シエルちゃんの、ちょっと寄り道 その2
「ごめんね。私、わんちゃんがチョコレート食べれないって知らなかったの」
「知らなかったのなら仕方ねぇよ。あとわんちゃんじゃなくて、テトさんって呼びなさい。ボクの方が年上だぞ」
ニーナは両手を合わせてテトに頭を下げている。テトはニーナとの間に上下関係を築こうとしているのか、毅然とした態度でふるまっている。なんか笑える。
「犬はチョコレートダメだけど、テトは大丈夫だと思ってたわ。この前だって、弁当に玉ねぎ入ってたけど、何も言わずに食べてたから」
「え……。いや、アレは何というか、本当はダメなんだけど気合入れれば何とかいけるっつーか。まぁ……そんな感じですよ」
「にんにくも普通の犬はダメよね。弁当に入ってたけど……」
「いや、それも歯食いしばれば大丈夫っつーか……。もうこの話やめません?」
「牛乳はどうなの?」
「犬に与えてはいけないものランキングベスト3に確実に入ってますよそれは! なんすかあの白い液体は。気持ち悪すぎでしょ。一番許せないのはあの口にいつまでも残ってる舌ざわりと臭み。アレが好きって正気ですか? そもそも牛乳って牛の子供が飲むやつでしょ。そんなに牛乳飲みたいなら、牛さんトコの子になっちゃいなさいって話ですよ。あとずっと言いたかったんですけど、カルシウムは魚と野菜で取れますから。わざわざ牛の乳の世話になんて……(略)」
「……」
「……わんちゃんってもしかして、好き嫌い、多い?」
「……ニーナちゃん。好きなものを好きだと、嫌いなものを嫌いだと、そうハッキリと言えるって素晴らしいことだと思わない? 趣味嗜好は犬それぞれ。頭ごなしに否定するのではなく、まずは尊重し合うこと。それこそが多様性社会への第一歩だと、ボクは思うね。あとテトさんって呼んで」
「斬新な開き直り方ね」
「逆にニーナちゃんは嫌いな食べ物とかないの?」
「私はないよ。お母さんが言ってたもん。好き嫌いせず何でも食べれば、大きくなれるし、体も丈夫になるって! 私もお姉ちゃんみたいに強くなれるかな?」
「ニーナは偉いわね。きっとなれるわ! 一緒に頑張りましょうね!」
昨日までの涙が嘘のようだ。まるで本当の姉妹のような2人。笑顔が増えたのはニーナだけでなかったようだ。これからどんな困難にぶつかっても、この2人ならきっと乗り越えられるだろう。旅はまだまだ始まったばかりだ。
「え。何これ。終わり? 嘘でしょ!? 待って待って。今のとこやり直しで。あ、そうだご主人。ボクのど乾きました。牛乳にチョコレート溶かしたヤツ飲みたいでーす。2人とも本当に待って! 置いてかないで! ……今回ボクのイメージが下がっただけじゃんかよぉぉぉぉぉ!!!」