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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
カルムクラインの生き残り

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32/912

訃報


色んなことがあったが、何とか落ち着き、日常を取り戻す。

杖を使う勉強はまだ少し先送りになったが、その代わり天馬と使役獣に関しては、ほぼほぼ完璧になったと言えるだろう。


天馬はもう乗りこなせるし、使役獣も動物によって対応変えるのを取得した。

これでいつでも使役獣さがしに行けるだろう。因みに中級生になれば、その授業があるらしい。

まだまだ先のことだが、今からとても楽しみである。


そして仕事と言えば、グレイザックについて街に出たりできるようになった。

それは天馬を乗りこなせるようになったのが大きい理由である。

アインズビルに移ってからというもの、城から出ていなかったので、視察と称して街に出かけられるのは息抜きになる。


だが、どうやらきな臭い噂が耳に入ってくるし、報告書も上がってくる。


グレイザックは淡々と仕事をこなしているが、彼女からすると苦痛な噂や報告書が多々ある。

でも何も言わない。言えない。


「……グレイザック様、いつ、休み取るんですか?」

仕上げた書類を渡しながらリディオノーレは尋ねた。

その書類にはカルムクラインという文字が見える。

だけど、何も聞かない。


グレイザックは書類をちらと見てから、彼女を見上げる。

「今日と明日仕事をし、翌日から3日休みを取る。これの情報収集や対応をお前に任せたい」

彼は書類を渡した。


彼女の魔力枯渇騒動からもうひと月経っているのだが、グレイザックは全く休みを取らなかった。

休みを促してもまた今度、とずっと言われていたのだ。なのに急に休みを取るというものだがら、少し驚く。


何枚かある書類を見てみると全てにカルムクラインという文字が見えた。

彼女は唇を引き結び、受け取る。


「分かりました。心配で手伝いに来たりしても駄目ですからね!」

からっと笑うとリディオノーレは席に着き、残りの仕事に取り掛かる。


グレイザックもサムエルも敢えて何も言わなかった。

リディオノーレは受け取ったカルムクラインの書類に詳しく目を通すのは後回しにした。


食事の時間になり、リディオノーレはグレイザックに1つお願いをした。

「グレイザック様、食事なんですが、自分の部屋で摂ってもいいですか?この書類もついでに持って行ってもいいですか」

彼女は真っ直ぐ見つめてそう述べた。


「……ああ。食事が終われば、帰って来いよ」

グレイザックは詳細を聞かず、許可を出した。




リディオノーレは食事とカルムクラインの書類を持って、自室にこもる。

机に食事を置き、手をつけることなく、書類を読みだした。


大体は支援金を打ち切られたことによる嘆願書などだ。これは完全に自業自得なので、知ったこっちゃない。


そして1枚。1枚の紙面に目が釘付けになる。

貴族が死んだら、必ず統括領地に報告がいく。

葬儀をしないといけないからだ。


各領地から代表者が参列する形をとる。


「…お兄様っ」

その紙面には実兄であるバイリムートの名が載っていた。

「……っ」

ずっと兄のことは考えないでいた。

グレイザックやサムエル達もカルムクラインのカの字も出さなかったし、兄の話題を出すこともしなかったし、なんてったって1番は仕事が忙しすぎて考える暇がなかったのもある。


たまに恋しくなったりもしたけど、色々本当に忙しかった。

無意識に考えないようにしていたのだ。


そして、本当に亡くなったんだと実感し、カルムクラインが没落する未来が現実となった。


今すぐにでも飛び出して、兄の顔を見に行きたい。

葬儀は明後日だ。

列席者の名前を書いて、返送しなければならない。


これはなかなか難題な書類を渡してきたな、とリディオノーレは半泣きになる。

でもこれを彼女に渡してきたということは、列席してもいいとのことだろう。


「……。意地悪なのか、優しいのか、分かんないですよ」

彼女はべそをかきながら書類にサインする。

泣くのは終わってからにしよう。


彼女は少し落ちてきた涙を拭い、食事に手をつけた。




グレイザックの執務室に戻ると、2人はリディオノーレを真っ直ぐ見つめていた。

「書類確認しました」

彼女はグレイザックに渡す。


その書類を確認し、グレイザックは唇の端を上げた。

彼女が何も言わないので、グレイザックは何事もなかったように指示を出す。


「ムナグレークを一緒に連れて行け」

「分かりました」

全ての感情を抑えこんだような声色だった。


グレイザックは片眉を上げるだけにとどめ、続きを言う。

「カルムクラインまでは上手く行けば天馬初心者でも1日で着くがそれは葬儀当日しんどいだろう。だから明日朝一で出ていいぞ。天馬車で行け。2人で交代しながら手綱を引くように。食事と睡眠はきちんととるように」


「分かりました。お気遣い頂き、ありがとうございます。ムナグレーク様に伝えてきます」

返事を聞かず、リディオノーレは頭を下げて、執務室を飛び出した。

グレイザックの顔を見ていると涙が出そうになったのだ。



ぱたぱたと早足で去っていく音が遠ざかり、サムエルはグレイザックを見つめる。

「……大丈夫ですかね」

「………」

グレイザックは答えられない。

でもこればかりはどうしようもない。


今グレイザックが城を離れて、リディオノーレと共に参列することはできない。

最近街に出たり、情報収集しているとカルムクラインの噂ばかり聞く。

グレイザックは着実に粛清の準備をしていた。

彼女自身にも何となく粛清のことを流している。


カルムクラインの情報を渡したり、一緒に街に繰り出して噂を聞かせたりと心の準備をさせているつもりだ。


そして、今回彼女の実兄が逝去した。

恐らく一気に事が動き出す。


「……ここが正念場だ。ここであいつの行く末が決まる」

グレイザックは真剣な顔で述べた。


「あいつは俺を信頼しているだろう。同様に、俺も、あいつを信頼している」

グレイザックは彼女が去って行った扉を見つめてそう言った。




全幅の信頼をグレイザックに寄せるなら、リディオノーレ自身も信頼に足る結果を見せつけろ。



「ここで結果が出せなければ、師弟関係は終わりだ。精霊師として公表する」

グレイザックも感情を消した声色だった。


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