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小さな暗殺者

テトの後について、私は夜道をひた走る。


事件は宿から走って1分ほどの、近い場所で起こっていた。


現場に到着すると、すでに何人かが集まっており、襲われた人を囲んでいた。その場の雰囲気から、襲われた人はすでに帰らぬ人となっていることを悟る。


壁に着いた血。あたりに立ち込める血の匂い。嫌でも()()()の事を思い出す。私は唇を嚙み締めた。


「ご主人!こっちです!」


テトが再び走り出した。私も後を追う。


「テト!犯人の匂いがわかるの!?」


「ええ。血の匂いの中に、微かですが魔力の匂いを感じます。まだ遠くへは行っていませんよ。気をつけてください!」


魔力に匂いがあったことも驚きだが、魔力があったということは、犯人は魔女ということなのだろう。……ダメだ、今は落ち着け。とにかく犯人を捕まえること。話はそれからだ。


テトが立ち止まった。そして、その周りの匂いを嗅いでいる。


「どうしたの!?」

「一瞬匂いを見失いましたが、大丈夫です。匂いは上に向かってーーあいつです!!」


建物の屋上に、そいつは立っていた。小柄な体に、魔女のローブを着ている。間違いない!


小柄な魔女は私たちに気が付いたのか、屋上から屋上へと飛び移り、逃げ始めた。


「待ちなさい!追うわよテト!」


追いかけっこが始まった。建物を飛び移りながら逃げる彼女を、地上から走って追いかける。


なんという身のこなしだろう。彼女は飛ぶように高く、大きくジャンプし、建物の高低差も難なく乗り越えていく。このままでは振り切られる!


「ご主人!前から何か近づいてきます!2匹、3匹です!」

「何?野良犬?」


なんという最悪のタイミング。相手にしている時間もないのに!


「ご主人。野良犬はボクが引き付けておくので、犯人を追ってください!大丈夫です。けんかには自信がありますから!」


そういうとテトは立ち止まり、野良犬を引き付けるためだろうか、遠吠えをした。この場はテトに任せるしかない。そう言っている間にも彼女を見失いそうだ。


迷っている時間はない。私は剣を抜き、2本とも逆手に持った。


「待ちなさいって、言ってるでしょうが!!」


剣の刃を地面に向けて、大きく振りかぶる。そして自分の足元の地面めがけて、勢いよく振り下ろした。


炎流演舞(えんりゅうえんぶ)舞飛火魚(ぶっとびうお)!」


ドーーンという音とともに、高く飛び上がった。剣の先から炎を強く噴射しその勢いで飛ぶ、師匠の技を参考に考えた私のオリジナル技。ちなみに高く飛べるというだけで飛行はできない。


建物の屋上にいる彼女を確認。私は彼女の行く手を遮るように着地した。


「やっぱり魔女は、飛んで()()()でしょ」


小柄な魔女はあっけに取られているようだ。


「追いかけっこは私の勝ち。観念しなさい。聞きたいことが山ほどあるのよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ただの野良犬じゃないな……」


漆黒の大きな体に、不気味に赤く光る目。今まで見たこともない生き物3匹と、テトは相対していた。


しかし、テトが最も不気味に感じているのは、謎の生き物たちから感じる()()()()()()()()だった。


「あの魔女を追っかけている時に出てきたのは偶然か?お前たちも一枚噛んでるのか?」


この生き物たちはテトの話を理解しているのだろうか。息を合わせたように、3匹が一斉にテトへと飛び掛かる。


テトはその場から動かない。襲われているこの状況で、余裕の表情を崩さない。


そして静かに一言、こうつぶやいた。


「まぁ何にしても、君たちじゃボクは倒せないよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「アンタ……、なんて顔してんのよ」


この狭い屋上で戦闘が始まることを覚悟していた私だったが、彼女の心底おびえたような表情に、完全に戦意喪失してしまった。


よく見ると体も震えている。ナイフを構えてはいるが、刃先をこちらに向けるのをためらっているように見えた。


演技か?それにしてはクサ過ぎる。そんなことを考えている時、彼女が突然口を開いた。


「お、お願いします魔女さん!今回だけ、今回だけは私を見逃してください!」


震えた声で、確かにそう言った。深々と頭まで下げている。私はますます混乱した。


「あのねぇ……。自分が何言ってるか分かってるの?」


「必ず、必ず罰は受けます!でも、今は捕まるわけにはいかないんです!」


「自分が悪いことしてるって理解してるんじゃない」


この少女が、ただの快楽殺人鬼でないことは分かった。だが理由があろうとなかろうと、人を殺したことに変わりはない。私のやることも変わらない。


「見逃すってのは却下よ。拷問したりとかはしないからおとなしく」

「魔女さん!危ない!」


彼女が声を上げなければ気が付かなかったかもしれない。上空からの生き物による襲撃を、ギリギリでかわした。


黒い……鳥?見上げると、暗くて見づらいが何匹もいる。そして私に狙いを定めたように急降下してきた。


「何なのよこいつら……!」


漆黒の体に赤い目。尖ったくちばしにするどい爪。ただの鳥じゃないことは明らかだ。


「魔女さん、ごめんなさい!」


私が鳥の相手をしている隙に、小柄な魔女はとなりの建物に飛び移った。


「待ちなさい!」


鳥による連続攻撃のせいで、声を上げるのが精一杯だった。彼女はあっという間に見えなくなった。


そして、小柄な魔女が去っていったのと同時に、鳥たちも夜の空へと消えていった。




「ご主人ーーーー!!!」


下からテトの声がする。必死に走ってくる様子が見えた。


「怪我はありませんかーー!?」

「大丈夫よ。そっちは?」


もちろん大丈夫です、と元気な答えが返ってきた。私は剣を収め、屋上から地面に飛び降りた。


着地の瞬間、足が痺れる。


「技の補助なしで飛び降りられるのは4階が限界ね。イタタ……」



テトは何も聞いてこなかった。結果だけ見ると、私は犯人を取り逃がしたのだ。さっきまでの出来事を話そうと思ったが、テトが先に口を開いた。


「宿に戻りましょうご主人。少し疲れました」


「……そうね。私も疲れたわ」


テトと私は宿の方にゆっくり歩きだした。


結局、犯人は魔女だということが分かっただけだった。マリナーが止めるのも聞かずに飛び出し、テトのサポートがあったにもかかわらず、最後は自分の不注意で犯人を取り逃がした。


情けない。


とりあえず、帰ったらマリナーに謝らないと……。


その時、目の下から急に暗くなるような感覚に襲われた。平衡感覚を失い、私はその場にパタリと倒れてしまった。


テトが私に呼び掛けている。その声がだんだん遠くなっていった。私は倒れたまま意識を失った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


小柄な魔女、ニーナは()()()()()()もあり、無事シエルから逃げることができた。


「あの魔女さん、怪我してないといいけど……」


ニーナは誰もいないことを確認すると、古い一軒家の中に入った。


「ただいま、お母さん」


お母さんと呼ばれたその人は、部屋の隅に横たわっていた。ニーナは傍に駆け寄ると、お母さんの手を取り、ぎゅっと握りしめた。


「もうちょっと、もうちょっとだからね。全部終わったら、前みたいにいっぱいお話ししようね、お母さん」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


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