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ようこそ、恋愛研究部へ ④

「スーパーアドバイザー? 俺にそんな経験はないぞ」

「大丈夫。トラちゃんって、頭良さそうだから絶対出来るよ」

「俺の頭は良くないし、仮に良くても経験と知識は全く別だろ。出来るワケがない」

「ぶぅ〜。トラちゃんって、なんか生きてて楽しくなさそう!」



 一抹のショックは受けたが、これはこれで結果オーライだ。

 俺の目的はラブから解放される事なのだから、興味を尽かされて入部届にサインせず帰れるのならこれ以上の成果はない。



 さらば、ラブちゃん。フォーエバー。



「だから、絶対に恋した方がいいよ! コイケンに入ったらきっと出来るよ!」



 何なんだよ、こいつ。無敵じゃねえか……。



「はい、サインしてね。大丈夫、必ずあたしがトラちゃんの人生を楽しくしてあげるから」

「その言い方だと、変な意味に聞こえるな」

「もしかして、ドキドキした? なんか思い出したりした?」

「いや、あんまり」

「なんだ、つまんないの。絶対にどこかで会ってると思ったのに」



 俺の面にデジャヴを感じるのは、俺がどこにでもいるモブキャラだからだ。背景の顔なんて、使い回しばかりで差分も少ないだろうからな。



 しかし、ならばラブは背景までしっかり見るくらい人生を楽しんでるとも言えるだろう。こいつの明るさは底抜けだな。



「入ってよ〜。ね~」

「ん、ぐ……。ちょ、ちょっと。手を取らないでくれ、それに押し付けないでくれ」



 チクシヨウ、女の武器を惜しみなく使いやがって。もう少し恥じらえ、女子高生。



「あたしとトラちゃんの仲じゃんか〜。恋バナしたいよ〜」



 友達認定が早過ぎる、この女の世界のスピードはどうなっとるんだ。家から出たことのないブルジョワなトイプードルだって、もう少しくらい警戒心があるだろうさ。



「ね〜。一緒に部員集めしようよ〜。ゆっくりしてたら、お花見シーズンなんてあっという間に終わっちゃうんだよ〜?」

「わか、わ……っ。あぁ! わかったよ! 名前書く! 名前書くから離してくれ!」

「ほんと!? 嬉し〜!」



 パッと手を離してスーパーノヴァばりの笑顔を咲かせたラブは、ご丁寧に俺のペンの行く先をじっくりと眺めていた。



 そして、俺は頬杖を付きながら厭味ったらしくゆっくりと、入部届に自分の名前を書いてペンをデスクに置く。

 少しでも反骨精神でバリアを張らなければ、ラブの陽キャオーラに焦がされて体が溶けてしまうんじゃないかって錯覚しそうになったからだ。



 ……それでも、予定とは違ったがここにいる人物を助けるという目的は達成されるワケだ。名前を貸す分には構わないと思おう。



 せっかく、彼女が新しく作った部活の門出。お話好きのラブが仲間たちと恋バナを楽しめるように、それくらいの助力はしてやろう。



 何かに真剣に打ち込んでる頑張り屋さんが、俺は好きだからな。



「んふふ、ありがと。トラちゃん」

「どういたしまして。それじゃ、俺は帰るよ」

「うん、あたしはもう少し部員集めする。ばいばい」



 そして、俺はコイケンの部室から脱出することに成功した。気が付くと30分以上も時間が経っている。気分転換に、帰りは映画館にでもよって適当に時間を潰そう。



「トラ、どこ行ってたの? 急に消えて心配したんだから」



 文学部の前を通りかかると、小窓から俺が見えたのか少し遅れて夕が部室から飛び出してきた。相変わらず、ラブコメのヒロインみたいな物言いをする男だ。



 ラブコメを書きたいなら、自分のことをキャラにすればいいのに。そうすれば、読者人気も爆上がりだろうさ。



「悪い、監禁されてた。スマホも圏外だったんだ」

「えぇ!? どこで!? 誰に!?」

「歩きながら話すよ」



 きっと、俺が夕の改善方法をすぐに思い付くのと同じように、夕にも俺の改善方法がすぐに思いつくのだろう。それくらい、俺たちは互いの弱さを受け入れているからだ。

 ただ、もしもそこで夕が「恋人を作ればいい」なんて言ったとして、その方法まで考えてくれたとして、俺は大人しくそれに従うことが出来るだろうか。



 考えなくても分かる事だが、敢えてしっかり考えた上でやっぱり俺には無理だと思った。

 いずれ必ず失って悲しむモノを手に入れるなんて、あまりにも虚しい。だったら、せめて人生を楽に終える準備を整えておく事こそが正しい生き方に決まってる。



 だから、俺は間違ってなんていないんだ。そうだろ?

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