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水の宝珠

「・・・・アデル実はな・・・人身売買でも俺らが追っているのは宝珠の売買なんだ」

「宝珠?宝珠ってあの宝珠?」

 ラカンは頷いた。

「そう。貴石の中の生きた貴石と言われる。美しい貴重な人種だ」

「それって・・・だからタニアがもっと他に無いのかって聞いたんだ。もっと他って・・・もっと上等なって事だろう?」

 タニアがにっこり微笑んで、正解と言った。

「だけど用意するって言っていたけど・・・」

「そうなんだよな。母さんの読みが正しければ今、手元に売れる宝珠がいないって事なんだろうな」

 ラシードも頷いた。

「そうだろう。オーガもこれに関しては馬鹿じゃないから徹底して宝珠達を保護しただろうから、供給が途絶えたと考えるのが正しいな」

「供給か・・・あっ、母さんそれで新しいのが良いって言ったんだ!」

 タニアは呆れたように溜息をついた。

「おまえ本当に私達の子供?手元に無かったら取り敢えず適当なものを見繕うものでしょ?既に販売している所から買い取るとかね。相手から幾らでも金を引き出せると思えば転売でも儲かるのだから。それでは供給先まで押さえられないと言う事だわ」

「母さん、スゲー」

「おまえが馬鹿なのよ!もっと勉強しなさい」

「勉強って俺、商人になる訳じゃないんだから」

 ラシードは思わず小さく笑ってしまった。四大龍の〝碧の龍〟が商人になるとしたら笑える話でしかない。ラカンならそれも有りか?

「ラシード今笑っただろう!」

「嫌、別に」

 ラシードはもう何時ものしらっとした顔をして答えた。

「ふん!勝手に笑っていろ!しかし困ったな・・・こうなったら天龍都から宝珠を呼び寄せて囮になってもらうとか?」

「囮?そんな依頼をしたら絶対――」

 ラシードは難しい顔をして言葉を切ると、ラカンは天井を見上げて言った。

「絶対アーシアが来るな・・・」

 ラシードは頷いた。

「駄目よ。彼女は目立ち過ぎるもの。それに年齢的にも合わないわ」

 タニアはそう言っても依頼したら最後絶対と言っていいがアーシアが来るに違い無い。確かにタニアが言うようにアーシアでは年齢的に合わない。攫われているのは十歳前後の宝珠ばかりだったからだ。しかし青天城にそれぐらいの宝珠がいただろうか?

 ラカンとラシードが悩んでいるところにアデルがぽつりと言った。


「オレがなろうか?」


 頭を抱えていたラカンが、ぱっと顔を上げてアデルを見た。

「アデル、なるっていったって宝珠かどうかぐらい普通分かるんだよ。そりゃ君は可愛いけれど、宝珠の輝きはその力で纏う雰囲気が違うから真似出来ないんだ」

 ラカンから可愛いと言われてアデルは少し顔を赤く染めたが、左の袖をまくりだした。

そして左の二の腕にしていた細い腕輪らしきものを抜き取った。その腕輪はラカン達にとって馴染み深いものだった。龍力や珠力を制御するものだ。それを外したアデルの身の内から珠力が溢れ出したのと同時に茶色だった短い髪がぐんぐんと伸びて色が抜け落ちていった。大きく見開いた瞳の色もその髪と同じく、つややかな琥珀色になっていた。そして透きとおるように白く輝きだした肌。アデルのその変容に皆、唖然とした。この歳からすると珠力もそうだがその姿は宝珠でも極上に入るだろう。

 ラカンは唾を飲み込んだ。

「アデル・・・それって・・・」

 それ以上言葉が出なかった。

 

 アデルから溢れ出る珠力は強く純度の高い水系―――


 その力に否応無しにラカンの龍力が反応した。そうなったのはアーシア以来だ。抑えていた筈の龍力が自然と戒めから解き放たれてしまった。

 ラカンから放出された龍力にアデルは圧倒された。完全に珠力を抑えていた時には感じ無かった痺れるような感覚・・・・アデルにはこれが何なのか分からない。経験の無いことだからだ。宝珠は龍のその力に惹かれる。そんな言葉もアデルは知らない。ただ自分の心の奥底で何かが芽生えた感じがした。

 ラシードはアデルが外した腕輪を裏、表と見た。

「アデル、これはどうしたんだ?」

 ラシードの問いにアデルとラカンは、はっと我に返った。

「昔オレが発現した時、何日も熱が下がらなかったそうなんだ。父さんや母さんは慌てて医者の所に行ったんだけど全然駄目で帰りかけた道の通りすがりの人から助けてもらったって言っていた。そいつが言うにはオレの力が身体に対して強すぎるから拒否反応をおこしているらしくって、大きくなるまで力を抑えたら良いってコレをくれたとか言っていた。その人は神様だったに違い無いとか父さんも母さんも夢みたいなこと言っていたっけ。だけど何時までしていたら良いのか分からなかったから、父さん達も外すなって言ってずっとしていたけど・・・」

