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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
カルムクラインの生き残り

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夜更けの報告


消灯の鐘が鳴り響き、就寝の時間となる。

リディオノーレはいそいそと布団の中にもぐりこむ。


カルムクラインに居たときより断然良質な布団だった。

頭は冴えているのだが、体は疲れているらしい。

寝転ぶと起きようとさえ思わなくなった。


書類仕事や問題を解くのは疲れたけど、なんだかんだ楽しかった気がする。

頑張って仕事覚えよう。

明日は早く起きて洗濯しないと。

などと、思って眠りについた。





夜更けにグレイザックはサムエルとライリルムントとその夫人シャイリーネと飲んでいた。


「ジャンドバルトとシャーリネーヴェはどんな様子ですか」

グレイザックは尋ねる。


「ジャンドバルトは警戒しているな」

ライリルムントは酒をあおるとそう答える。


「そうですね。まだ特に聞いてはいませんが、グレイザックが連れてきた者が想像していた感じと違ったのではありませんか」

シャイリーネが述べる。


薄い水色の髪がすごく綺麗で艶やかだ。

貴婦人らしい上品な飲み方でお酒を楽しんでいる。


「シャーリーは恐らく嫉妬していますね」

シャイリーネがくすくすと笑って言葉を続ける。


「…嫉妬?」

グレイザックは訝しげに尋ねる。


「誰に嫉妬しているのですか?」

「……本気で聞いているのか?」

ライリルムントははぁ、とため息をつく。


「まあ、良い。グレイには多分一生分からんだろう。サムエル、頼んだぞ」

ライリルムントは側近のサムエルに命じる。

「かしこまりました」


グレイザックは怪訝な顔をするが、話を続ける。


「当分は本館に行かぬようにするが、あいつの力量次第では色んな仕事を任せるようになる」

「……優秀なようですね」

シャイリーネがグレイザックを見つめる。


「……私には及びませんが」

グレイザックは答えた。


「ふむ。で、お前、リディオノーレからもらったカルムクラインの書類に関してはどうするつもりだ」

ライリルムントが尋ねる。


「………様子見ですね。横領の証拠としては充分ですが、それではぬるすぎますね。横流し先も一緒に潰してしまいたいです」

グレイザックは酒をあおる。


「それはそうだな。じゃあ、当分泳がせとかねばならんな」

「そうです」

「じゃあ、リディオノーレの兄はどうする?」

「それについても探っています」

グレイザックは答える。


「いつから伏せっているのか、どんな状態なのか、情報がリディオノーレからだけなので裏付けを取ったりしています。もう暫くかかるかと」

頬杖をつくグレイザック。


「1年以内には粛清をしたいでしょう?義兄上」

「……出来ればな。背後関係も全て暴きたい」


「でしょうとも。でもあまり尻尾を掴ませてくれないので難儀しそうです」

グレイザックは溜息をつく。


「無理してはなりませんよ、グレイザック」

シャイリーネが忠告する。


「分かっております、義姉上。慎重にします」

「……そういう意味で言ったのではないのですけど」

シャイリーネも溜息をつく。


「まだ卒業したばかりで城の執務等も本当はする必要がないのです。魔術学院の教師になりたかったのでしょう?」

「……そんなものはいつでもなれますよ」

酒をあおるグレイザック。


「グレイザックが補佐をしてくれて本当に助かっているのです。おかげでジャンドバルトの勉強も見てあげれますし」

「それならば良かったです」

グレイザックは微笑む。


ジャンドバルトは魔術学院中級生だ。

学院は寮生活なので、1週間ほど休暇を取って、アインズビルに帰ってきている。


リディオノーレが来ると知って、念の為顔合わせに帰ってきたらしい。

だが、グレイザックは当分は本館にお邪魔する気はないと言っているので今年はもう顔を合わせることはないだろう。


「あまり邪魔はせぬようにします。出来るだけ早くリディオノーレを使えるようにも頑張ります」

「詰め込みすぎても良くないですからね」

シャイリーネはそう言って席を立つ。


「時間も時間ですので私はお先に失礼しますね」

「ああ」

「お休みなさいませ、義姉上」

ライリルムントとグレイザックは返事する。


ライリルムントはグレイザックの盃に酒を注ぐ。

「ほら、飲め」


「カルムクラインはどうするつもりなのだ」

「……証拠が揃い次第、義兄上に許可を取り、王に申請します。カルムクライン領はなくなるでしょう」

グレイザックはそう述べた。


「あの娘の姓はどうする。学院に通うならば、必要だろう」

確かにそうだ。

姓が無ければ、平民と思われ蔑まれる。

魔力があれば平民でも学院に通えるが、貴族と平民の身分差は大きい。


「アインズビルは流石に名乗れないから俺の母方の姓で考えている」

「考えてるなら良い。お前、無理するなよ」

「無理はしたことないぞ」


「あの娘を養育するのは別に構わん。勉強を見てやるのも良い。だが、お前は執務もある。領主会議にはお前も出席だぞ?」

ライリルムントはまっすぐグレイザックを見つめる。


「無茶をするなよ。自分の体も大事にしろ」

「……過保護だな」

グレイザックはふ、と笑う。


「歳の離れた弟は可愛いんだぞ」

ライリルムントはからからと笑う。


「まあ、無茶だけはするな。シャイリーネも気にしていただろう。サムエル、子どもが1人増えて大変だろうが頼むぞ」

ライリルムントはサムエルに伝える。


サムエルはくすりと笑いながら返事した。


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