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龍選び

 いつものそんな様子を窺うラカンは心配そうにラシードにぼやいていた。

「おい、あれってどう思う?宝珠どうしでたむろってさ。しかも宝珠と言っても男だし・・・アデルには女の子の友達は出来ないのかな?」

 会合の為集まった塔の一室からその様子はよく見えていた。三人が楽しそうにふざけ合いながら話し込んでいるようだった。ラシードもそれを一瞥して答えた。

「女の子か・・・無理だな。アデルは同性から嫉妬心を持たれるのに十分な条件が揃っているから自尊心の強い宝珠は無理だろうな。それに良いじゃないか?宝珠同士の恋人は共に選んだ龍が同じ場合だったら問題無く成立する」

「な、なんだって!アデルは龍を探しに来たんだ!恋人を探しに来た訳じゃない!」

「ラカン、お前な・・男と見ればそんな風に考えるだろう?アデルが誰を好きになっても別にいいじゃないか。それに彼らの龍はイザヤにレンだろう?アデルが宝珠も龍もまとめてどちらを選んでも立派なものだ」

 ラカンは唖然とした。

「イザヤとレン?アデルが彼らを選ぶ?」

「だからそんな可能性もあると言いたいだけだ」

 アデルの気持ちを薄々気が付いているラシードはそんな事は無いと思っていた。しかし相変わらずこういう話題に鈍感な親友を煽るのには最適だった。


 イザヤとレンも時間前に入って来ると、ラカンとラシードが険悪な様子で張り付いている窓の外を見た。

 レンが微笑んだ。

「ああ、アデルですね。彼女は本当に可愛らしく魅力的ですね」

 珍しくイザヤも同意している。しかも口元も少し微笑んでいるようだった。

「そうだな。奔放で無邪気のように見えてはっとする表情をする」

 ラカンはギロリと二人を睨むと窓を閉めた。

「集まったならさっさと話しをしようぜ!」

 レンとイザヤはお互い顔を見合わせたがラシードは肩をすくませた。

 会合中、ラカンはムカムカしていた。偏屈なイザヤに評して貰わなくてもアデルの魅力は十分分かっている。分かっているから変な虫が付かないかと心配なのだ。だがラシードの言った言葉が胸に詰まった。レンやイザヤをアデルが選んでも彼らなら問題ないと言う事だったが確かに彼らなら悪い虫では無いだろう。


(やっぱり駄目だ!あいつらは駄目!レンにしたってサードの独占欲は尋常じゃないし、仮に奴の恋人になったとしてもそれは変わらないだろう逆にレンの取り合いになりかねない。イザヤだってサーラはきっと良い顔する訳が無い。アデルはあんなに可愛いんだから恋人ならそんな宝珠が好きな男に引っ付いているなんて嫌だろう。アデルが肩身の狭い思いをするに違い無い)


 色々と思いを廻らせている間に話し合いは終わっていた。しかもその悩みの原因の二人がいつの間にかアデル達と合流していたのだ。ラカンも急ぎその場へ向った。

「アデル!ちょっといいか?」

 ラカンはそう言いながらアデルの手を引っ張っていた。いきなりつかまれた手にアデルはドクンと胸が高鳴った。そして答える間もなくアデルをその場から連れ去って行った。

「ちょっと!ラカン!放せよ!痛いったら!」

 ラカンは急に立ち止まった。振り向いた彼は怒っているようだった。

「・・・アデル・・・サードとルカド、どっちが好きなんだ?それにレンとイザヤどっちがいいんだ?でもどれも駄目だ!絶対に君が不幸になる選択はさせられない。母さんからくれぐれも監督するようにと言われているからね」

 そして昔のように頭をぽんぽんと叩いた。ラカンは叩いたものの昔と違って背の高さが違うから変な感じがした。

 アデルは瞳を見開いた。ラカンは彼らとの仲を誤解しているのだ。それが嫉妬なら嬉しいがタニアとの約束でただ動いているのだと思うと悲しくなった。そして昔と変わらない自分の立場・・・・

「・・・・もう子供じゃないんだ!バカ!ラカンのバカ!ダメダメばっかり言って!じゃあ、ラカンが連れてきてよ!あんたのお眼鏡に叶った奴を!そしてその龍を選べばいいんだろう?もう、知らない!」

 アデルは激しく言い捨てると走り去った。残されたラカンは呆然としてしまった。アデルは泣いてなかったが今にも泣きそうだった。彼女の為と思って言ったのだが逆に怒らせてしまった。しかも大変な課題を与えられてしまった。


(俺がアデルの龍を選んでやる?)


