シエルちゃんの、ちょっと寄り道 その1
夜ご飯を食べ終わった後。
「あ」
メルクリウスさんが突然素っとん狂な声をあげた。
「すっかり忘れてた。シエルの家の近くに犬も倒れてたんだよ。今外につないでるんだけど…」
そこまで聞いて私は立ち上がり、急いで外に出た。そこには、一匹の犬が行儀よく座っていた。 私の愛犬テトだ。緊急事態だったとは言え、愛犬のことを忘れるとは、飼い主失格だ。私はテトを抱きしめた。
「テト!無事だったのね!」
ああ、このモフモフ、この匂い、そしてこの温かみ。久しぶりというほどではないのだが、それらすべてがとても心地よかった。
「ボクも心配しましたよ!ご主人はなかなか目を覚まさないし、お母さまはあんなことになってしまったし…」
「ごめんね。心配してくれてありがとう。もう大丈夫だから」
一人と一匹は、再会の喜びを心ゆくまで味わった。
「……」
「……」
一人と一匹の、割とガチな叫び声が響き渡る。
「あ、あんた今しゃべって…!何、どうなってるの!?…ああ、やっぱり私疲れてるんだわ。こんな夢を見るなんて」
「夢じゃないですよ!それにご主人こそ!なんで急にボクの言ってることが分かるようになったんですか!?」
なんの騒ぎだい、とメルクリウスさん登場。私は必死にこの状況を説明する。
「そりゃしゃべるだろ。こいつは魔獣、魔力を持った犬だからな」
彼女は何当たり前のこと言ってるんだ、みたいな顔で答えた。
そりゃしゃべるだろ?まじゅう?
……私は考えるのを止めた。
明日からは修行だ。早く寝よう。
「いや~ボクは嬉しいですよご主人。これからはたくさんお話できますね!」
「あーあー、何も聞こえないわ。メルクリウスさん、今日はもうお休みさせてもらいますね」
「アレ?ご主人もしかしてボクと話すのが恥ずかしかったりします?も~ご主人ったらたまにかわいいところあるんですから~」
と、まあこんな感じで。簡潔にまとめると、飼い犬がしゃべりだした。