第9話 飛べない鳥
わたしは飛べない鳥。
例え両翼が無事でも、心の翼が折れていては飛べはしない。
だから、わたしは飛べない鳥。
わたしは群れから袂を分かち、ただ一人、灰色の大地に佇む。
みんなは、力強く未来へ向かって飛んでいった。
それを見ることしか出来ないわたしを、誰も気に留めることなく。
わたしは、みんなと同じようには飛べない・・・だから、仕方がないんだ。
でも。
わたしも、同じように飛んでいきたい。
その気持ちだけは、誰にも消せはしない。
わたしの、心の奥底に眠る大切な火種なのだから。
ある日、突然現れた、メガネの魔法使いさん。
その魔法使いさんは、「キミは飛んでもいいんだよ。」と言って、とっておきの魔法をかけてくれた。
心の翼を直す・・・とびっきりの魔法を。
・・・なんだか、心が強くなったような気がした。
ひょっとして・・・本当に飛べるかもしれない。
ちょっぴり怖いけど、飛んでみよう!
わたしは、目一杯の助走をつけながら、5年間使うことのなかった翼を大きく広げ、大地を勢いよく蹴る。
―――飛べた!
とても久しぶりだから、うまくは飛べない。
高くも飛べない。
それでも・・・今わたしは飛んでいる。
なんて気持ちいいんだろう。
こんな気持ちは、ずっと忘れていたよ。
広げた翼に風を受けながら、頼りなくも飛び続けるわたしを、あの魔法使いさんは見てくれているだろうか?
そっと振り返ったけど、姿はもう見えなくなっていた。
どこに行ってしまったんだろう?
先に行ったはずの群れは、はるか遠くの、はるか上空を飛んでいた。
もう一度あんな風に飛べるかな?
・・・さあ?
それは、やってみなきゃわからない。
―――もっと高く。
―――もっと遠くへ。
やってみるよ。
この翼が動く限り。
あの忌々しかった灰色の大地は、はるか遠くに見えなくなった。
心地良い浮遊感は、わたしの五感を絶え間なく刺激する。
そして、わたしは、この大空に溶け込むような感覚に酔いしれた。
やがて、眼下の景色は、見渡す限りの大海原に変わり、さわやかな潮の香りが鼻をくすぐる。
青い空のど真ん中で、強烈な自己主張をする太陽の光が、燦々と照りつける。
水面に反射する光がキラキラして・・・とてもキレイ。
まるで、わたしを祝福してくれているようだ。
この飛んだ先には、何があるのだろう?
いや、何があったってかまうもんか。
だって、今は飛べるだけで嬉しいから。
力いっぱい広げた翼に受ける風が、最高に気持ちいいから。
さあ、行こう。
―――わたしは、もう飛べない鳥じゃないのだから。