シャムロック
僕は数年前から時々同じ夢を見る。
顔が分からないショートの女の人が泣きじゃくってる姿を。
そんな夢を見て必ず僕は涙を流して目が覚める。
─ 時は2020年 ─
僕の名前は高梨 周次、2000年生まれで二十歳のごく普通の理系大学2年生だ。
何気ない平凡な大学生活も、はや2年が経過し、2度目の春が訪れた。
中村 「なぁ高梨〜、またバイト辞めたのかよ。」
周次 「スーパーのレジ打ちってした事ある? クレーマーとかパートのおばちゃんとか対応するの嫌になっちまうよ。おまけに男は俺だけだったしクレーマーに絡まれるのなんでいつも男の俺なんだろうな〜」
中村 「いや〜した事ねぇけど。まぁクレーマーでも若い女の子とかには気が引けるんじゃないのか?」
おっと、説明が遅れたが、こいつの名前は中村 祐介、人間関係が浅いこの俺でも1年の時から今までなんだかんだ仲良くしてる奴だ。
周次 「いや、そんな可愛い子居なかったよ、マジで。
まあ、そんなもんで絶賛バ先募集中〜。中村、なんかい
いとこない?」
中村 「俺のバ先くる? 合うかしらんけど。」
周次 「お前のバ先って喫茶店だっけ?とりま受けてみようか
な」
中村 「じゃあ、授業終わったら店に電話かけて見るわ。」
周次 「サンキュー、助かるわ」
ー1時間後ー
中村 「高梨〜、店長が人手不足だからすぐに面接来てくれっ
てさ。今日行ける?」
周次 「まじか、いくいく!」
中村 「んじゃ、俺今日5時出勤だから一緒にバ先行くかー」
周次 「じゃあ4限までに履歴書書いとくわ!
それより、履歴書って購買に売ってんのか?」
ー数時間後ー
店長 「高梨 周次 君だね。祐介君から聞いてるよ。
とりあえず、喫茶店レトロにようこそ。早速なんだけど
これ来週のシフト、出れる日を書いてくれるかい?」
周次 「あ、はい、ありがとうございます。」
補足だが、喫茶店レトロは全国展開している喫茶店チェーンだ。が、しかし、なんでもチョロすぎないか?
チェーン店店長恐るべし。
ー6月のある日ー
新しいバイトを始めて2ヶ月が経とうとしていた。
なんだかんだ上手くやれてる。
中村 「高梨〜、伊藤サンが2階の吉沢書店の女の子と合コンし
ようって言ってんだけど、お前も来ない?」
周次 「まじか!行こっかなぁー!」
中村 「んじゃ、来週の土曜日にやるから来いよ〜」
補足だが、伊藤さんはバイト先の歳がひとつ上の先輩。
うちのバイト先があるのは3階建ての小ビル?
みたいな所だ。1階は不動産屋さん、2階は吉沢書店が入ってる。吉沢書店もチェーン店らしい。
ちなみに僕は高校時代きり彼女が居ない。果たして大学生活に春は訪れるのだろうか? このイベント利用しない訳が無い。
ー合コン当日ー
集まったのは男女4人ずつ、駅ビルの上の屋上でバーベキューをやるみたいだ。
中村 「えー、なんで合コンなのに酒が無いんすか?さみし〜」
伊藤さん 「合コンって言っても今回は健全なの。
てゆうか君たちまだ未成年でしょうが、年確された
らアウトでしょうが。」
伊藤さん 「じゃあ皆さん〜、学生証か定期券貸して〜」
伊藤さんは男女で集めたカード束をシャッフルして、1枚ずつ席に置き、各自席が決まった。
席はテーブル2つで4席ずつ、テーブル同士は割と距離がある。僕のテーブルは隣が中村、前が女の子2人
あっちのテーブルは伊藤さんともう1人の先輩と女の子2人だ。
「僕は、高梨 周次。二十歳です。」
僕が自己紹介をして各自の自己紹介が終わった。
中村の前に座ってるのが、一個年上の 鈴木 一音さん。大人っぽくて色気がある。ショートヘア、前の彼女がショートヘアだった。髪型がタイプだ。
そして僕の前に座ってるのが、同い年の小野 沙也花さん。少し大人しそうで顔はタイプかも。少し短いロングヘア、これはセミロングってやつか?
バーベキューも始まり、話が盛り上がってきたところ、
鈴木さん 「今度は、周次くんの聞きたいな〜」
周次 「あれ、なんの話でしたっけ?」
中村 「おい、ボケっとしてんなよ。将来何したいかって話だ
よ。」
周次 「あ〜、そうだった、そうだった。う〜ん、やりたい事も
ないし、起業でもしようかなぁ〜」
やばい、考え事してて話の内容全然頭に入ってなかった。
え、もうみんな言ったの?中村のはいいとして、鈴木さんと小野さんは?うーん、気になる!!
小野さん 「起業って凄いね!どんなのやりたいの?」
周次 「ファッション系?服とか売ってみたい。」
と、適当な事を言ってみる。起業したいとかも大嘘だ。将来やりたいことが無いのは本当だけど。実際働きたくない、ニート極めたい。将来の夢が無いわけではない。
でも人に言えない程の馬鹿げた夢だ。
出来ることなら、あの夢の中の彼女を笑顔にしたい。
鈴木さん 「へぇ〜、お洋服屋さんか〜、なんかお店の名前って
決めてたりとかするの?」
周次 「うーん、ルーラルリサーチとか?」
中村 「お前それって、アーバンのパクリじゃん。ちょっとは捻
れよ。」
咄嗟に思いついた渾身のネタだったが、あまり受けが良く無かったようだ。ある1人を除いては。
鈴木さん 「沙也花?どうしたの?」
小野さん 「あはは、ヒーヒー」
鈴木さん 「あらら、沙也花ちゃんツボっちゃったよ。
周次君、 この子笑いのツボおかしいのよ〜。」
ああ、良かった。滑ったかと思ったけど、助かった。
ナイス!小野さん。でもそんなに笑うもんなのか、普通。
中村 「おい、高梨。何泣いてんの?」
周次 「え、?」
目の前で笑いのツボにはまってる、彼女の笑顔を見ていたら何故か僕は涙を流していた。
周次 「いや、別に。タマネギ生で食ってみただけ。」
中村 「いや、焼いてから食えよ。」
鈴木さん 「もう!周次君ったら!」
小野さん 「アハハ。」