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蒼い光のタンザナイト  作者: R.U.R.U.R
旅立ち編
4/15

最強の息子 ハル=カルヴァード

 眼前には既に燃え上がって、村というよりは瓦礫と炎の海となった景色が広がる。


(この匂いを我慢するのはいつものことだって、分かってるでしょセリヴィエット!)


 何度見ても恐怖に身体が震えそうになる。未だに仇敵の姿を捉えられなくても、絶え間ない轟音と悲鳴はセリヴィエットに地獄の二文字を刻むのに十分だった。それでも戦おうと感じるのは、ディルメンスの家名を背負っているからだ。黎明期より破砕者(ブリンガー)として活躍したことで、武芸者の礎を築いたとされている現代のアリストクラシー。

 恐怖を克服し得る素質を持ったセリヴィエットはその血脈として、過分はない。


「これ以上、踏み荒らすな!」


 一番手近なスピリット・クォーツ目掛けて、ホルダーから覗くグリップを握りこんだセリヴィエットが跳躍する。一本角の怪物――ライノスが彼女を捉える。それでいい。お前たちを屠るのは、この私なのだから――!


【アドヴェント開始】


 彼女の身長に届くほど長大なウェポンホルダーが()()()。パーツの継ぎ目から割れ、スライド拡張された装甲の下から露出したフレームから蒸気が吹き上がる。吹き付けられる白煙がライノスの視界を奪った一瞬、その首が音もなく宙に飛んだ。

 崩れ落ちるボディを足蹴にして、セリヴィエットもまた宙に舞う。


【三式八咫烏――展開安定】


 ライノスの群れは、その時、少女の背中に赤い羽根を幻視した。当然、人間であるセリヴィエットに羽根があるわけではない。刀だ。1メートルは優にあるセリヴィエットの愛刀――三式八咫烏の切れ味に、ライノスの群れは震撼する。


「グォォ!?」

「疾ッ!」


 セリヴィエットが恐るべき加速で、戦場を駆け抜ける。鮮やかな真紅の刃が躍り、斬閃を刻む度に侵略者が消えていく。


『名誉や肩書を優先して戦うだけが破砕者(ブリンガー)のいる意味じゃないってことを、分かって欲しいんだ』


 不意に、ハルとかいう少年の言葉が脳裏を擦過する。スラムの人間は羨ましい。私がどんな気持ちで刀を握っているかも知らないくせに。


「身勝手なことばかり言うんだからッ!」


 三式八咫烏が十を超える餌を食い散らかした時、セリヴィエットの耳が少女の悲鳴を捉えた。


「ママァ!パパァ!」


 ライノスの一匹が少女を腕に抱えている。セリヴィエットに気付いたライノスは攻撃ではなく、背を向けた。


(いけない、あのまま(ゲート)に逃げ込まれたら、あの子は汚染されて死んじゃう!そんなこと、許すもんですか!)


 地面を蹴り砕いた時には、対象は(ゲート)への撤退を始めていた。が、セリヴィエットの眼前で、ライノスがスクラムを組むかのように立ち塞がる。


「ああ、ウッザい!」


 ライノスの背面に滑り込み、遠心力も載せた刃でその首を跳ね飛ばす。殺到するエネルギー球を、切り殺した死体を投げ込んで迎撃する。コートが焦げるのも構わずに爆炎を突っ切り、逃げるライノスを追い掛ける。

 が、既に(ゲート)を目視したライノスが両脚に力を込めている。少女に手が届くまで、どうしても、2秒、いや1秒足りない。


(届かない!?)


 刹那、セリヴィエットの頬を青白い閃光が掠めた。


「ッヅァ!?」


 光芒はライノスの頭部に突き刺さり、仕留めるには至らずともその動きが緩慢になる。


「攻撃、今!」


 少年の声が、セリヴィエットに届く。その声には、人を後押しする不思議な響きがあった。だから、セリヴィエットはその通りにした。ロジカルな思考よりも、助けたいという願いが、そのように彼女の身体を動かしたのだ。


「ハァッ!」


 三式八咫烏がライノスを切り伏せた。伸ばした左腕が揺れる。涙でぐちゃぐちゃになっても、少女はセリヴィエットの腕の中で生きていた。

 泣き止まない少女に困惑しながらも、セリヴィエットは確かに見た。怪物の頭部を砕いた青い閃光もとい、巨大な銃剣型の輝煌武装(レガリス)を死体から引き抜いたハルの顔を。


