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旅の始まり 2

 次の日。私は実家の前で、手を合わせていた。


 メルクリウスさん、改め師匠の言っていた通り、母は丁寧に埋葬されていた。


 師匠の家から実家までは、歩いて20分くらいだ。毎日は無理でも、定期的に来ることにしよう。


 私の隣では愛犬のテトも目を閉じている。


「早速今日から修行なんですよね。お母さまも見守ってくれていますよ、きっと」


「…そうね。テトも()()()見守ってくれたら嬉しいわ」

 昨日のアレは、やっぱり夢じゃなかったみたいだ。


 それじゃあお母さん。また、近いうちに。


 私は駆け足で師匠の家に戻る。



 シエル・レッドソード、12歳。魔女になるための修行の日々が、始まった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 修行1日目


 最初はストレッチと体の動かし方の訓練だった。魔力うんぬんの話が始まると思っていたから、ちょっと意外だ。そして、筋力トレーニングのメニューを渡された。しばらくはこれらを続けるそうだ。



 修行40日目


 この人は本当に私を魔女にする気があるのかと思い始めたころ、ついに魔力のトレーニングが始まった。でもそれは思っていたより地味で、3つの魔力操作を繰り返し行うというものだった。


 魔力を体中に巡らせる、対流

 魔力を手から外に出す、放射

 魔力をものに伝える、伝導


 これらの動作を、無意識にできるようになるまで練習しろと言われた。もちろん、運動訓練と筋トレも欠かさない。日課が増えた。



 修行55日目


 師匠の部屋にあった本に、成長期に筋トレをし過ぎると、身長が伸びなくなる恐れがある、と書いてあった。師匠に相談すると、

「大丈夫。私の身長は178センチだ」

 と、訳の分からない返しをされた。



 修行90日目


 どうやら私は魔力を外に出す、放射が苦手らしい。逆に得意なのは伝導だ。それを知った師匠は、明日から剣の修行もするか、と言った。意味がわからなかったが、剣に魔力を流して戦うという方法があるそうだ。



 修行91日目


 木刀を使った修行が始まった。剣じゃなくて杖もあるとのことだったが、剣の方がかっこいいので剣にした。しばらくは素振りだ。



 修行187日目


 今日から一日20分、師匠が剣の相手をしてくれることになった。20分は短すぎると思ったが、稽古は5秒で私がダウンして終わってしまった。師匠は強すぎだ。



 修行223日目


 思い付きで、二刀流がいいと師匠に言ったら、いいんじゃないと言われた。今日から二本の木刀を素振りすることになった。



 修行352日目


 相変わらず放射は苦手だが、魔力操作はほぼ完ぺきになっていた。師匠は魔女のもつ基本属性と副属性について教えてくれた。


「基本属性は土・水・火・風。皆4つのうちのどれか一つだ。副属性も基本は同じだが、特殊なものをもってる魔女もいる。副属性は1つの魔女もいれば、3つくらいもってる魔女もいる。これは生まれ持ったものだから仕方ないな」


 私の基本属性は火。副属性は風だった。ちなみに師匠の基本属性は水。副属性は風と土だ。


 基本の技や決められた型といったものは無いらしい。


「基本属性と副属性の組み合わせは人それぞれだからな。皆自分で考えて、練習して、属性を自分のモノにしていくんだ。シエルもやっとスタートラインに立ったってことだな」



 修行355日目


 どうしても技のイメージが浮かばないので、師匠の技をいくつか見せてもらった。なんというか、すごかった。師匠は技に名前を付けているようで、理由を聞くとその方がかっこいいからだという。同感だ。私もそうしよう。