 タニアからも似たような依頼だったがアデルからも言われてしまった。しかもその龍にすると言ったのを思い出すと何だか気持ちが重くなってくるのだった。



 数日後アデルはラカンから指示された任務についていた。水源の無くなった村の井戸に水脈を通すという簡単な仕事だ。しかもその相手の水系の龍ヴァリスはラカンが連れて来たのだった。

 ラカンは気乗りしないもののアデルに似合う龍を選ぶ事にしたのだ。彼女の属性からすれば水の龍は必須条件だろう。そこで浮上したのが自分の部下でもあるヴァリスだった。まだ若いが力もそこそこ強く品行方正で真面目だ。性格的に優し過ぎて弱く感じるかもしれないが、アデルの気性からすれば逆に良いかもと思った―――

 そして二人の出会いを兼ねて任務を依頼したところ、当然ながらヴァリスはアデルの魅力に夢中になった様子だった。アデルはというと・・・不気味なほど大人しかった。一言二言憎まれ口でもたたくかと思ったのに何の反応もなかったのだ。


 任務は簡単で二人は数日で帰って来た。その報告をラカンは碧の間で受けていた。王に次ぐ権力を持つ四大龍はそれぞれの称号の名をとった政務を行なう府が城にある。水の龍の頂点に立つ彼はその龍達にとっては王に等しい存在だろう。その一角の拝謁の間では一段高い場所に座するラカンはまさしく水の龍の中の龍、碧の龍なのだ。今日は特に公式な何かがあったのか正装をしていて何時もの様に着崩してもいなかった。普段の彼からは想像出来ない威厳さえ感じるようだった。アデルは初めて見るラカンのその雰囲気に胸の高鳴りを抑えてヴァリスの後ろに大人しく控えていた。

 ラカンはというと彼女が瞳を伏せているので表情はつかめないでいた。報告よりもアデルが気になっていた。そして長いヴァリスの報告が終わった。

「ヴァリスご苦労だったね。アデルも初めての任務疲れなかったかい?」

 ラカンは気にかけるように言った。

 自分の選んだ龍が気に入ったのか気にしているのだろうか?アデルはそう思うと胸がつまるようだった。

「・・・・ヴァリスはとても優しかったから大丈夫だった。だから心配しなくていい」

 ヴァリスは嬉しそうに微笑んだ。逆にラカンはムッとしてしまった。

「――そうか良かったな。それと母さんが今日来ると連絡が入っていた。今晩は州公の歓迎の宴があって迎えに行けないが良かったら二人で来たらいい。青天城では久し振りの華やかな宴だから母さんも喜ぶだろう」

「分かった」

 二人は目を合わす事無く言った。

「アデル、俺が迎えにいきましょうか?」

 ヴァリスはここぞとばかりに言うとアデルは頷いた。

 ヴァリスは満面の笑みを浮かべて退出の言葉を述べると、大事なものでも扱うようにアデルの手を取って退出していった。


 ラカンは椅子の肘掛に両肘をついて組んだ手に顎を乗せていた。そして二人の後ろ姿を目で追っていたが気分は最悪だった。ムカムカする気持ちを抑えられなくて足元にあった陶器の置物を蹴り飛ばした。それは床に落ちてガシャリと砕けた。

「ご機嫌ななめだな。親友殿?」

 ラシードがいつの間にか入り口の柱にもたれかかって立っていた。

「ラシード・・・何んだ?俺は今、めちゃくちゃ機嫌悪いんだ。喋る言葉には気をつけろよ!」

「今出て行った二人が原因か?」

 ラカンがギロリと睨んできた。

「なるほど。ヴァリスか・・・将来有望だしまあまあだな。アデルも目が高い」

「俺が選んだんだよ!」

 ラシードがクスリと笑った。

「お前が?お前、本当に馬鹿だな。人の事は散々言う癖に自分の事になるとまるで駄目とはな。呆れてものが言えない。お前がヴァリスの事を承知しているのだったら何でそんな顔をしているんだ?結局奴が気に入らないのだろう?」

 ラカンはラシードから以外な事を言われて驚いた。

「俺がヴァリスを選んだのに気に入らない?」

 ラシードは呆れた。

「ああそうだ。教えてやってもいいがそれでは面白く無いから、どうしてなのかお前がよく考える事だな」

 ラシードはそう言い残して行ったのだった。



 青天城から少し離れた位置にあるネイダ家の屋敷で、アデルは久し振りにタニアに会った。今ではすっかり親子のような二人だ。

「アデルちゃん、少し痩せたんじゃない?もうっ!うちの馬鹿息子は何やっていたのかしら!アデルちゃんに苦労させたなんて!」

「タニア、ラカンは悪くない!悪くないんだ・・・・いつもと同じだっただけで・・・ただそれだけで・・・・」

「いつもと同じ?」

 アデルは頷いたまま顔が上げられなかった。タニアを見て安心したのか涙が滲んできたからだ。いつの間にこんなに弱くなったのだろうかとそんな自分が情けなかった。

「まったくあの馬鹿!アデルちゃん・・・・そんなに泣きたいくらいあの馬鹿が好き?」

 アデルは、はっとして顔を上げた。今タニアは何と言った?

