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ようこそ、恋愛研究部へ ①

初めまして、くちです。

 001



 高校二年生となった、とある春の日の放課後。



 俺は、友人である文学部の香島夕(かしまゆう)に頼まれていた恋愛についてのコラム記事を提出したところ、やたらと切ない表情で批判をくらっていた。



「ニヒリズムが極まり過ぎてる。ボクじゃ否定出来ないけど、結論の飛躍っぷりも何かおかしいハズだよ」

「はは、モヤモヤするだろ?」

「もう、性格悪いんだから。恋が苦手なボクにこんなモノ見せるなんて」

「言っても、お前には強烈なビジュアルがあるだろ。女よりもかわいいってのは相当な武器だし、俺とは違うと思うけどな」



 男にしてはやや長い金髪のショートカット、タヌキみたいな丸い目、華奢な体躯で中性的な容姿もやや女に寄っていて、おまけに性格まで丸い優しい奴だ。



「それがコンプレックスなんだよ、みんなボクの事を見下すもの」

「辛いなら早く諦めればいい。こっちの水は甘いぞ」



 言うと、夕はムッとした目を向けてあざとくほっぺたを膨らませた。そんな仕草を見せるから、男に告白される不憫な人生を歩んでるんだろうと思った。



 ここは、『第八高等学園』。この地方に存在するあらゆる中学校から生徒の集まる、スーパーマンモス高校だ。

 特色と言えば、やはり多様なクラブ活動の存在だろう。あまりにも生徒数が多いため、県立高校にも関わらず指導方針は自由奔放。故に、生徒たちは自由に活動することを認められている。



 しかし。



 自立的な成長を促すという教育理念を掲げているが、実際には上京した若者が東京で就職してしまう事に由来する、教員の数が足りていないからこその放任主義なんだと思っている。



 要するに、田舎に生まれた不幸な俺たちは都会の連中と大きく実力の乖離があるのだから。

 今のうちに、この箱庭で大人になってから懐かしめる楽しい高校生活でも送れという、未来の窮屈への皮肉に満ちたメッセージが込められているというワケなのだ。



 ……まぁ、実際の事なんて知らんけど。そうやって斜に見るのが俺のクセってヤツ。



「暗いね、かわいそう」

「うるせ」



 仕方ないだろう。



 自分でもあまりいい趣味だとは思っていないが、片田舎では恋愛くらいしかやることがないのに、そこからも溢れたモブキャラは勉学にでも耽けるしかないって話。



 そして、俺は数ある学問の中から哲学を選んだ。俺がコラムを書いたのは、ラブコメ小説を書こうと思った彼にちょっとした意見を求められたから、という背景があるワケ。



 つまり、俺は自分の恋愛観を友人に見せつけた痛々しい人間ではない。むしろ、わざわざ辛い思いをしてまで友人の為に献身した健気な男子高校生なのだ。



「尽くし屋さんだろ?」

「ボクが傷付いてなければそうだったかもね」



 言うと、夕は俺のコラムを記した作文用紙を再び眺めて、重いため息を吐き二つに折りたたみ鞄の中にしまった。



「それで、ラブコメは書けそうか?」

「う〜ん。今のところ、ちょっと厳しいかも。でも頑張る」

「そうか。まぁ、何かに真剣に打ち込んでる時点でカッコいいよ。ファイトだ」

「……どうして、その感情を自分に向けてあげられないのかな」

「単純に好き嫌いの問題」



 呆れたように笑いながら、スクールバッグを持って立ち上がる夕。それに続いて、俺も彼の後に続き2年C組の教室を後にした。



「校了原稿を部室に置いてくるよ。そしたら、どこかへ遊びに行こう」

「なんだ、完成した小説があるのか」

「うん、いつも通りホラー小説だよ。今回は特にパワーのある物語が書けて満足」

「そうか」



 夕の書くホラー小説の恐ろしさを、俺はよく知っている。おまけに、自分に自信のない夕が満足するくらいのパワーがある出来ならば、あまり「読んで」とは言って欲しくないモノだ。



「隔月刊の同人誌に纏めるから、製本したら読んでね」

「お、おう」



 なるべく、グロテスクではないことを願おう。



「ところで、『パワー』ってなんなんだ?」

「ふふ、内緒」



 そして、夕は俺の肩をパシッとパンチした。

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