 アデルはそう言いながら伸びた髪を変な顔をして摘まみあげた。

「それって・・・」

 ラシードはラカンの言いたい続きを言った。

「カサルアだな。こんな物を作れるのは間違いなくあの人しかいない」

「だよな~各地を転々としていた時だしな。確かに神様っぽい」

「違い無い」

 そう言って二人は笑い合った。

「もしかして知っているのか!そいつの事!」

 アデルは両親から話に聞いていた命の恩人が、この二人の知り合いのようなので驚いた。

 ラカンがにっこり笑った。アデルはその笑顔にドキリとした。

「ああ、たぶんね。これが全部終わったら会わせてあげられると思うよ」

「あら、会わせてあげるどころじゃなくて成功したら叙勲ものよ。もちろん私もね。アデルちゃん楽しみにしておきましょうね。それ相応の対価を頂かなくてはね」

 タニアはそう言って微笑んだ。

 ラカンとラシードはぞっとしたのは言うまでも無い。協力を頼んだのを今更ながら後悔した。



 次の日、タニアは嬉々としてアデルを着飾らしていた。元々可愛らしかったが宝珠となったアデルは幼さが残るものの、前とは比べものにならないぐらい愛らしかった。

 ラカンは呆れた声で言った。

「母さんそれって飾り過ぎだろう?それじゃかなり有力な龍の宝珠みたいじゃないか。そんなんじゃ奴ら狙って来ないよ。あくまでも旅行者っぽく普通でなくっちゃ」

 ラカンの言う事は正しい。タニアは残念そうに同意してそれらしく仕度を整えた。

 出来上がったアデルにラカンが真剣な声で言った。

「いいかいアデル。奴らは君が大事な商品である限り傷付ける事は無いと思うから絶対に大人しくしているんだよ。もし君が探している奴がいても絶対に騒がない事!約束出来る?出来なければこの策は取り消しする。約束出来るかい?」

「あいつがいても・・・・分かった。約束する。大人しくしていたらいいんだろ」

 挑むような瞳でアデルは言った。

 ラカンは吹き出した。

「アデルもっと女の子らしくやんないとさ!そんな目で睨んだら駄目だよ。怖いよ~と言って泣いているぐらいが可愛らしくって宝珠っぽいと思うな」

 アデルは可愛らしく無いと言われてムッとした。

「オレは女みたいにベぇーべぇー泣かないんだよ!」

「女みたいにって?アデルは女の子なんだからさぁ~やれやれ。いずれにしてもアデル絶対に君を救い出すから無茶しないように!」

 ラカンはそう言ってアデルの頭をいつものようにぽんぽんと叩いた。

「ガ、ガキ扱いすんな!」

「はいはい」

 ラカンは愉快そうに笑った。その自分に向けられた笑顔を見るとアデルは以前よりもっと落ち着かない気持ちになる。その様子をタニアとラシードは見逃さなかった。タニアは嬉しそうに、ラシードは呆れたように溜息をついていた。


 ラカン達は部下の中で適当な龍をみつくろい宝珠を盗まれてしまう間抜けな役を演じさせアデルを作戦通りに攫わせた。そして街中に配置した部下達にその経路をつきとめさせたのだった。ラシードの念視力は強いが、それが出来ない場合があると想定した作戦だった。アデルが運び込まれた場所は信じられない事に坤龍州の副宰相ザーランドの別邸だった。この州には副宰相は三人いる。その中で最年少のザーランドは次期宰相と目されていた。この一件に彼が関係しているのか?していないのか?今の時点では何とも言えない。だが必要以上にこの別邸に結界が施されている。

「ラシード、ちょっとヤバくないか?」

「そうだな。ザーランドの変な噂は聞いた事は無いが奴が関わっているのなら、この件の尻尾がつかめなかったのも頷ける」

「だよな・・・州の高官が関わっているんなら州で保護しているようなもんだろうからな。ザーランドの身辺調査はイザヤに頼もう。奴の情報網から何か糸口が掴めるかも?しれないしな。俺達は目の前の奴らを取り敢えず一網打尽しようぜ」

 ラシードは頷いた。

 しかし予想に反して商品が手に入ったと言うのにタニアの元へ連絡が来なかった。アデルがあの別邸から出された形跡も無い。それはどういうことなのだろうか?

「やっぱり!ああもう私ったら!失敗したわ」

 タニアが青くなって叫ぶように言った。

「母さん、どうしたのさ」

「どうしたのじゃないわよ。迂闊だったわ。アデルちゃんが上等過ぎたのよ!私に売るのが勿体無くなったに違い無いわ!」

「何だって!」

「それは有りえるな。今届いたイザヤからの調査書をざっと読んだがザーランドには疑わしい箇所は無いようだ。強いて言えば三人の副宰相で彼が次期宰相とまで言われる地位に上ったのが早かったというぐらいらしい。それを悪く考えれば金にものをいわせたとも言える。そして奴は水の龍だ」

「ザーランドが水系?そうだったっけ?」

「おい、ラカン!お前〝碧の龍〟だろうが。全部知る必要は無いが州の重臣達ぐらいは把握していろ」

 タニアも呆れたように言った。

「ラカン、おまえが馬鹿なのは今に始まったことではないのだけれど、おまえが気にもとめないぐらいの力しか持っていないとしたら・・・もう既に地位は上るところまでいっているとして次に狙うのは〝龍力〟って事かしら?アデルちゃんなら涎が出るくらい欲しいでしょうね。そういう事でしょう?ラシード?」

 ラシードは頷いた。


 その時、ザーランドの別邸を見張っていた部下からその本人が入って行ったとの連絡を受けたのだった。こうなったら強硬手段に出るしかなかった。アデルに約束させていたが、あのはねっかえりは何をしでかすのか分からない。安全とは言えない状態だ。今度こそ慎重に事を運んでこの事件の主犯を捕まえたかったがアデルを危険にさらす訳にはいけない。ラカンはラシードと共にザーランド邸へ侵入する事に決めた。

 屋敷の外は部下達に命じて水も洩らさない包囲網を敷いた。この屋敷から一人として逃がさないだろう。結界の様子から手練の用心棒の龍もいるようだがラカンとラシードにかかれば話にならない。


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