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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
学院~下級生編~

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学院長との対話




翌日の朝食時、バルデミアンと合流したリディオノーレは皆が授業に行って閑散としたのち、学院長室に向かった。


「リディオノーレ・ネルク・オルネリアです」

扉を叩き、リディオノーレは名を名乗る。


すると、扉が独りでに開いた。


「わっ」

リディオノーレは驚きつつも、部屋に入る。

バルデミアンも入ったのち、扉はまた独りでに閉まった。


「久方ぶりですな」

真正面の大きい机の所に学院長はいた。

沢山の本棚と花があり、小動物達がうろうろしていた。


「わぁ!」

栗鼠や鳩、梟に兎など、たくさんの動物たちがリディオノーレに寄ってきた。

「ごほんっ」

バルデミアンが咳払いをする。


「!」

リディオノーレは我に返り、学院長を見た。


「お久しぶりでございます、学院長。急な訪問に関わらず、ありがとうございます」

彼女は頭を下げる。

すると、扉と同じように椅子が2脚独りでにリディオノーレ達の元に飛んできた。


彼女は目を瞬きながら、学院長を見た。


「座りなさい」

学院長に促され、リディオノーレ達は椅子に腰を下ろした。


「して、何用かな?」

「1つお聞きしたいことがあって来たのです」

「いいですよ。何でしょうか」


「あの、他の学年の授業を受けることは出来ないのでしょうか」

その質問に学院長は目を瞬き、口を開いた。

「早く終わらせたいのですか?」

「そうですね」

リディオノーレは答える。


バルデミアンはまさかの彼女の発言にかなり驚いていたが、表情に出さないように気を付けた。


「グレイザックはきちんと3年間、在籍していましたよ」

「………グレイザック様はそこまで領地に帰りたくなかったかもしれませんが、私はグレイザック様がいるアインズビルに少しでも早く帰りたいです」

リディオノーレはまっすぐ学院長を見つめた。


「ふむ……」

学院長は顎を撫でる。


「出来なくはないが…」

「でしたら、時々中級生の授業を覗いてもいいですか?終わらせることができる物は終わらせておきたいです」


「……………良いでしょう」

少し逡巡したのち、学院長は許可を出した。


「でも、私実験や研究で忙しいので、授業を覗けるのがいつになるかは分かりませんが」

「1番時間のあるこの下級生の間に実験などをすることをおすすめしておきます」

学院長はにこりと微笑む。


「勿論、そのつもりです。図書室の本を制覇するつもりでもいますし」

「それは、流石に無理かと」

学院長が苦笑しながら答えた。


「あ、因みに禁書庫に入れたりはしませんか?」

リディオノーレは微笑みながら尋ねる。


「それは無理ですね。相応の理由が無ければ、許可できません」

キッパリと断られる。

「やっぱりそうですよね」

リディオノーレは苦笑した。

駄目元だったので、仕方ない。


「他の学年の授業を覗く時は、事前に私に声をかけて下さいね」

学院長が言う。

「かしこまりました」

「勝手に覗かないように」

「はい」


リディオノーレは学院長室を後にすると、バルデミアンに質問された。


「直近の実験や研究の予定は何があるんですか?」

「杖の結合実験と回復薬の改良実験ですね。で、魔獣の起源を調べ終わったのですが、昨日も言った通り魔石に代わる何かを発見したいと思います」


「……分かりました」

内容については全くと言っていいほど、どうしたらいいのか分からないが、本人がやると言っているのだからやるのだろう。


「あと、禁書庫のことを聞いていたようですが?」

「はい。禁書庫に入るつもりではいます」

堂々と言うものだから、バルデミアンは目を瞬いた。


「えーと、許可を得て………?」

バルデミアンは彼女の顔を見る。

そして、これは違うなと口を噤んだ。


「禁書庫の構成は教えてもらったじゃないですか」

