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真夏飽く【AIR二次創作】

作者: 林檎飴

プレイしたの昔だからうろ覚えのところもあるけれど、覚えている本編の要素を少し入れています。

本編要素と私の少しの妄想が「真夏飽く」を構成しています。でhでh。

夏のじめじめな空気、こんな日はあれ。喉が渇く。

真夏の青空、燦々陽射しの中、防波堤から見られる海は、私には広大すぎちゃった。


鳥になれたら、あの大きな海を飽きるまで空から眺めることができるのだろうか。

静かな海だけれど、もう少し遠くへ行ったら、きっと───どうなんだろ?もしかしたら、どこへ行っても海の様子はそう違いないのかもしれない。




「……あついなぁ…………」




この町での暮らしは楽しいし、友達はいないけれど、独りでだって遊べる。もっと遠くの海を見てみたいって思うけど、別に肌で海の空気を感じたいというほどの欲も無い。

誰かが、遠くの海で撮った写真を私に見せてくれて、それから「こんなことがあった」などと話してくれさえすれば私は嬉しい。


誰かが話してくれる物語を共有できさえすれば、もうそれだけで幸せなのかもしれない。


防波堤を降りて、私は近場の自動販売機まで駆けよる。どれもおいしそうだから迷ったけれど、結局は|どろり濃厚、ピーチ味にした。やっぱり定番の味が一番なんだろうなぁ。




「……おいしい、けど……やっぱりあつい」




正直なところ、真夏の暑さは慣れない。夏の熱気に取り込まれるような、この感覚に慣れる訳なんてなくって、つまり、その暑さに我慢するという決意が生活の中で生まれるだけの話なんだ。


辛くないなんて話はない。けれど我慢するくらいしか暑さに耐える方法が無いから、私は夏の間笑顔でいるようにしている。誰かとお話できればこの暑さを共有できるんだけれど、私には友達がいないから、やっぱり独りで笑っているしかできないんだ。平気だって、強がるくらいしかできないんだ。風が吹く暮らしの中で。


こんな真夏の暑さは、やっぱり慣れるなんてできない。でも、飽きてしまうくらいには退屈な暑さだった。


力強い陽射しは私の肌を焦がすように照るけれど、もう何年も味わってきた苦しみだからこそ「今年もこの暑さがやってきた」と、諦めるくらいしか感想が浮かばない。

もしも私に翼があったのなら、避暑地にでも飛んでいけるのかな?




***




熱したフライパンみたいに熱いアスファルトの上を私は歩く。子供たちの喧騒、少し遠すぎた。

防波堤から見える子供たち、みんな楽しそうに笑っている。私はそれを見て笑うけれど、でもどこか致命的に、笑みにズレがあって思えた。


ずっと子供たちを、防波堤の上から見下ろしているけれど、みんなが「また明日ね」と言って解散しても、結局最後まで私には気づいてくれなかった。頬に触れていた風はいつの間にか消えていた。さっきまでの風は、何だか暖かくて冷たかった。


空はもう暮れて、カラスがカァカァと鳴く時間。背に建つ学校の校舎に人影は見られない。

涼しそうな青空はもうなくって、今はもう暑い色をしていた。


防波堤の上で仰向けになって、空を見上げる。夕焼け小焼けでまた明日。そのまた明日を言える人なんて、いないというのにこの空の暗い色彩。私は寂しくなった。


クラスのみんなとは友達になれないし、だから上手く話すことさえ叶わない。

ずっと独りぼっちの夏。それが延々と、そして永遠に続いている。そしてそしてただの風が吹くだけ。

大の字に広げた手をさわさわと、草木の葉のように揺らし、夏の空気の中を精いっぱい動いてみせる。


こうやって何をやっても何となく楽しい日々だけれど、でも変わり映えしないのは流石に退屈になる。


目に映る物事を頑張って楽しんで、最期には空を見上げる。それだけの日々はやっぱり飽きてしまいそう。

───どうか、今年の夏は特別な思い出になりますように……。幾度と私はそう願ってた?

そう祈らずにはいられないほど、私は今の生活に退屈していたんだ。

嫌いじゃなくて、むしろ大好きな街なんだけれど、それでもこれまでとは違う明日が見たい……。




***




真夏の空気はやっぱり体に悪いと思うんだ。厚い毛布なんて被ってもいないのに、朝起きると背中がじんわりと濡れていた。体が何だか気持ち悪いから私は部屋の窓を開けることにした。




「うー涼しい」




頬をぴゅーっと掠める風や、いっそのこと体全部を包んでしまいそうな風。これらの風が吹いた時だけ、私はこの夏が少しだけ変わったのかもと想える。

体がすっきりとした。まるで世界から私だけ切り離されたのかもと錯覚してしまえる。けれど、不思議とソレが私には幸せだと感じられた。


でもその一風はすぐこの世界から消えてしまって、私はいつも通り、暑いだけの世界に戻っていた。




「ごはん食べよ……」




私は台所に向かって、がさごそして、取り出したフライパンを熱して目玉焼きを一つ作り始める。目玉焼きは朝のてっぱんだし、朝ごはんとして、やっぱりこれは外せない。たまには別のものを食べてもいいけど、困ったら目玉焼きというくらいには、もう日常になっている。