「ありがとう、セリヴィエットさん」

「……どうして貴方が礼を言うのですか」

「エマちゃんを助けてくれたでしょ。なら、言葉にしなきゃ」


 セリヴィエットの腕の、エマと言うらしい少女を宥めるように頭を撫でているハルは笑顔だった。こんな非常時でも、飄々とした態度は変わらないので腹立たしさを感じる。


「もっと早く援護に行くつもりだったんだけどさ、皆の誘導に瓦礫の撤去とかやってたら追い付くのに時間かかっちゃって!セリヴィエットさんだけに押し付けるような格好になって、本当にごめんね!」

「そんなことよりも聞きたいことが。どうして貴方が、輝煌武装(レガリス)を?」

「これ?父さんからのお下がりだよ。ワガママ言って、7歳の頃に譲ってもらったんだ」

輝煌武装(レガリス)は玩具じゃないんですよ。審査や適性を鑑みて、始めて与えられる一騎当千の武装です。それをなんですか、譲ってもらったって……」

「廃棄エリアで暮らしていくためには、これくらい転がせないと生きていけないからね。いやぁ、慣れるまでは本当に大変なんだよねぇ、うんうん」


 同意を求めつつ、セリヴィエットからエマをひょいと持ち上げて、地面へと降ろした。追い掛けてきたらしい母親らしい女性が駆け寄り、エマを抱きしめた。


「ごめんね、セリヴィエットさん。キミのこと、誤解してたみたい」

「誤解?」

自分の世界(シティ)しか見ようとしない人なんじゃないのかなぁって」


 悪びれた様子もないハルのさらりと放たれた言葉に、図星をつかれたような気になって「馬鹿々々しい」とセリヴィエットは鋭い声を返した。


破砕者(ブリンガー)である以上、人命を優先するのは当然です」

「そうだね。キミが居なかったら、エマちゃんは家族と離れ離れになっちゃうところだったからね。やっぱり、家族は一緒が一番だよね」


 ハルの横顔が少し寂しげに陰った理由をセリヴィエットは思い出した。


(そっか、こいつの家族ってSQに殺されたんだっけ……)


 セリヴィエットはそこで初めてハルの顔を観察した。

 少年らしいあどけなさを残しつつも、端正でありながら優しげな顔だった。黒曜石の様な瞳は戦場の真っただ中であっても穏やかで、マイペースともいえる不思議な雰囲気をハルに纏わせていた。


「ありがとうってたくさん言っても足りないくらい。あ、やっぱりお礼とかしたほうがいいかな?」


 家族を見送るハルの心からの言葉には、生まれながらにそれを考えられれるノーブルじみた気配があった。名状しがたい感情が胸中に湧き上がるが、言語化できないまま直ぐに解けるように消えた。


「結構です。貴方には何も期待していませんから」

「それじゃあ僕の気も収まらないんだよ!あと、僕のメンタル的にももう少し優しい言葉が欲しい!」

「知りません」


 にべもなく切り捨て、セリヴィエットは(ゲート)を見上げた。ハルの減らず口同様に、アレも未だに口を閉じる気配すらない。


「私は戦闘を続行します」

「もちろん、僕も行くともさ!セリヴィエットさんが手伝ってくれるなら百人力だね!」

「そういう言い方は嫌いです」

「ンン……」


 硝子が砕けるような音に、2人は同時に空を見た。亀裂がさらに広がり、侵略者の流星が落下してくる。セリヴィエットが三式八咫烏を握りなおす。


「付いてくるのならば、足を引っ張るような真似はしないように」

「安心してよ。これでも、僕もそこそこやる方だからね」


 風が吹いた。下降する侵略者はその身に黒と金の二色の烈風が叩きつけられるのを、感じていた。



 ₡



 避難誘導を終えたヴィクトリアが、村の端の避難シェルターへ入ってきた時はてっきり恐怖と高揚でカオスになっているかと思っていた。シェルターとは名ばかりの少々分厚い倉庫で、スピリット・クォーツの攻撃に晒されれば消し飛ぶ杜撰な作りなのだ。しかし、村の住民は予想よりも冷静だった。