「・・・・アデルちゃん、ラカンが好きなのでしょう?」

「ち、ちが――」

 アデルは〝違う〟と言いたかった。だが次第に頬が紅潮してきた。そして頷いてしまった。アデルは確かめたかった。ラカンに対する想いは恋なのか宝珠としての特性なのか・・・答えは直ぐに分かった。多くの龍達やラカンと匹敵する龍達――そのどれにも惹かれる事は無かったのだ。楽しいサードに素敵なルカド・・・彼らにも恋心は芽生えなかった。やっぱりラカンだけだった。その姿を見たり声を聞いたりするだけで胸が張り裂けそうなぐらいドキドキしてしまうのだ。ラカンが好きだ。そして彼の宝珠にもなりたい。でもこの気持ちを伝えたらラカンは好きとかいう感情は妹に置き換えて、契約も簡単に承知してくれるだろう。それが怖いのだ。


 タニアもアデルの気持ちは前々から気が付いていた。しかしそれは彼女の狭い世界の中だけの話だったからアデルにはもっと広い世界を見せてやりたかった。そして自分を見つめて欲しかったが結局結論は変わらなかったようだが・・・息子とはいえ厄介な者だと認めなければならない。育て方が間違ったのか恋愛に関しては全くの鈍感・・・というか博愛主義だろう。みんな大好き精神なのだ。最も女性が恋人にしたくない相手だ。

 タニアは大きな溜息をついた。

「アデルちゃん、私ももちろん応援するし、そうなってもらいたいと思うわ。忠告するけど絶対にあなたからラカンに告白したら駄目よ。あの子から先に言わせないと駄目。難しいことを言っていると思うけれど頑張ってね」

 タニアも流石に同じ意見だった。それでも力強い味方が出来たのだ。

 早速タニアの作戦が始まった。今晩の宴でアデルの魅力を振り撒き、賛美する龍達を増やし見せつけるというのだ。ラカンが青くなるまでタニア直伝の無邪気な微笑みを武器に手当たり次第しようとなった。

 宴に登場したアデルは、伝説の宝珠でもあるアーシアや王妃のイリスらを筆頭とする美しい宝珠達に負けていなかった。未だ相手の決まっていないアデルが一番注目されるのは当然かもしれない。小気味のいい受け答えに魅惑の微笑み・・・龍の心をくすぐるのには女性としても宝珠としても両方とも十分だった。

 その様子を遠くから呆けたようにラカンは見ていた。アデル達が現れたかと思ったら次から次へと龍達が群がっている有様だったのだ。広いこの場所でその一角だけに龍が集中している感じさえする。時折、楽しそうに笑いながら無邪気な笑みと、悩ましい視線を送られる龍達はもう骨抜き状態だった。


「アデル!何やってんだ!」

「ラカン、まだだ」

 舌打ちしながら言ったラカンに、ラシードが耳打ちした。彼らは宴に招待された要人達の挨拶を受けていたところだったのだ。長々と喋る奴らの事なんかどうでも良かったが立場的に義務は果たさなければならない。ラカンは苛々しながら待った。

 いち早く開放されたカサルアがタニアに近づいて来た。

「タニア殿、何か面白いことをしているようだね?」

「まあーこれは天龍王。ご無沙汰しております。そうでしょう?気付かないのは馬鹿息子だけでしょうが。でもこれだけの龍が集まっているのですから馬鹿な息子より、違う人でも見つけてもいいのかとも思っております。王こそ如何ですか?」

「それがタニア殿の願いだとしても断らせて頂きたい。イリス以外に宝珠はいらないから」

 タニアはそれもそうだと笑った。天龍王の愛妻家ぶりは有名だった。類まれな龍力を有する彼を宝珠一人で制御出来るものでは無かった。一人の宝珠の力が足りないのならより多くの宝珠を有するのが当たり前だろう。同じ力と目されていた魔龍王ゼノアもその力を受ける宝珠を数多く使っていたと云う。宝珠であるイリスを愛した為に、その誠意の証として彼女以外の宝珠を持たないらしいのだ。我が息子ラカンに見習わせたいものだ。

 音楽が流れてきた。今から宴も本番だろう。カサルアは微笑んだ。

「ではタニア殿に私も協力しよう。面白いしね」

「まっ、陛下。相変わらずお好きです事!」

「ははは、タニア殿には負けるよ」

 カサルアは笑いながらアデルの群れに入って行った。後ろから押されて文句を言おうと振向いた者達はその口を手で押さえる。自然と道が出来てカサルアは難なくアデルのもとへ辿り着いた。華やかな衣を纏いそれに負けない豪華な金の髪をした王は眩しいくらいだった。アデルも思わず目を奪われた。


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