こういった日常を変化させたい、またどこか遠くに行きたいというのであれば───それは非日常を日常にしたいという意味になるんだろうか?じゃあ、これまでの日常はどこかで抜け落ちてしまうんだろうか。

前に進もうとするだけで、この目玉焼きも食べられなくなっちゃうんだろうか。というか、卵の無い国ってあるのかな。でもどろり濃厚、ピーチ味くらいならあるよね。美味しいし。


そうやって考えてみると、”一人で”遠くに行き過ぎるのはダメなのかもしれない。記憶を共有してくれる誰かがいなきゃ、私は勇気を出せない。




***




気付けば青空照っている。今日もまた一人防波堤で寝転んでいる。どうせ変わらないんだ、夏。どうせ一人で歩き出せる勇気がないんだから。

歩けば歩くほど世界を失ってしまいそうで、前を向けば向くだけ見える世界がいつ壊れるか不安に、そして曖昧に見えてしまう。

大空は果てしなく広がっているけれど常に動いているのは確か。


永遠は、あるのかな。そんな眉唾をこと本気で考えるくらいには、今日の私はどうかしていた。真夏の暑さに狂ったんだろうか。じゃあ私、”いつ”から狂ってた?


私は今何処にいるんだろう。独りぼっちの世界、私はいったい誰なんだろう。神尾観鈴は私だけれど、私が私である答え合わせは自分でしか出来ない。


なら、私は案外神様なのかもしれない。




「うーんきもちいなぁ」




風が吹く。その空気の動きを手で掬ってみようと手を風に当てるけれど、やっぱり何も残らなかった。その風が吹くことで何かが変わったのだ、とまたしても想ってしまう。

でも目にはやっぱり何にも見えない。ナニカを感じるだけ。


でもでも、きっと何かが変わっている。この曖昧な空気に、ドコカ既視感を覚える。

横目に見えた木の夏影は、いつかの、遠くにかつてあった、遥かな夏───それを感じられた。風鈴のように、涼しい風景だった。でもちょっと泥臭い。賑やかな感じ。


瞳には木漏れ日が張り付いて、いつまでもいつまでも世界が違って見えた。


何だかそれが妙に懐かしくて、防波堤から降りてそっちまで向かった。




***




木陰はより色が濃く 空はなおも煌々と

黒い翼は血流のどくどくが歩んできた証


黒い翼が青空より参れば 夏影はなおも濃く

ああそっか これは楽しいってこと

私は今日もシンデレラだった そっか

がおーと叫んじゃいそうだったけれど 私は我慢

だって空気が風になってそれを叱るから


どんなに今を溢れさせても 過去は帰ってこないんだから

私は待ち続けるしかないのかもね

新しいそらが来るのを待っている




***




「あれ……?」




何だか木陰に可愛いカラスがいた気がしたんだけど、勘違いだった。でも寂しくなかった。そのカラスがいつか私の元まで来てくれるっていう確信があったから。

今は無風。何だか今日もいつもと変わらない暮らしだった。でも、いつかきっと変えられちゃうんだ!にはは。


まだ空は明るいけれど、今日は家に帰ろう。”誰もいない”独りぼっちのおうちにゴーゴーだ。


軽いだけの足取りで、”誰もいない”町を私は一人歩く。

案の定商店街には”誰もいなかった”。

そうして今日も孤独に私は歩み続ける。


やっぱりそれはとても寂しいけれど、何だか待ってみるのも悪くないって思えた。

そういえばこの世界、いつの間にか私が独りぼっちの世界になってたけれど、何となく理由を思い出せた。

空気を肌で感じれば時々思い出せる。いつかの遠い記憶。


なら待ってみるのも悪くないかなって思える。

だって私は一人で遊ぶのが得意なんだから───。

そしていつか来る手の感触が、二人で至る永遠になればいいな。




『真夏飽く』<了>

昨今、鍵作品の話を友人とするとABCのアニメの内容ばかりだったりするのですが、私的に一番好きな鍵作品はAIR。ゲームもアニメも今じゃ古の話ですから、友人とあまり語れない。つまり、私の愛は誰とも語り合えないことになる。

尤も、私のAIRは全年齢なうえにゲームとアニメそれぞれ一周しかできていないにわかですが……。けれど、私がAIR好きなのは事実でして、様々な葛藤の末、今作を書くに至った訳です。ちなみに、時系列的にはアフター的な感じなんですね。


この程度の内容ならば、古の二次創作の足元にも及ばないのでしょうが、けれど、何となくAIR愛を歌いたかったのです。

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