「よぉ、誘導役お疲れさん」

「いえ。リヴィらが囮役となってくれたお陰です。彼女らが居なければスムーズな誘導は叶わなかったでしょう」

「アイツらが派手に暴れてくれて助かったよな!」


 とびきり冷静なのは、マクシミリアンだ。彼がこうも落ち着いているから、住民も平静を保っていられるのだろうか。


(いえ、この異常さはそれだけではありませんね。別の精神的支柱があるのならば、それはきっとあの少年だ)


 観察を打ち切り、ARスクリーンで戦況を確認する。モニターの中で、群れを成すライノスの光弾を軽々と避け、突撃砲の如き連射でけん制するするハルの姿が映った。

 セリヴィエットは娘と言う色眼鏡を抜きにしても、非常に優秀な破砕者(ブリンガー)だ。ディルメンスの人間は2歳の頃から身体作りを始め、4歳から輝煌武装(レガリス)の扱い方をマスターする。だからこそ、単身で自分の護衛を任せたのだ。しかし、ハルのポテンシャルはそれを優に超えている。


『4秒後に左に1発!行けるよね!』

『私を侮ってますか、貴方は!』


 ハルの支援射撃が放たれる。光弾が敵陣を怯ませ、群れの真ん中に風穴を開ければ、その隙にセリヴィエットの刃が敵の首を撥ねる。彼の戦い方は、自らが切り込むよりもセリヴィエットを自由に動かした方が殲滅速度が上がると理解している者の、そう、獲物を淡々と狩る狩人の描き方だ。


「先輩、もしや彼に教育を?」

「教育ってほどじゃねぇよ。アイツが戦いてぇって言ったんで、俺のやれる範囲で戦い方を教えてやっただけだぜ」

「だけ、ですか」

「なんだよ、その含みある言い方は」


 自らの実力を過小評価しているような言い方であった。ヴィクトリアは大雑把なかつての先輩に呆れると同時に、画面に映る黒髪の少年のポテンシャルに身震いする。


(この人の全てを齢15の少年が受け継いでいると言うなら、先輩が輝煌武装(レガリス)を預けるのも納得できる。かつてシティを救った英雄の力を内に秘めていると言うのならば、彼もまた祀り上げるに足り得る存在であると言う事か……?)



 ₡



「セリヴィエットさん、右に3発!んで、4秒後に左に行くよ!」

「次から次に勝手な命令をしないでください、ハル=カルヴァード!」


 悪態をつきながらも、此方に合わせてくれるセリヴィエットを好ましく思いつつ、ハルはトリガーを引く。たった3回の銃撃によって空いた僅かな隙間にセリヴィエットが滑り込み、長刀の峰でライノスを一纏めに押し込む。


「これで!」


 銃口が咆哮すると、たった一射で射線上に纏められた群れが崩壊した。陣形さえ崩れてしまえば、後は三式八咫烏の餌でしかない。銃撃で支援しながら、ハルはその迷いのない太刀筋に魅了される。


「凄いっ、本当に凄いよ、セリヴィエットさん!それだけ大きな日本刀(イースト・シミター)を軽々と振り回せるなんて!」

「……」

「無言は辛い!せめて何か言って!」

「後方10メートル」


 振り返ることもなく、ハルは銃口を向けて発砲した。ノールックにも拘らず、不意を衝くべく動き出していたライノスの上半身を吹き飛ばしていた。


「僕とセリヴィエットさん、いいコンビになれると思うんだ」

「軽薄な貴方と組むならば、いっそ舌を噛みます」

「流石に僕だって泣くからね!?」


 セリヴィエットの氷点下の視線に悲鳴を上げた瞬間、2人はその場を飛び退いた。赤色光線が柱のように降り注いだ。本来ならハルらを飲み込むそれは、ライノスの死体を消失させた。


「この反応、まさか!?」


 隣に並んだセリヴィエットの目線の先を追い掛ける。閉じかけていた亀裂を力任せにこじ開けて、土塊をまき散らして落下してきた巨大な影。


「バォォォォォォォォッ!」


 衝撃波を伴った雄たけびが響き渡る。10メートルを越える巨大な体躯。異様に短い手と、反対に長大な脚はかつて地球に生息していたという、ティラノサウルスとやらに似ていた。