 修行402日目


 朝、師匠は私に一組の刀を手渡した。

「これは魔力を溜められる特殊な金属で作られた刀だ。シエルの戦い方にぴったりだと思ってな」


 私は刀を手に取って魔力を流し込んでみた。するとその手を放しても、刀は私の魔力で赤く光り続けていた。今日からの修行は、コレを使うことになった。



 修行763日目


 木刀の稽古で、初めて20分やりきった。師匠は何も言わなかったが、その日の夜ご飯がちょっぴり豪華だった。



 修行764日目


 ついに実践的な修行が始まった。内容は師匠の技をひたすらかわし続けるというもの。目標時間は10分。私が一撃でも食らったらおしまい。今日の記録は3秒。



 修行987日目


 回避の修行の際、私も技を使うことが許された。ただ、目標時間が15分に延ばされた。今日の記録は6分22秒。



 修行1421日目


 ついに、ついに、15分間逃げ切った。私がテトと喜びを分かち合っていると、師匠は私に言った。


「7日後に最後の稽古をする。それまで、木刀の稽古も回避の修行も休みにする。体を休めておけ」



 修行1428日目


 朝から雨が降っていた。


 いつもの場所に行くと、師匠は初めて会った日に着ていたコートを着て待っていた。


「時間は無制限。私から一本取れ。それだけだ」


 よく見ると、師匠は短いステッキのような物を持ってる。師匠の魔道具だろうか。初めて見る。


 いつもの雰囲気とは明らかに違う。これが最後の稽古…。私はゆっくり刀を抜いた。


「始めるぞ!!」


 師匠がそう叫んだ瞬間、雷が鳴った。それとほぼ同時に、特大の水の弾丸が飛んできた。


 私が最初にくらった技。最小限の動きでかわし、距離を詰めるために走り出す。


 今度は地面から泥の弾が飛んでくる。この技も知っている。体のひねりを加えたステップでかわし、それ以外は刀ではじいて対処する。


 突然下から強い風が吹き、空中に飛ばされた。さらに下から鳥の形をした水の塊が2つ、まっすぐこちらに飛んでくる。

 この技も知っている。空中で息を整え、刀に魔力を込めて師匠の技を迎え撃つ。2羽の鳥は跡形もなく消える。


 着地すると、またすぐに走り出した。師匠のところまでもうすぐだ。



 何だあれは。師匠が見たことのない構えをしている。私の知らない技を出そうとしている。立ち止まるわけにもいかない。でもここまで近づいて、後ろに下がるのは嫌だ!


水流演舞(すいりゅうえんぶ)泡物(あわもの)針花火(はりはなび)


 シャボン玉?が数えきれないほど飛んでくる。迷っている時間はない。一か八か、私も師匠の知らない技を出すだけだ!3日前に完成したばかりの、あの技を!!


 左手の刀を逆手に持ち替えて、刀に火の魔力を流しながら、片足を軸に体を回す。同時に風の魔力を出して、火と風の魔力のバランスに注意して、最初に起こした風に上乗せしていくように。後は、体を思いっきりねじるっ!


炎流演舞(えんりゅうえんぶ)火災旋風(かさいせんぷう)!!!」


 現れた巨大な炎の竜巻。泡とぶつかった直後、激しい爆発。あたりは煙に包まれた。




 煙が少し晴れた。私は、後ろから師匠に刃を向けていた。師匠は特に驚いた様子は見せなかった。


「ああいう時は普通距離をとるもんだぞ。相殺できなかったらどうするつもりだったんだ?」


「考えてーませんでした。それに私ー前に進んでーいたいので」


 息を切らしながら答えた。


「…言うようになったじゃないか」

 笑いながら言った。師匠の笑顔を見たのは久しぶりな気がする。


 そして私に向き直った。



「シエル・レッドソード。お前を魔女として認める。本当に、よく頑張ったな」



 今の気持ちを表す言葉は、この世界には存在しないだろう。


 私は師匠に抱き着いていた。そして泣いた。泣きながら、笑っていた。


「…なんだ。中身はまったく成長してないじゃないか」


 そう言う師匠も、少し涙目になっていた。


 いつの間にか、雨は止んでいた。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 シエル・レッドソード、16歳。約4年の修行を経て、私は魔女になった。


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