リディオノーレはにこりと微笑む。


アラウィリアに行った時にグレイザックと3人で禁書庫破りをしたことを思い出すバルデミアン。


「………あの魔法陣の解除が出来るのですか?」

バルデミアンは恐る恐る尋ねた。


「まだです」

リディオノーレの答えに、ホッと胸を撫で下ろすバルデミアン。


「でも解除できないことはないですよね?構成を知っているのに。それについての研究も並行してやります」

その言葉にバルデミアンはため息をつく。


完全にグレイザックの影響だ。しかも悪影響。


「で、他学年の授業を受けるというのは?」

突拍子もない発言に学院長室で思わず声を上げてしまいそうになったが、頑張って堪えたバルデミアンだ。


「少しでも卒院を早めるため、ですかね」

リディオノーレは微笑む。

「何故ですか」

「何故も何も、グレイザック様の企みを阻止するため、ですか」

彼女は苦い笑みを向ける。


「企みとは?」

「私は知りません。バルデミアン様は?」

リディオノーレがまっすぐ彼の顔を見つめる。

表情を少しでも見逃さないようにと。


「私も知りません」

バルデミアンは表情を変えずに答えた。

リディオノーレは少しの間彼を見つめた後、観念したように視線を外した。


「何かをしようとしてるのは知ってるんです。でもそれがどういう手段なのかはハッキリと分からないんです」

「ハッキリと分からないだけである程度は分かっているんですか?」

バルデミアンは尋ねる。


グレイザックは彼女の元を離れるつもりだと言っていた。

だが、もし生きていたら娶っても良いと。

生きていたら。


………不吉な言葉だが。


「そうですね……私が調合に集中しすぎて倒れた為に学院から帰ってきた後、サムエル様とグレーク様とバルデミアン様にお説教されたじゃないですか」

リディオノーレは話し始める。


「あの時、グレイザック様が私に尋ねたことを覚えてらっしゃいますか?」

そう言われ、バルデミアンは記憶を辿る。

そして、すぐさま彼女の腕を引っ張ってひと気のない所に連れて行く。


「ど、どうしたんですか」

リディオノーレは驚く。


連れてこられたのは、庭の樹々が生い茂る隅っこだった。

ここなら誰にも気付かれないだろう。


「……あの国の名前を出そうとしたでしょう?学院の廊下で。誰が聞いているか分からないですから、不用意に発言してはいけません」

バルデミアンは真剣な顔をして告げた。


「……すいません」

リディオノーレは謝った。


「ここなら構わないですので、話して下さい」

そう言われ、リディオノーレは一応周囲を確認したのち、口を開いた。


「あの時、グレイザック様が尋ねたことを覚えてますか?」

「ええ、覚えています。あの国を滅ぼすなら、リディならどうするか、という問いですよね」

「そうです」

リディオノーレは頷く。


「そして、リディは潜入が1番いいと言っていましたよね?」

バルデミアンは確認する。

「はい。内側から攻めるのが1番かと。戦を仕掛けても負けるなら、戦の名分が無いのならば、潜入して暗殺するのが1番です」

リディオノーレは答えた。


「だから、もしかしたら、グレイザック様はその気なのではないかと思っています」

リディオノーレは唇を引き結び、答えた。


「………なるほど」

バルデミアンは息を吐く。

彼もグレイザックの計画は知らない。

でも、その計画を立てているのであれば、グレイザックが彼女の元から離れるつもりだという言葉に納得がいく。


「1つ、聞いてもいいですか?」

バルデミアンは尋ねる。

「はい。何でしょう」


「リディの計画は?」

「………グレイザック様に言っちゃうでしょう?」

リディオノーレは苦い顔をして問うた。


「命令であれば、ここだけの話にしておきます。命令がなければ、話してしまうかもしれません。私の主はリディですから」

バルデミアンが答えた。


その言葉を聞いて、彼女は少し逡巡したのち、口を開いた。


「では命令です。今から私が話すことを言わないでいてもらえますか。いえ、言わないでください」

リディオノーレは言い直した。




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