「ドルメルス!」

「おぉ、始めて見るタイプだ!アイツ強いのかな?」

「脅威度B+、つまり熟練の破砕者(ブリンガー)が最低でも4人は必要と言えば分かりますか!?」

「じゃあ僕らが二倍頑張れば、何とかなるんだね」

「気楽に仰るっ!?」


 ドルメルスの背びれが激しく明滅し、次の瞬間には大きく開かれた口中から吐き出された粒子の奔流が二人を飲み込まんとする。2人同時に飛び退いて光線を躱すと、


「仕掛けます!射撃は5秒後に!」


 第二射が撃ち込まれる前に、セリヴィエットが飛び掛かる。ドルメルスの頭部を切りつけるも、


「かったぁっ!」


 これまでライノスを切り殺してきた赤い刃は、結晶交じりの表皮を切り裂けなかった。


「射線通して!」


 畳み掛けるようにハルの援護射撃が放たれる。が、蒼銀の弾丸はまるで岩に当たった波のように霧散する。


「ただ装甲が硬いんじゃないね?アイツ、バリアみたいなものが張られてる感じがして、うん、これは確かに強いって言われるね!」


 冷静に洞察しているハルだったが、間髪入れず粒子砲の第二射が来たので即座に回避に集中する。今度は一本が細く、面で放たれた赤い光線がハルらの視界を光で覆いつくす。


「これじゃあ反撃する隙間がない……!」


 両者を焼こうとする火線の取り方は、まるで害虫でも駆除するかのような執拗さと正確さがあり、その攻撃の中ではクロスレンジの戦闘を是とするセリヴィエットは耐えることしかできないようだった。ハルも間隙を縫って狙撃するも、やはり有効打足り得ない。


「オオオオオオオ!」


 ドルメルスの咆哮に合わせて頭上から空を切る音を捉えた。ライノスの群れが飛来したようだ。目視出来たのは16匹で、それを最後に(ゲート)は閉じたから、これ以上の増援はない。


「お代わりまだ来るの!?」

「いえ、落下地点はここじゃありません!」


 それらはハルらを無視して彼方へと落ちていく。その方角にあるのは、住民らが避難しているシェルター!


「追い掛けないと!」

「けど、コイツを放置したままでは追跡もままなりません!」

「なら、答えは単純明快!」


 ハルとセリヴィエットが回避の間際、交差する。


「セリヴィエットさん、シェルターをお願い。ここは僕一人でやるよ」


 一瞬のすれ違いの最中、気が付いたら言葉がハルの口をついていた。


「一人でって……何を考えているのですか、貴方は!」

「シェルターに向かった雑魚の処理をしなきゃいけないんだ。なら、走力に分があるキミが行くべきだよ」

「それは……そうですけど!」


 セリヴィエットが言葉に詰まったのは、それがベストであると判断できてしまったからだ。歯噛みする彼女に、ハルはふてぶてしく笑った。


「僕なら平気だよ。だから、皆をお願いします、セリヴィエットさん!」

「誰が!貴方の心配なんか!してやるもんですか!」


 コートを翻し、セリヴィエットがシェルターへと駆け出す。彼女を狙った光線へ割り込んだハルが即座にグリップエンドを力任せに引き抜く様にして、≪石動≫を起動。噴き上がった粒子の障壁が、砲撃を食い止めた。


「セリヴィエットさん、時々口悪くなるよね。素が出てるみたいでさ、結構可愛いと思うんだ」


 同意を求めるようにドルメルスに問いかけるが、黙れと言わんばかりに尻尾が振り降ろされる。飄々とした態度を崩さないまま、一撃を掻い潜ると一息に懐へと飛び込んだ。


「ここならバリアも薄いんじゃ、」

「フルゥ!」

「!?」


 ハルをあざ笑うように、短い両手からエネルギースパイクが伸びた。咄嗟に武器を引き戻して受け止めるも、無理な体勢で受け止めた上に巨体から繰り出された膂力に押し負け、弾き飛ばされてしまった。


