしくお願い致します」

彼女は笑顔で答え、サムエルの後をついていく。


御者台にサムエルは上がり、天馬車の手綱を握りながらゆっくり進む。

リディオノーレは天馬の横について歩く。

荷物があるので頑張って早足で歩く。


「天馬の小屋はこちらです。ゆくゆくはこれも任せますので、今日は場所だけはしっかり覚えておいてください」

サムエルはそう言って案内してくれる。


「小屋番のムナグレークです。隣には使役獣の小屋もございます。どちらも管理しているのがこちらのムナグレークです」

サムエルは紹介してくれた。


ムナグレークは人懐こい笑みを浮かべる。

「ムナグレークです。小屋を任されております」

茶髪で彼女よりはいくらか年上に見えた。

グレイザックと同い年くらいだろうか。


彼女は微笑み返す。

「この度、グレイザック様が後見につくことになりましたリディオノーレと申します。ご指導のほどよろしくお願いいたします」


すると、彼はにこにことした顔で話を続ける。


「グレイザック様が後見人なんですよね!聞きました!聞きました!」

何故か分からないが興奮している。


「あのグレイザック様が後見につくとは、あなたは一体何をしたんですか」

彼のテンションに彼女は思わず引いてしまう。


「何をした……とは?」

聞き返す。

没落する家から救ってもらったのだ。

と、バカ正直には言えない。


「グレイザック様に引き取られるということは、あの方があなたに何か興味をもたれたということですからね!」

目がキラキラしている。


「ムナグレーク、彼女が引いています」

サムエルが間に入る。


「リディオノーレ、あまり気にせず。彼はグレイザック様の同級生なのです。あまりにもグレイザック様を信奉していて、ほぼ狂信者です」


サムエルのその紹介に彼女はくす、と笑ってしまう。


「まだグレイザック様のことはあまり知らないのですが、とても優秀な方なのですよね?私はまだ学院に通っていないので詳しい噂までは知りませんが」


「まだ通っていないのにあなたはグレイザック様に見初められたわけですね!」

ムナグレークの興奮は収まらない。


「あなたを引き取るにあたってグレイザック様はあなたに何を要求されたのですか?」

「学院に通い始めたらずっと首席を取れ、と言われています」


「……なるほど、なるほど」

1人頷くムナグレーク。


「それでは、リディオノーレ様。グレイザック様の弟子として必ず首席をとってください。1つでも成績を落としたら私が許しません」

彼が急に真剣な顔になる。


「……それは百も承知です」

「それならばよろしい」

彼は嬉しそうにする。


「私がもっている知識を存分に与えましょう。学院で首席が取れるように天馬と使役獣に関してはいくらでもお教えしましょう」


「ありがとうございます」

彼女は頭を下げる。


「殊勝な態度がいいですね」

ムナグレークは本当に嬉しそうだ。


「ち、因みにムナグレーク様の姓はなんですか?」

学院の同級生ということは貴族だ。


「天馬合戦が得意な領地です」

彼はそうにこにこと答えてくれた。


(えーと……どこだったっけ……)


「まあどこでも良いではありませんか。リディオノーレ様、天馬と使役獣に関しては私に何でもお聞き下さいね」


ムナグレークは終始にこにこだった。


その後に部屋をたくさん紹介させられた。

カルムクライン城と比べると倍以上の広さを誇り、迷いそうになる。


とりあえず取り急ぎ覚える必要がある部屋をメモしたり、何となく城内の地図をかいたりしながら案内が終わった。


自室も教えてもらい、とりあえず荷物を置く。


「着替えをいくつかそちらの棚に入れていますので、お好きにお使いください」

「ありがとうございます!」


衣類が増えるなんて思ってなかったので、素直に嬉しい。

荷物を片付け、彼女は用意してくれている服に袖を通すとすぐさま隣のサムエルの部屋を訪れた。



「では、グレイザック様のところに行きましょう」

サムエルに付いてグレイザックの執務室に向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