「おお、格闘戦もばっちりかぁ。やるねぇ!」


 左手を振って痺れを払うと、ハルは一つ頷いて銃剣を肩に担いだ。


「でも、これくらいなら必殺技は使わなくて済みそうだね」


 トリガーを押し込んで射撃の反動を推力として得たハルが飛ぶ。繰り出された一撃は、ドルメルスの横っ面にクリーンヒット。巨体を軽々とトタンの家屋に吹き飛ばした。


「そうだなぁ、使うとしても中級(そこそこ)一回で十分でしょ!」


 ハルの戦術眼が導き出した結論を侮辱と受け取ったのか、立ち上がったドルメルスが狂ったように光線を放ち、エネルギースパイクを振り回す。


「バカスカ撃ってくれちゃってさ!直すの、大変なんだって理解してほしいよ、ねぇ!」


 ハルが大地を蹴った。殺到する攻撃の嵐は、銃剣の使い手を射抜くことが出来ない。振り折されるスパイクを受け流し、抉りこむような切り上げを放つ。見えない壁に阻まれ、その一撃ははじき返される。だが、その反動でドルメルスが大きく揺らいだ。


「まずは腕!」


 弾丸を炸裂させ増速。爆発的な加速を得た切っ先を打ち付けるようにして、強烈な一撃がバリアの上からスパイク諸共、腕を切り飛ばした。


「ギャガァァ!?」


 必死に抵抗する巨大SQの尻尾を軽々と避けて右へ、膝裏へ銃口を強引にねじ込んだ。関節に撃ち込まれた弾丸が、ドルメルスの巨体を跪かせた。その膝を、ハルが蹴って飛ぶ。


「その背びれ、貰っていくよ!」


 蒼銀の弾丸のかため打ちに背びれがあっけなく砕け散り、赤い粒子が血飛沫のように漏れ出る。噴出位置から、コアの位置を大まかに割り出したハルは着地した時には、グリップエンドに手を伸ばしていた。


「コアは高く売れそうだけど、今回はそうも言ってられないよねッ!」

【戦術破城槌≪穿孔≫起動】


 彼の輝煌武装(レガリス)がうなりを上げ、その銃身に蒼い粒子が収束する。ドルメルスのあらん限りの出力を動員して放った巨大な光線も足を折られて射線を固定されてしまった以上、青い突風となったハルが避けられない通りはない。


「これがッ!」


 速度を十全に活かした、刺突が真下からドルメルスの腹部を貫いて亀裂を刻む。銃口は寸分たがわず、コアに向けられている。


「キミへのとっておき、だよ!」


 ハルの指がトリガーを引く。銃口に蓄積したエネルギーが杭の形となって放たれ、射抜かれたコアが背中を突き破って露出したが、すぐさま欠片となって砕け散った。


「グオ、オオ、オオ……」


 無念と唸り声を残して、供給源を断たれた巨体がボロボロと崩れていく。崩壊を確認し、ハルは安堵の息を吐いた。


 セリヴィエットがプレッシャーを掛けてくるものだから一時はどうなるかと冷や冷やしたものだが、単体だった分ライノスよりも楽な相手であった。


「って、そのライノスがまだ残ってるんじゃないの!?」


 猛然とダッシュして、シェルターへと急ぐ。既に戦闘が終了しており、彼の思い込みが杞憂だと判明するのは、セリヴィエットら3人がコアを回収している場面へとハルが到着してからのことだった。





 マクシミリアンは興奮していた。無理もない事だった。手塩に掛けて育てた息子が、単身でドルメルスを粉砕せしめたのだ。


「すげぇだろ、俺の息子はよ。今日も雑に100は軽くブッ倒してきやがったんだぜ?だってのに見ろよ、まだまだ動きやがる。次の世代ってもんかねぇ、これが」

「――」


 ヴィクトリアは押し黙った。それだけスピリット・クォーツが出現している事態もさることながら、娘と同年代である少年が、たった一人で殲滅した事実がヴィクトリアの口を噤ませる。


「先輩、彼は」

「ヴィッキー、お前は俺を最強だって持ち上げてくれたっけなぁ。俺も若ぇ頃は自分がめっちゃ強ぇと思ってたし、最強だって胸張れたさ。でもよ、その最強は今はこう言うのさ」


 傍らに立つマクシミリアンを見上げた。かつて最強と持て囃されたときと同じ、迷いない目だった。


「――俺の息子が、世界で最強だぜってよ!」



小さい女の子が身の丈以上の武器、特にポン刀とか振るってるのってアンバランスな浪漫がありますよね


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